...web拍手お礼SS.2
[イザーク、アスラン、ディアッカ/レイ/アスラン/ディアッカ/イザーク]




年頃の男の子の中に女の子がいるとやっぱり色々大変よね。

そういったら、それはこっちの台詞だ!とおかっぱが怒った。



「イザーク、入るわよー」

扉の向こうから聞こえてきた声にイザークはすぐさま反応する。

「開いているから、入って来い」

「へいへい、お邪魔しまーす」

イザークは立ち上がり、用意しておいたチェス盤をテーブルの上に用意した。

対戦する用意をしたイザークは簡易キッチンのほうへと消えていった。

きっと紅茶でも入れてくれているのだろう。

(手ぶらじゃなんだったなぁ・・・)

久しぶりに入ったイザークの部屋は相変わらずの閑散とした雰囲気で、

 相変わらずだと頬を緩めた。

ふと、目に入った向かいのベッドに眉を寄せる。

「そこと俺の部屋は別物だからな」

視線の先に気付いていたのか、

 トレイを持ったイザークが自分と同じような顔をしていた。

トレイからは紅茶のいい匂いがする。

イザークは向かいの椅子に座ると丁寧に紅茶を差し出してくれた。

「どうも。相変わらず、片付けないんだ、ディアッカ」

「何度言っても聞きやしない。言うだけ無駄だ」

吐き捨てるイザークを横目にベッドの上に広がるその手の本を見つける。

興味をそそられたのか立ち上がり、ベッドに向かうと手に取った。

「お、おい!」

「わーこんなのも出しっぱなしなわけ?」

手に取った本を捲ると、そこにはには

布面積の少ないグラマーな女の人が悩ましげなポーズでこっちを見ている。

「こういうのが面白いわけね、男の人って」

「お、男、全部が面白いと思っていると思うな!!俺は断じて違うからな!!!」

ふーんと適当に返事を返してページを捲り続けた。

「貴様ぁ!聞いているのか!!」

「わー見て、イザーク。すごいやらしい」

「っ!!!」

布面積がないに等しいページをイザークの方へ向ける。

もともと色素の濃くないイザークは白い肌を一気に赤くさせた。

こういうことに免疫がないのだろうか。

口をパクパクしながら慌てて止めさせようとしている様子がおかしくて噴出した。

「あはは!イザーク赤くなってやんの!!スケベ〜!!!」

「くそっ!そんなもの全部捨ててやる!!こっちへよこせ!!」

イザークの方を向きながら猛然と攻めてくるイザークを交わしながら後退する。

「おいおーい。お前ら、俺の大事な本に何してるんだよ?」

後ろから聞こえてきた声が雑誌を取り上げた。

「あ、ディアッぎゃぁぁああああぁあぁあ!!!」

「な、なんだよ。色気のない悲鳴は」

後ろには腰にタオルを巻いただけのディアッカがたっていたのだ。

腰が抜けたように座り込むと真っ赤になって口をパクパクさせた。

ディアッカがにやりと笑って近づいてくる。

「なんだよ、こういうのは平気で俺の裸は駄目なわけぇ?」

ぎゅーと抱きしめてみた。

「おいディアッカ、貴様!!」

「い、いやぁぁ!やめて!!犯されるぅ!!!」

「おいおい、それは言いすぎでしょ!!」

「どうしたんだ!!」

自分の騒ぎ声を聞きつけたのか、イザークたちの部屋に駆け込んできたアスランも

腰にタオル一枚だけだった。

タオル一枚だけの男がもう一人増えて狂わんばかりの騒ぎようだ。

「いやぁぁ!!早くしまいなさいよ、この変態ども!!!」



のち、露出魔一号、二号としてしばらく呼ばれるはめになったのは言うまでもない。







絶対に負けないと思ってた。

誰にも負けないと思ってた。

なのに、あの男は平然と射撃のテストでわたしを追い抜いた。

綺麗な青い目が余計に腹が立った。



今度は負けないようにと訓練するために朝早く起きたのだが、
 もう訓練所には誰かいて練習をしている。

覗いてみると嫌味なほどさらさらの金髪が揺れていた。

(あいつだ)

レイ・ザ・バレル

間違いないと思った。

あんな金髪はあいつしかいない。

でも、正直意外だった。

生まれつきの才能があるから凡人はかなわないのさ、はん。

とでも言ってそうな顔つきで、こんな影で訓練をするようなイメージがなかったのだ。

(・・・そっか、あいつだって頑張ってるんだよね)

そうやって考えていたのは自分の方で、レイは決してそうではなかった。

膝を抱えてしゃがみこんでしまう。

「泣いているのか?」

その声は聞き覚えがある。

慌てて顔を上げるとやはりその人が正面に立っていた。

「レイ・ザ・バレル!」

先ほどまで射撃場にいたレイが身支度を整えて自分の前にいる。

「泣いていたのか?」

「誰が泣いてるって!?」

「泣け」

「泣かない」

「泣きたいなら泣けばいいだろ?」

「泣いてないって言ってるでしょ!!
 
 あんたに勝って泣くんだから、こんなところじゃ泣かないわよ!!」

そう怒鳴りつけるとレイは少しだけ口元を緩めたような気がした。

どきりとする。

「ならいい。まず、お前は腕が安定してないんだそれを直せ」

「は?」

きょとんとしているとレイはそれ以上何を言うわけでもなくいなくなってしまった。

膝を抱えてしゃがみこんでいた自分を泣いていたと思ったのだろうか。

だとしたら、なんでわざわざ声をかけたのだろう。

(なんだったのよ、いきなり泣けって

 ・・・もしかして、本当に泣いていると思って元気付けてくれた?まさかね)



数日後

「レイ、レイ!午後からの訓練なんだけど」

「お前は得意な教科とそうでないものとの差が激しすぎるんだ」

「だから、レイに聞いてるんじゃない」

「たまには自分で考えたらどうだ」

そんなやり取りを遠くで見ていたシンとルナマリアは大きなため息をついた。

「あー普通なら進んで自分のテリトリーに人を入れたがらないのに」

「どうして、あれで二人して”付き合ってない”とかいえるわけ??」

「まぁ、レイもそう言うタイプじゃないし」

視線をもう一度レイたちに向けると今度は二人でランチを取っていた。

「レイ、あんまり食べないね。あたしの少し上げる」

「別にいい。いきなり食事の量を減らして倒れたら大変だ」

レイも親しいものでしか分からないような小さな微笑みを浮かべている。


「あーもどかしいわね!!あんたのそれは好きなのよ!」

ルナマリアは離れた席に向かって声を上げようとしたが、シンに押さえられ叶わなかった

「ほら、コレばっかりは両人の問題だから」

「だって、見てるこっちが・・・あーもう!シン、訓練所行くわよ!!」








「時間ある?」

アスランにそう声をかけられて、私は一応、悩むふりをしてから頷いた。



夜も遅い。

静まり返った廊下にお互いの特徴をよく表したブーツの音が響いていた。

先ほどからアスランは黙っている。

いつもの穏やかな沈黙ではなく、重っ苦しい嫌な沈黙。

背中に語りかけるように見つめ続けているが、気づく気配は全くない。

(自分から誘ったくせに)

アスランの足が、ひとつの扉の前で止まった。

その扉には見覚えがある。

それは新型MSが開発されている極秘のドックだった。

「・・・ここって立入り禁止なんじゃ・・・」

「ああ」

アスランは短く返事をしてロックを解除していた。

わたしはその様子を見ながら気が気ではなかった。

程なくしてロックが解除され、アスランは臆することなく奥へ進んで行こうとする。

私の手を引いて。

「入ろう」

「ちょっと!アスラン、入っていいわけ?」

聞こえないふりをしたのか、本当に聞こえなかったのか何も言わずに進んで行く。

薄暗かったドックにだんだん目が慣れてきてくると、

その中心に巨大なMSが聳え立っていることがわかった。

真っ暗なドックに酷く映えている赤いMS。

ぽかんとしていたあたしに気がついたのかアスランがこちらを向いて小さく笑った。

「ジャスティスだよ」

「ジャス・・・ティス?」

その意味は

「・・・正義」

アスランはあたしがぽつりとつぶやくと、なんとも取れない表情を浮かべる。

「アス・・・」

「明日、これで早く地球へ発つ。本当はメールか何かを残そうと思ってたんだけど、

 やっぱりどうしても会いたくて」

わたしは驚いて目を開いた。

大怪我をして戻ってきたばかりだと言うのに、もう行ってしまうのか。

その理不尽さに顔をしかめた。

それでいいのかとアスランの顔をにらむ。

その表情が悲しみでいっぱいだったと気づいたときにはぎゅっと抱きしめられていた。

こういうことをするときは、必ずと言って良いほどアスランには辛いことがあったときだ。

裏切られ、失って、それから自分のことを好きなあたしに最後はすがりつく。

決して裏切れないとわかっているから。

確信的ではない。

むしろ、無意識だからたちが悪い。

今回の件もいくつか話は聞いていた。

いずれは結婚する婚約者のラクス・クラインのこと。

一番大切だと言っていた友人を殺してしまったということ。

でも、一介の兵士たちには都合の良い掻い摘まれた話しか聞こえてこない。

いつもアスランについて何か聞くのは第三者からだった。

だって、アスランも何も言ってくれなかったから。

本当は言いたいことはたくさんあったが、

それでも、背中に手を回し、答えるように抱きしめ返した。

今、彼に求められているのは自分だから。

「ありがとう」

ここには二人しかいない。

それなのにその言葉は誰に向けられたものなのかわからなかった。

そばにいるのに

腕の中にいるのに

アスランはひどく遠かった。

涙があふれてくる。

アスランの肩越しに機体を見つめた。

そうして、結局、都合のいい女でしかいられない自分を睨み付けながら、

背中に回していた、もう一度、きつく抱きしめ返した。







ケンカをした。

それはとても些細なことだった。

でも、あたしにとっては大問題だった。

なのに

「なんで、あたしの部屋にいるのよ、あんた!」

怒鳴りつけられた人物は人のベッドの上で横になりながら雑誌をめくっていた。

「これの最新号、読んでなかったから」

ディアッカはそう言って読んでいた雑誌を軽く上げる。

「そういう話じゃないでしょ!!!」

「じゃ、どういう話なのさ?」

再び雑誌を開き、視線はそちらへ落とされた。

それは話を聞く態度ではない。

「出て行って!」

「お前こそ、話がつながってないけど?」

こう言われてカチンとこないやつは神様か天使だ。

「あーもう、出て行って!出て行って!!出て行って!!」

ディアッカの耳を摘み上げ、声を荒げる。

顔を歪めたディアッカがあたしの手を払い、頭を振りながら体を起こした。

「あーもう、分かったから連呼すんな!」

「出口はあっちよ」

顔を背けて、冷たく言い放つ。

「ちっ分かったよ」

「雑誌は置いていってよ」

「・・・へいへい」

ぱさっとベッドの上に雑誌をほおった音がした。

足音が扉へと近づく。

「言いたいことはないの?」

「別に。じゃあね」

そう言ってあっさりと出て行ってしまった。

一人になった部屋は急に温度が落ちたように寒い。

「・・・ディアッカの馬鹿」

あたしは下を向いたままあふれてくる涙をこらえた。


ケンカの原因は”誕生日”だった。

今日はあたしの誕生日。

きっと覚えているだろうと思って一昨日その話をしたら、まったくの知らん顔。

「明後日?何の日だよ」

この始末。

自分がここまで誕生日にこだわるとも思わなかったけど、

あのディアッカが無関心なのは酷くショックだった。


小さくため息をついてベッドへ腰掛ける。

ディアッカがほおった雑誌に目をやった。

「?」

雑誌の上には小さな箱が無造作に置かれていた。

こんなものはなかったと首をかしげたが、すぐにそれが何なのかを理解する。

きれいにラッピングされた箱にあたしの好きな緑色のリボン。

「ディアッカ!!」

しっかりと箱を抱きしめ、扉を開けて慌てて後を追おうと駆け出した。

追いつけないかもしれないけれど、それでも探し出してありがとうといいたかった。

ごめんなさいと言いたかった。

「ハピーバースデートゥーユー。ハピーバースデートゥーユー」

後ろから聞こえてきた歌に振り返ると、ディアッカが扉のすぐ横に寄りかかっていた。

あんな態度をとった自分を怒っているかと思えば、いつもと変わらぬ笑顔を向けている。

「お前ねぇ、あんまり俺を舐めんじゃないよ?」

「・・・だよね。女の子にはぬかりなさそうだもんね」

本当はそんなこと言うつもりじゃなかったのにいつもの癖で憎まれ口を叩いてしまった。

でも、ディアッカは相変わらずの飄々とした笑顔を向けてくれていた。

「どうして、そこで自分て言えないかね、お前は」

そう言ってくしゃくしゃと頭を撫でられた。

「ばかやろー」

「はいはい。もらってくれるんでしょ?」

「当たり前じゃない!も、もらったものは返さないわよ」

「そりゃよかった。左手のここにはめろよ」

ディアッカは左手の薬指に右の指を絡めてにっかりと笑う。


「・・・ばかやろー」







イザークがドックへ顔を出すとゆらゆらと人が漂っていた。

それが誰だかわかると顔をしかめた。

「おい、貴様ぁ!何をやってるんだ」

「あや?イザーク?どうしたの?」

「どうしたじゃない。それはこっちの台詞だ」

イザークは床をけるとそばまで寄っていった。

「無重力って楽しいなぁって」

「・・・馬鹿か」

「いままで地球配属だったから、新鮮で」

にっこりと笑うとイザークはあきれたようにため息をつく。

それでも怒ることはせずにしばらく一緒に漂っていた。

「なんだかさ、もしかしてご機嫌斜め?ジュール隊長?」

「・・・」

「・・・ああ、ご機嫌斜めなわけね、まぁいいけど」

イザークは顔を背けたまま黙っている。

視線はデュエルへと向いていた。

「宇宙での戦いにはなれたのか?」

「え?」

驚いてイザークを見るといつになく真剣な顔をしている。

青い目が強い光を持っていた。

「お前は地上の戦いはエキスパートだと聞いているが、

 宇宙の経験はほとんどないんだろう。」

「まぁ・・・実際、訓練でしか体験してないけどね」

イザークは顔を苦々しく歪める。

「なんか、足手まといだとか言いたそうな顔してない?」

「よく分かってるじゃないか」

「伊達に幼馴染やってないって」


幼馴染で婚約者。

物心ついたときから二人はケンカをしつつも幼年学校でも、アカデミーでも一緒だった。

クルーゼ隊とバルトフェルト隊に配属が離れてしまっても連絡はとっていた。

それなのに二人とも後者のような要素は全く感じさせなかった。

それは同じ隊になった今でもだ。


イザークの端正な顔を見つめた。

いまだに男らしさの薄い、中世的な顔出しだった。

幾分か目に強さを秘めた分、たくましくなったような気がする。

女の子と間違われていた頃が懐かしくて思い出し笑いを浮かべた。

「イザーク」

「なんだ?」

「生きて帰れるといいね」

思いもよらなかった言葉だったのかイザークははじかれたように顔を上げ目を開いた。

「どうしたの?なんか変なこと言った?」

「いいね、じゃない。絶対に帰るんだ。」

あまりにイザークらしい強い言葉に眉を寄せる。

「あたし、弱いから絶対は難しいよ」

「希望なんかにすがるから貴様は駄目なんだ。もっと自信を持て」

「イザークみたいには考えられないって」

あはは、と声を上げて笑うとイザークは急に真剣な顔になった。

男の目だった。

その目に吸い込まれる。

「俺が守る」

驚いて顔が熱くなった。

「じ、自分で精一杯なのによくそんな事言えるわよね!」

赤くなるのを隠そうと声を大きくしてごまかそうとする。

自分の胸が大きく鼓動を打っているのは聞こえてしまわないか心配だった。

自分の中で幼馴染が男に変わる。

おかしなようで怖くもあった。

「・・・まぁ期待はしないでいるから。死んだら天国で待っててあげるわよ、婚約者だし」

「はん、天国に行けると思っているのか?」

向けられた笑顔はいつものものに戻っていた。

急に落ち着いた反面、少し残念なような気がした。

「ははは、天国で会えると良いね」

「ふざけるな。俺はまだやるべき事がある。

 それまで、あいつらに会うわけには行かないんだ」

「それは同感」

にやりと、ロマンチックのかけらもない笑みを交し合い二人は手の平をぶつけた。


大きな戦いが再び始まる。

でも大丈夫だと思えるのは、隣にあなたがいるからだろう。




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