あの戦いから数年たって

あたしはもう20歳になった

そして世界は何事もなかったように平和だった


きっと誰もが忘れていくのだろう

そして思い出にしていくのだろう


最後には歴史の一つとして誰もが何も触れる事のないものになるのだろう


思い出になんかしない

私は忘れない

決して忘れられない




たくさんの願いと

たくさんの想いがぶつかり合い

たくさんの涙

そして、血の流れた


この戦いを・・・














call番外編1【奇跡と軌跡】















「時間ぐらい守れよなディアッカ、

アスランが入り口の前で腕を組んでいる

「悪かったって言ってるだろ!!」

「こいつらは時間分からない馬鹿だからな!」

「全くも一緒だって言うのにどうして30分も遅刻するかな」

「もう、昼ご飯はあたしとディアッカで奢るから!許してって!!」

イザークとアスランは相変わらずライバル意識こそあったが、前のようなギスギスした雰囲気はまるでない

ディアッカは相変わらずの飄々とした態度で一体いつ本気なのか分からない

今の私たちはもう軍服になど囚われていなかった

それでもあの時が懐かしいとさえ思える

何故なら自分は違うけど男の子たちなんて、どんどん昔の面影を捨てていくから

みんな背が伸びて顔つきが変わって大人びて、すべてが変わっていくようで

それが最近では少し悲しかった




四人が揃うと門をくぐる

ここはマテュース市郊外の墓地

目的はもちろんお墓参りだった

戦争が終わったあの日

その日を生き残った自分たちの約束の日にした

それから何年もこの約束は誰も破ってはいない

ニコル

ラスティ

ミゲル

ほかにもたくさんの仲間が死んだ

彼らが死んだときの悲しみや悔しさを忘れてはいけないと思う

その気持ちは絶対に忘れてはいけないのだ

他愛もない話をしながら奥へと進む

「あ・・・れ?」

アスランが首をかしげた

「どうしたんだ、アスラン?」

「止まらないでくれる?」

イザークとディアッカが一番先頭で立ち止まるアスランの脇から顔を出す

「・・・いや、花が添えられてるんだ、オロールの墓に・・・」

「だからって別に何も珍しくないだろう?誰かが来たんだろうなきっと」

イザークは添えられている花の横に自分たちが買ってきた花を添えた

「いつまでもボーっとしてるなってアスラン。イザーク行っちまったぞ」

「うん、いや・・・」

それでもアスランはその花から目を離そうとはしなかった

「これさ、ニコルが発表会にしてたコサージュと同じ花だね」

も気が付いた?」

「うん。あれ、あたし大好きだったから」

「・・・偶然の一致だよね。駄目だな、ここくるとぐっとくる」

「仕方ないわよ、みんな現実だったんだから。あたしなんかこれ見たとき涙一歩手前よ」

あたしはアスランと顔を合わせて笑いあった

「貴様ら!!いいかげんにしろ!!早く来いと言ってるだろうが!!!」

「ははは、久しぶりに聞いたな、あの癇癪声」

「いいわね、あたしなんか、まだまだしょっちゅうよ」

そういいながら今度はスロープを上り始める

途中途中にも花を添えていった




「この花、俺たちの前、ずっと歩いてる気しない?」

さすがに回り始めてしばらくたつと誰もが思っていた疑問をディアッカが口にする

「・・・そうよね、さすがにこれは怪しい」

今度はミゲルの墓にも同じ花があった

その前もその前も

オロールから始まり今のミゲルに至るまでずっとだ

アスランも眉を寄せた

「全部、同じ花だし・・・ね?」

「ふん、この頂上のニコルの墓に行けばなんなのか分かるだろ。

 あんなところ冗談で花をあげに行くやつはまず、いないだろうからな」

「ね。もしかしたらニコルのおばさんかな?」

「・・・そうかもしれんな」

イザークが頂上を見ながら眉をひそめる

ほとんど回ったがニコルの墓だけはここから格別な場所にあった

小高い丘の頂上

なかなか体力のいる場所にあるため悪戯ならここで終わってると思ったのだろう

そうでなければ誰かの遺族しかない

それにはみんなも賛成だった

でも、どうしても何かが引っかかる



ずんずんと進んでいく途中でディアッカがぼそりと口を開く

「何とかと煙は高いところが好きって言うけど、こんなところに作らなくてもいいんじゃない」

「じゃあ、あんたの墓は天井から吊るさないとね」

「・・・どういう意味だよ」

「いっそのこと宇宙へ投げ出せばいいだろ」

背中を向けたままイザークも口をはさむ

穏やかなとき

きっとこれがあたりまえの生活なのに

それでも何かが足りない

足りない笑顔が多すぎる

そうして歩いていくうちに両脇に茂る木々が途切れて光が差し込んできた

暖かい日差しが先頭にいたイザークの銀髪をキラキラと揺らす

優しい木々に囲まれた、このマテュース市が一望できる丘

毎年思うのだがここはニコルにぴったりだと思う

むしろここがニコルそのものを現しているようだった

「ぶっ!!」

物思いにふけっていると目の前のイザークにぶつかった

「イザーク!立ち止まらないでよ!!」

返事が返ってこない

「イザーク?」

脇からイザークの前に立つとその視線はあたしを通り抜けて前を見続けていた

「??アスラン、ディアッカ、イザークがおかしいんだけど・・・って」

周りを見るとイザークはおろかディアッカやアスランも硬直したように固まっている

「何よ・・・あんたらみんなして、そっちに何が・・・」





丘に風が吹き抜ける





ニコルのお墓の前には車椅子の少年がいた

ふわりとした緑の髪の毛を風に揺らしながら

あたしたちが謎に思っていた花を添えているところだった

「ニコ・・・ル?」

やっと搾り出した言葉はそれだった

その言葉に反応したのか用事が終わったのかその少年は車椅子を起用に反転させる

ぱちりと目が合った

「あ、こんんちわ」

その声は





「はじめまして、ニコル・アマルフィです」





まさしく忘れもしないニコルと同じトーンで

あたしはなんだか怖くて隣にいたイザークの袖を握った

私たちはそのまま見ているしかなくて誰も動けない

少年はゆっくりと車椅子を進める

誰もその動きから目を離すことができなかった

進みだした車椅子の車輪がレンガの隙間に挟まる

少年はぐらりとバランスを崩した

「あ・・・」

「危ない!!」

あたしは倒れていく車椅子を支えようと駆け出した

がしゃん

と大きな音を立てて車椅子は倒れ

少年は間一髪のところで受け止められた

受け止めてみて分かったが思っていたよりもぜんぜん軽くて驚いた

その音に後ろでほうけていたアスランたちも我に返り駆け寄ってくる

「大丈夫か?」

ディアッカが車椅子を起こした

「あ・・・ありがとうございます」

少年は少し驚いた顔をしたあと自分が助けてもらったんだと分かりにっこりと笑う

その笑顔はあまりに・・・

あたしは何にもいえずに思わず少年を抱きしめてしまった

「え・・・あ、あの!」

少年は急に抱きしめられたことに慌てているのは分かった

でも

「・・・ごめん、ごめんなさい。」

「え?」

「・・・

「少しだけこのままでいさせて」

そのあと少年は何も言わず抱きしめさせてくれた

あたしは涙を堪えるので精一杯だった





それからしばらくしてディアッカが声をかけてあたしはしぶしぶ手を離した

イザークが少年を抱えると車椅子に乗せてあげる

「すみません」

少し探すようにしてイザークに視線をやると少年はまたにっこりと笑った

あたしはその瞳に何か違和感を感じる

「・・・もしかして、目が見えないの?」

「はい。実は大きな事故にあったらしくて今まで眠ってたらしいんです

 その事故の後遺症で足と目が・・・」

「あ、ごめんなさい・・・」

「いえ、これで別に困ったりとかしてませんから!」

「おいおい、もうここでこけて困ったりしてるでしょうが」

ディアッカが腰に手をやって少年の頭をくしゃりと撫でた

「あはは、そうですね。すみません」

「下から供えてあったあの花は?」

「はい、あれは僕の大好きな花なんです上げたところはまだらで申し訳ないんですけど」

無意識だったのだろうか

少年が置いていった花はニコルが知る、戦友の墓だった

「車椅子でここまできたって言うのか?」

「それじゃ大変だっただろう?」

「でも、天気もよかったし別に苦じゃありませんでした」

「へぇ、結構根性あるじゃん!」

車椅子の少年を囲みアスラン、イザーク、ディアッカが笑っている

いま、あたしの目の前にあその光景は

あのときに戻ったようで

あたしはみんなが赤い軍服を着てる姿がダブって仕方なかった

この少年をニコルに置き換えるなんて失礼だと思う

あるはずのないあたりまえの光景にあたしは

そんなことを忘れて泣いていた

「泣いてるんですか?・・・あ、もしかして僕を支えたときに怪我でも?」

「ううん、ちがうの。うれしくて泣いてるの・・・何でもないから」

少年は意味がよく分からなかったらしく首をかしげていた

それから空を仰ぐように上を見上げる

「あの、僕、夢を見るんです。

 たくさんの人がいて、大好きな人がいてすごく幸せな夢なんです

 僕はあなたたちの顔はわからないんですがすごく、似ている気がするんです

 皆さんの声がひどく懐かしく感じるんです・・・おかしいですよね?」

その言葉にあたしはもっと涙が止まらなかった

「そんなことないよ、そんなことないから・・・」

ディアッカが側によってきて肩を抱いてくれた



もしかしたらニコルなのかもしれない

証拠も何もないけど

あたしの心には

アスランたちの心には

確信があった



「あたし、今日あなたに会えてよかった」

ゆっくりと少年を見た

少年はまたあの時、初めてプラントで会ったときと変わらぬ笑顔を返してきてくれた

「・・・僕もそう思います」

手を取って温もりを確かめる

「僕、ついこの間、目がさめたんです。何年も眠ってて・・・目を覚ましたら記憶もなくしてて

 お腹の傷、すごいんですよ。まっ二つって言ったら大げさですけど

 ここに来たいって言ったとき医者には無茶だって怒られました

 でも本当の事言うと、ここにくれば誰かに会える気がしたんです

 ううん、こなきゃいけない気がしたんです」

「・・・うん、うん」

「あなた達に会うためだったのかもしれませんね」

あたしは涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げられず握っていた手に力をこめた

「よかったら俺たちと友達になろう?」

そういったのはアスランで

「ま、みんな金持ちだから色々お得だぜ!」

「あはは、そうなんですか?」

「そうだな、否定権はなしにするぞ」

「そんな、僕のほうこそ友達になってください」

決定だな、とディアッカが笑った

「ほら、そろそろ泣き止みなよ」

「さ、ちゃんと自己紹介しろよ」

アスランとイザークがあたしの背中を押した

あたしは必死に袖でぐしゃぐしゃの顔を拭う





彼と対面するのは二回目


「女の方で赤服なんてすごいですね!」

「え?そんなこといってる君だって赤着てるじゃない?」

「・・・でも僕はそんなにすごくないですから」

「必ず三位には入ってるのに?」

「え?僕の事知ってるんですか?」

「うん、まあね。あたしあのおかっぱと黒いの苦手。でも君ならいいや」

「え?」

「友達になろう?」



またはじめましてがくるなんて思ってなかった

それ以上にまた話せるなんて思っていなかった

「はじめまして、あたしって言うの」

そういうと少年はにっこりと笑い







「こちらこそ、はじめまして。僕は・・・」







もう一度丘に優しい風が吹いた















「あたし、・クラインよ。これからよろしく」

「はじめまして、僕ニコル・アマルフィです!よろしくお願いします!!」






軌跡を越えその手がまたつながれる奇跡











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