「あんた、何してんのさ?」 「あ、こんにちわ」 俺の質問を全く無視するような返事が返ってきた 「・・・コンニチワ」 一応、挨拶はされたので社交辞令で返しておく 相手はにっこり笑ったままだ (別にそんな事聞いてるわけじゃないんだけど・・・) おれは大きく溜息をついた それが出会い 君の名を 宇宙から休暇や修理以外でプラントに戻ってくるのは珍しい 今回の名目は訓練だった 「まったく、かったるいよな〜」 俺は至極退屈そうに背伸びをして隣りにいたイザークに目を向ける 「ふん!こんな事をしている間にナチュラルを・・・」 「あ・・・イザーク知ってた?この訓練、ガモフも合同だってさ」 イザークがコチラに顔を向けた 表情はさして変えなかったが目が違った (・・・わお、怖いな・・・) その目はきっとアスランへ向けられたものだろう アスラン・ザラ イザークのライバル(ちなみに一方的) ・・・むしろ、一番になると言う事への執着心は本当にすばらしいと思う 人を巻き込まなければ イザークも努力はしている(こっそり)んだが、いかんせん激しいプライドが必死の粋まで達しさせようとしない (ま、その情熱が尊敬だよ) 適当にやって、楽しんで、上手く取り入って、上部にいければ、と思っている自分にはすばらしい志だと思った 自分には上昇思考があるくせにこの性格はどうにかならないかと溜息をつく でも、俺は俺なりにやるってことだよね 見上げたプラントの空は憎いほど青かった ドン 「わ!」 「おっ!」 呆けてそんなことを考えていると正面に何か当たった 正しくは、足元に何か当たった 躓いて崩れたバランスを取り戻す 「何をしている、ディアッカ」 ぶつかった衝撃よりも少し前を歩いていたイザークの声に我に返った 「いや、何か大きいものが落っこちて・・・」 何につまずいたのか確認しようと目を落とすとそこには 「あいたたたたた・・・・」 「あれ?」 一般兵服を着たやつが床に転がっていた 俺の足がわき腹に当たったのかその辺りをさすっている 「・・・どう見ても人だぞ、お前」 言わなくても分かってる とイザークに反論しようとしたが止めた 俺は頭を掻くと大きくため息をつく 「あんた、何してんのさ?」 「・・・ん、いやちょっと落し物をしてしまってたんで」 「で、地べた這いつくばっていたわけね」 そいつは同年代にしては少し高い声でそう答えた かがんでいるのではっきりとは分からないが身長もニコルと張れるぐらいだろう それにしても俺たち赤服がいるのにさっきから一度も顔を上げない (こういうやつも珍しいな) どうしてだか去るタイミングを逃してしまった俺とイザークは 地べたを這いつくばりながら何かを探すこいつの脇で壁の寄りかかり立っている 間近に赤服がいるにもかかわらず何の反応も返ってこないのも面白い こいつが探してるものが何なのか 俺はただの興味だけで見ていた 隣のイザークは何やら難しそうな顔をしていたが・・・ (・・・次の訓練でどうやってアスランを倒そうか考えてんのか?) 「あ!」 その声に俺とイザークは目を落とした 「あったの?」 「足どけろよ!!」 そいつはこともあろうか俺の脛、別名「弁慶の泣き所」を思いっきり殴ったのだ 「いってぇぇぇぇぇ!!!」 油断していた俺は思わず声をあげ脛を抱えた 「よかった〜なくしたらどうしようかと思ったよ」 俺の痛みをほっておいて見つかった喜びにそこらへんを飛び回っていた 手にはおもちゃの指輪が握られている ・・・おい、てか謝るぐらいしろよ 「お前な!!」 「・・・?」 その声にそいつはやっとはじめて俺たちのほうへと顔を向ける しかし、俺の顔を見た瞬間難しそうな顔をして首をかしげた 「・・・あれ?」 「な、何だよ」 「久しぶりだな」 イザークが俺のわきから顔を出す そいつの顔がぱっと明るくなった 「イザークにディアッカ!」 え? 俺たち知り合い? それからなんとなく俺は面白くなかった イザークとそいつはなんだか楽しそうに話している 俺は混じれない雰囲気だった 「お前本当に覚えていないのか?」 不意にイザークに話を振られて俺は動揺する 「お、覚えてるって何を?」 「ほらね言ったじゃん、イザーク。ディアッカが覚えてるわけないって」 「いや、いくらこいつでも女のことだったら、覚えてると思ったんだがな」 「あたしを女だと思ってないんじゃないの?」 少し低い声で馬鹿にしたように眉を寄せる 「・・・ってお前女なの?!」 「ほらね」 イザークは腕を組んであいつは肩を上げて大きくため息をついた 「分かるわけねーだろうが!女の癖にズボンじゃないかお前!!」 「あたしパイロットだもん。あんなのはいてたら動きずらくって」 俺は舌打ちをした 「名前は?したら思い出すだろ」 「いーや。自力で思い出しなさいよ」 イザークも口止めしておくから、とにっこりと笑う 「あたし、明日出撃だから帰ってくるのは4日後かな。それまでが期限、頑張って思い出しなよ〜」 5日目・・・俺らがプラントにいるぎりぎりじゃん 「分かったよ。じゃ、そん時までに必ず思い出すからさ」 なんとなく必死だった イザークが覚えてて俺が覚えていない それ以前にひどい罪悪感があって それから色々悔しかった 「はい」 「なにこれ?」 「知らないの、指きり?」 そうじゃねーよ、と顔をゆがめた 「あたしが帰ってくるまでに名前を思い出さなかったらクルーゼ隊長の仮面を取ってこさせるからね」 「・・・なんだよそれ」 「これなら絶対思い出すでしょ?」 その差し出された指は細くて、やっぱり女の指だった おれは胸がやけに大きく脈打つのがムカついていた 戸惑って少しだけ出した指をあいつは引っ張ってしっかりと絡めさせる 「それでは、また四日後」 約束の時間はとっくに過ぎたはずなのにあいつは姿をあらわさなかった (時間やばいな・・・結局、名前思い出せなかったし・・・) 時計を見ると出発まであと4時間もない 俺は肩で大きくため息をついた パキ つめを噛む 向こうからブーツの音がした 何人もここを通ったから期待はしていなかった 目をつぶって足音を感じる 足音は俺の前で止まった 薄っすら目を開けるとそこには白いブーツ 赤服を着た同僚 「何だよ、イザークか・・・」 俺はがっくりと肩を落とした 「あいつまだ来ないんだよね。もうすぐ出発だったのに・・・このまま来ない気かね」 困ったように眉を寄せイザークの顔を見るとイザークがひどく真剣な顔をしている 「何、真剣な顔してんだよ、イザーク?もしかしてまたアスランにでも負けたとか?」 いつもなら怒鳴るなり突っかかるなりしてくるイザークが俺の顔を見たまま表情すら変えない 厳しい顔で 悲しそうな目で 「あいつならこ来ないいぞ」 「は?」 思わず間抜けな声を出してしまった 「先日の出撃でハルバートンの艦隊と応戦したんだ。バルザック隊のジンは全滅だそうだ」 「ちょ、ちょっと待てって、イザーク!なんの話だよ?!」 俺はイザークの襟首を掴みあげた 「バルザック隊は先ほど艦体のみ帰還だ。パイロットの生存者はいない」 イザークは調子を崩さずに淡々と言う 手が震えた 力が入らない そんな俺の様子にイザークは目を伏せて吐き捨てるように言った 「・・・付いていた隊が悪い・・・バルザックは世辞でもよい隊長ではない 見方を見捨て、敵に背中をむける・・・自分の命が大切な最低な奴だ」 「そんな、だってあいつ・・・あいつ・・・」 「あいつ?・・・お前、まさかまだ思い出していないのかあいつの名前?」 イザークは心底驚いた様に顔を上げた 「ああ、そうか・・・俺が名前思い出せなかったから怒ってるのか、だから姿、表さないんだろ?」 おれは何かにすがろうとしていた 「・・・ディアッカ」 「イザーク、お前らしくないぜそんな冗談。それともあいつとグルなのかよ?」 「ディアッカ!!」 イザークの大きな声が脳に心に衝撃を与えた 長い付き合いならそれが冗談じゃないことぐらいわかっていた 分かりやすいんだよ、お前 もうちょっとがんばれよ 「来るって、約束したんだぜ?四日後って・・・あいつ笑って・・・あいつ・・・」 君の名を呼ぼうとするたびに その声は飲み込まれる 名前は思い出せない 何も知らない ただ、思い出すのは君の笑顔だけ 晴れたそ空のように自分の中身が空っぽになって おれは何にすがりついたらいいかも分からずに立ち尽くした 出発直前、イザークが持ってきた小さな箱に彼女の全てが入っていた 「お前が持っていたらいいだろう」 と乱暴に突きつけられたのだ 中にはあのペンダントトップと小さなアルバムと緑の軍服だけだった 気を利かせたのかイザークは部屋にはいなかった ベッドに腰を下ろすとアルバムを開く 写真は全くない (・・・なんだよこれ) 30ページもないアルバムには写真が一枚もなかった 俺は諦めて最後のページを閉じようとする 「あれ・・・?」 最後に二枚だけ裏返しになった写真を見つけた 一枚目をひっくり返す 「・・・っ」 俺は 言葉を飲んだ 泥だらけで笑う三人の写真 俺と イザークと 「・・・」 改めて呟いたその名は 美しく 綺麗で それでいて、悲しい また涙が止まらなかった 君に聞こえるように 自分を慰めるように 呟き続けた 君の名を この気持ちが愛とか恋とか思いたくない なのに 瞼の裏に広がる君の笑顔 返していないもう一枚が床にひらりと落ちる もう一枚は 「僕、大きくなったらのお嫁さんになる!」 「え〜男の子はお嫁さんになれないんだよ」 「でも、お母さんが言ってたもん!好きな人と一緒にいたいならお嫁さんになるんだって」 「じゃあ、あたしがディアッカのお嫁さんになってあげるから!そしたらずっと一緒でしょ?」 「じゃあ、これ約束のしるし」 「ダイアモンドだ〜!!」 「僕とがずっと一緒にいられるようにって」 俺は約束も君の名前も ガラスのおもちゃの指輪がダイアモンドとさえ信じて疑わなかったことさえ すべて忘れていた それは大人になっていく自分を思い知らされる そして俺はまた君の名を呼んだ |