...web拍手お礼SS.1
[ラスティ/ラクス/イザーク/アスラン/ニコル]




皆がラスティを馬鹿だと言う。





何の気もなく廊下で外をみていた。

真っ黒い宇宙に穴がいたように星が煌いている。

さっきの戦闘でジンが三機も落とされた。

彼らは何処へ行ってしまったのだろうか。

この闇に吸い込まれてしまったのだろうか

「この宇宙(そら)の果てに何があるんだろうね」

「わ!!」

急に肩を抱かれて驚いて声を上げてしまった。

「ラスティ、ビックリするじゃない!!」

「それが狙いですから」

「・・・悪趣味。」

じとりと睨み付けたが、ラスティにそんな攻撃はきかない。

ラスティは鼻歌を歌いながら自分の隣へ立った。

「ねぇねぇ見てみなよ、あれがロィル、あっちがジュドー、でもってそれがキングス」

上げられた名前は全てさっきの戦いで死んでいったものだ。

怪訝そうに眉を寄せた。

「何言ってるの?」

「皆、お星様になったんだよ。でも、大丈夫。悲しくないよ、皆そこにいるんだから」

そう言って星星を指す。

ね、とにっこりと笑った。

どうもこの笑顔には弱い。

「・・・ったく、ばっかじゃないの」

「ねぇねぇ、ちょっと俺、詩人ぽかった?」

「ああ、ラスティ、あんたは大者なるわよ」

馬鹿馬鹿しくなった私はラスティの肩をぽんぽんと二回叩いた。

「あはは、世界が俺を呼んでいるのだ!」

あははと笑うラスティにつられて私もいつの間にか笑ってしまっていた。

そして、死んでいった彼らの事を思い出し、涙が零る。

「わたし、何にも出来なかった」

宙を舞っていた水の玉がラスティの頬にぶつかる。

慌てて涙を擦った。

「俺も死んだら星になるんだ。その予定」

「・・・死ぬなんて言うな」

「星になったら、こうやってそばにはいれないけど、いつでも見てられるよ。

 だから、泣きたい時は泣いてもいいんだ」

「泣かないわ。それにあんたは殺したって死なない。・・・死なせないわよ。」

「強情っぱり」

「なんとでも言いなさい。」

ずずっと鼻をすすった。

ラスティは汚いなーとまた笑った。

私は踵を返すとラスティを指差した。

「あんたが泣きたい時はあたしは笑ってやるからね!!」

「期待してますよ〜」

間延びした声で返事を返すラスティがいつもと違った顔で笑っていた。

本当に嬉しそうに

それが交わした最後の言葉。

私はガモフへ戻り、その2週間後、ヘリオポリス行きが決まった。





皆がラスティのことを馬鹿だと言う。

いつでもへらへらしていて、お調子者で、

それでも皆に好かれている。

なぜなら彼の行動全てが相手のことを考えてるからこそなのだ。

私はそんな彼を愛すべきいとおしいバカだと思っている。







久しぶりの休暇は同僚たちの言葉を振り切って真っ先に家に帰ることにした。

玄関で私を迎えてくれたのはラクスだった。

いつものように変わりのない微笑みで迎えてくれる。

「ただいま」

「おかえりなさい」

軽く抱き合い、お互いの頬にキスをした。



庭のテラスにティーセットを並べて準備は万端だ。

久しぶりにしては上手く焼けたスコーンとラクスの入れた美味しいお茶が並ぶ。

「最近はどうですの?」

「あまり思わしくないよ。状況は平行線。」

「そうですの」

そう答えたラクスはすぐにおかわりは?と聞いてくる。

ありがとうとカップを差し出した。

「戦いは激化するばかりで決着をつけようとしない

 どちらもどれだけ犠牲が出ればすむんだろう」

受け取ったカップを握りしめた。

自分がザフトに入隊したのは紛れもない、この姉、ラクスを守りたいと思ったからだ。

プラントを守ればラクスも守れる。

だから戦うと決めた。

でも、現実は違った。

戦うと言う事は何かの犠牲があるのだ。

その犠牲にならないため、死なないために戦い続ける。

例え、誰かを殺しても。

カップを持っていた自分の手が赤いような気がした。

「何処まで行っても自分が可愛くて、自分が正しい」

ラクスは優しい微笑を浮かべたままこちらを見ている。

「人間なんてそんなもんだよ。愚かだ」

戦争に行って知ったのはこんな事だった。

これでは何をしに行ったのかさえ分からない。

ラクスはゆっくりとカップを傾けた。

「それでも、わたくしたちは人間ですわ」

わたしはきょとんとした顔をラクスに向ける。

にっこりと笑った。

「その愚かさも、愚かさに気付くのも人間ですわ」

そうだ。

考える事ができる以上、すべてのことを考えて正しいことを選ばなければいけない。

もしそれが間違っていたとしても、それを過ちと認める勇気をもたなくてはいけない。

それは自分が人間だから

「ラクスはやっぱりすごいよ」

「そんなことありませんわ」

ラクスはそう言ったが、わたしは心からそう思った。

ラクスはいつだって私の道しるべになってくれる。

憎しみだけで前を向いている人達にこの言葉はどれだけ届くだろう。

「あーアスランには勿体無い。わたしが男だったら絶対ラクスと結婚するのに」

「まぁ」






「あなたは何を思って戦いますの?」

出発前はその質問に戸惑ってしまった。

しっかりとした意志があって戦っていたはずなのに言葉が出てこなかった。

でも

今は違う。

またラクスに会えるとしたら、しっかりと伝えたい。

「守りたいものがあるから」









「おいおい!ちょっと待てって、イザーク」

「のろのろ歩いているな!」

「お前が早すぎるんだっての!あいててて」

そんな声が廊下の角から聞こえてきた。



「あれ?ディアッカにイザークじゃん。どうしたの?」

前だけを見ていたイザークははじかれたようにこちらを見る。

「忙しいんだ。声をかけるな!」

(・・・だったら無視すればいいのに)

「よう!・・・イザーク機嫌、悪いんだよ」

すぐさま後ろから来たディアッカが肩を叩き、こそっと耳打ちをした。

「何、イザーク生理二日目?」

「お前ねぇ、そーゆーのは女のいうことじゃないだろう?」

「失礼しました」

わざとらしく肩をすくめ敬礼をする。

へいへい、とディアッカも適当に返した。

「で、どうしたわけ、イザーク?午前中の訓練でなにかあった?」

「あったのはどっちかって言うと俺」

「じゃあ何でイザークが怒ってるの?あんたのせいでイザークも巻き添えを?」

「なんにもしてねーっての!第一、俺は怪我してんだよ、あいちちち」

そう言ってディアッカは眉を顰めながらわき腹を押さえた。

「・・・ふーん。あばらでもやったの?」

「そ。あーしくった。で、医務室から帰ってきたらあの調子」

「へー」

「なんだよ、その気のない返事」

いや、別にと首を振った。

時計が一時を回った事を知らせる。

「なーるほどね」

「なにがだよ?」

「あーいやいや。全くもって損な性格だと」

「はぁ?」

一人で納得をしているのか気に入らないのかディアッカが唇を尖らせた。

「早くしろ!!」

少し前で止まって待っていたイザークが金繰り声を上げる。

「はいはい行きますって。じゃあ、わりぃな、また」

ディアッカは手を合わせると床をけった。


(いつもランチは必ず12時なのにね)

大体、イザークの思考が読めた。

おそらくディアッカの心配でもしていたのだろう。

自分のランチの時間を忘れるぐらい。

意外にけろりとして帰ってきたから安心したのはいいが、

照れ屋な彼はそれを隠すためにああやってわざとやっているのだ。

全く素直じゃない。


「イザーク!!」

「急いでると言っているだろうが!!」

呼ばれた声に怪訝そうに振り向いた。

反応しなくても良いのにきちんと返答をするところも彼のいいところだ。


「本当は優しいくせに!!」


手前にいたディアッカはこれでもかと言うほど目を開き、

最初は唖然としていたイザークはこれでもかと言うほど赤くなった。

「き、き、き、き、き、貴様ぁぁぁぁ!!!!!」

「あはは、じゃあね!ランチいってらっしゃーい」

手を振って軽く地面をけった。

イザークたちとは逆方向に

距離があったので難なく逃げる事に成功する。



遠くでイザークが怒鳴りながら自分を呼ぶ声が聞こえた。

今はこんな毎日だけど決して悪くないと、さっきの二人の顔を思い出す。

嬉しくて楽しくて頬を緩ませた。







時に眠れない日もある。


アスランはそう思いながら、宇宙を見上げキーを叩いていた。

何が目的と言うわけでもない。

眠れないから、ただ何となく叩いていたのだ。

まだ、あまりなれていない宇宙空間のせいもあるのだろう。

「・・・駄目だ」

そう言って、アスランはキーを叩くのをやめた。

何となく叩いているだけだったが、集中できないとその手もとまってしまう。

手元にあったドリンクに手を伸ばす。

「あと五時間後にはまた訓練があるのにな」

ため息をつくと大きく腕を回した。

別に訓練は辛いわけではなかったが、こうも体を休められないと不安もつのる。

ふとイザークを思い出した。

彼はアカデミーの時も今もすきあらば上を狙おうとしている。

自分を倒して。

こんな状況では負けてしまうかもしれない。

(・・・それは嫌だ)

ザフトへ入隊して初めて負けず嫌いな自分に気付いた。

どんな事でも負けるのは悔しい。

でも

一人だけそういうことを感じさせない人がいた。

(きっと、今は休んでるだろうな)

そう思って、もう一度大きなため息をついた。

シュ、と扉が開く音がする。

「あれ?まだ起きてたの?」

その声の主は先ほど思い浮かべた少女だった。

「それはそっちも同じだろ?」

「あはは、あたしは今まで寝てたんだけどね、のど渇いちゃって」

アスランの隣へ腰掛けると「いただきます」と言ってアスランのドリンクに手を掛ける。

アスランも慣れているのか気にする様子もなく、どうぞと言った。

「何してたの?」

「ちょっと、調べ物」

「ふーん」

興味があるのかウィンドウを覗いてくる。

「でも、もう終わらせようと思って」

「そうだよね。もうすぐ訓練もあるし」

「今回はMSのシュミレーションだよな」

「そうそう。イザークたちをぎったんぎったんに・・・」



「・・・スラン、アスラン?大丈夫」

「あ・・・うん」

名前をよばれて、自分がうつらうつらしていた事に気がついた。

隣にある体温が温かくてアスランは眠気に襲われていたのだ。

「寝るなら自室に戻った方がいいよ?」

「ああ・・・うん。・・・ごめん少しだけいいかな?すごく眠く・・・て・・・」

その言葉は最後まで伝わる事はなかった。

重くなっていた瞼は抵抗もせずに閉じてしまったのだ。

船を漕いでいたアスランはこちらへ身を寄せてくる。

それから間もなく穏やかな寝息が聞こえてきた。

「おいおい、寝るの早いって」

アスランの鼻をつまんでみたが反応はない。

悪戯心を刺激されたが、あまりに気持ちよさそうなので色々考えたがやめた。

「ま、今日だけは勘弁してあげましょうか」

そう言って大きく背伸びをする。


「じゃ、おやすみなさい」

アスランの方に身を寄せた。

すごく温かい。

そのまま二人は身を寄せ合うようにして眠った。







私の悲鳴が響いて

ニコルの体がどさりとおちた。

目の前が真っ暗になった。



ニコルが目を覚ましたのはそれから3時間あとのことだった。

痛みを我慢して周りを見渡すとアスランと彼女がいた。

気を失う前に聞いた彼女の声が耳に残っている。

たしか、自分は潜入シュミレーションの途中で、イザークに追い詰められて、

それから・・・

そうだ。

建物の屋上から落ちたのだ。

「大丈夫か、ニコル?」

「あー本当に良かった!!」

目に涙をためながら強く抱きしめてくれる。

ニコルは恥ずかしかったり、痛かったりしたが、

 それより、ここまで自分を心配してくれる事が嬉しかった。

「大丈夫です!逆に心配掛けてしまったようで・・・すみません」

「ニコルが悪いわけじゃないから!!あのおかっぱよ!!!」

「ほら、ちょっと落ち着きなよ」

興奮していた自分をアスランがなだめる。

それでも納得がいかないようにぶつぶつ文句をいっていた。

「僕のせいで作戦失敗ですよね?」

二人の体がぴくりとする。

やっぱりそうなのだろうか

「あの・・・すみま」

シュッと扉が開き、顔を覗かせたのはディアッカだった。

「こっちもやっと落ち着いたぜ」

ディアッカは首を鳴らしながらかったるそうに入ってくる。

「お前らな、ニコルだけじゃなくてイザークの方も見舞いに行けよ。今、ラス」

「え?イザークが?どうかしたんですか」

きょとんとした顔をディアッカに向ける。

等のディアッカは困惑した顔だった。

「え?ニコルお前しらね-の?」

「知らないから聞いてるんじゃないですか?」

「あー俺の口から行っていいものか」

そう言ってディアッカは二人に視線を落とした。

アスランは気まずそうに視線をそらし、彼女は俯いたままだ。

「どうかしたんですか?」

ニコルも聞かずにはいられない。

「いいの?俺から説明しちゃうよ?」

二人は静かに頷いた。

(・・・一体僕が気を失っているうちに何があったんだろう)



それからディアッカはいつもの調子で話をはじめる。

「ま、お前が気を失ってからがすごかったんだ。

 まず、合流地点手前だっただろ?あそこの建物。

 先に来ていたこいつがお前が落ちたところをみていたんだ。」

こいつと言って彼女を親指で指した。

「それでこいつが切れちゃって、落とした奴を・・・まぁイザークなんだけどさ、

 やっつけちゃったわけだよ」

「・・・やっつけた」

にわかに信じられない言葉にニコルは耳を疑った。

「で、ニコルを運んだのが」

「アスランですね?」

その言葉を聞いてディアッカは大笑いをした。

アスランに視線を投げると右手で手を横に振っている。

否定だ。

じゃあ

視線は一気に集中した。

「ま、もう分かってると思うけどこいつだ」

「ええ?!」

「しかも、横抱き。俗に言うお姫様抱っこてヤツだ」

ニコルは昔読んだ絵本の挿絵がふと頭に浮かんだ。

その王子様とお姫様の顔が自分と彼女になる。

王子様が彼女でお姫様が自分。

「えええーーー!!?」

動揺よりもショックよりもまず恥ずかしさが先だった。

ニコルは顔を真っ赤にした。

ディアッカは笑い続け、アスランも笑いをこらえている。

気まずそうに彼女は慌てて顔を上げた。

彼女も真っ赤だった。

「だ、大丈夫だよ!!誰も見てなかった・・・と思うから」

そういう問題じゃない。

ニコルはいいたかったが言葉にならない。

やっとひねり出した一言は


「運んでくださってありがとうございました」


自分が好いている少女を抱き上げる夢はみれども、

まさかその逆があるなんて

ニコルはそのまま後ろに倒れると気を失ってしまった。




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