もう、潮時だとバルトフェルトは理解をしていた。 この戦いももう結末は決まっているのかもしれない。 (なんと悲しい戦いだったか) 小さくため息をつくと横目で足を切ってしまったガイアを見つめる。 バルトフェルトの思考を見抜いたようにアイシャが微笑んだ。 「彼女、傷付いて泣いてるわよ、アンディ?」 「生きて帰れたらちゃんと謝るさ」 「そうね。そしてらわたしも一緒に謝ってあげるわ」 アイシャの笑みにここが戦場でなければ、キスの一つでもしたいのに、と笑う。 そしてバルトフェルトはレバーを傾け、優しい目で未来ある少女を見送った。 どうかこの声が 貴方に どうかこの声が 君に 届きますように もう一つ遣り残したことがあったと通信を開いた。 「ダコスタくん」 『隊長!!』 被弾してしまったレセップスのダコスタはバルトフェルトの顔を見て安堵の表情を浮かべる。 次の得策を待っているのだ。 期待にそえられなくて申し訳ないとバルトフェルトは肩をすくめた。 「退艦命令を出したまえ」 その命令にダコスタは息を飲む。 そんなことがあるわけないと言いたげだ。 諦めることも大切なのだと分かってほしい。 「勝敗は決した。残存兵をまとめてバナディーヤに引き上げ、ジブラルタルと連絡を取れ」 「しかし!!」 「それからを回収してやってくれないか?片足がないから身動きが取れないのだよ」 「隊ちょ」 伝えることは伝えたとバルトフェルトは回線を一方的に切った。 「困った人ね」 呆れたように、愛しそうにアイシャは笑っている。 「君も脱出しろ、アイシャ」 「そんなことをするぐらいなら、死んだほうがマシね」 何かを揶揄するようなアイシャの口調に、その真意を悟ったバルトフェルトは微笑んだ。 「君も馬鹿だな」 「・・・何とでも」 二人は微笑み合う。 最後の時を共有できるのならそれもいい。 「では、付き合ってくれ!」 ラゴゥは一気に加速する。 その先には宿敵、ストライクの姿が。 キラには不可解なことが多すぎた。 貫かれなかったソード。 そして ラゴゥが白い機体の足を切断をした。 これ以上自分たちを戦わせないようにするためにも思えた。 都合のいい癇癪かもしれないけれど、少なくとも戦う手段を失った敵とは戦う必要ないからだ。 (・・・バルトフェルトさん、それでも僕はあなたと戦わなくてはいけないんですか?) 迫りくるラゴゥを見てキラは眉を寄せる。 もう遅い、無理なのかもしれないと分かっていてもキラは回線を開いた。 「バルトフェルトさん!!」 『まだだぞ、少年!』 その声は迷いのない、厳しい声だった。 『言ったはずだぞ!戦争の終わりに明確なルールなどない!』 搾り出すようにしてキラは再び名を呼んだ。 「バルトフェルトさん!!」 それは悲鳴にも似た叫びとなる。 ラゴゥはストライクを切り裂こうとビームサーベルを掲げた。 ストライクは間一髪のところでそれをかわす。 着地したラゴゥが身を翻してこちらを向いた。 少し間をおいて静かなバルトフェルトの声が通信に入ってくる。 『君にとってあの子は敵かい?』 キラはすぐにあの子が誰なのかを理解する。 『君を殺さない、あの子は敵なのかい?』 あの時、は自分を殺さなかった。 敵である自分を殺すには十分すぎる好機だったはずなのに。 (でも、は殺さなかった。) それは何を意味するのか。 バルトフェルトは何を言いたいのか。 キラがその答えを出す前にラゴゥは再び旋回して再びストライクへと向かってくる。 キラは動揺しながらもアーマーシュナイダーを抜いた。 『だが、君とボクは敵だ。』 一層力のこもった声にキラは唇を噛んだ。 『戦うしかないだろう?互いに敵である限り、どちらかが滅びるまでな!』 どちらかが滅びるまで。 それが定められた運命なのだろうか。 アーマーシュナイダーを握る手に力がこもる。 目の前に迫りくるラゴゥ。 大きな火花が散った。 お互いの機体が交差して砂煙が舞い上がる。 直後、ストライクはラゴゥの攻撃を受け吹き飛ばされた。 キラは衝撃に顔を歪める。 動かなくなってしまったストライクからゆっくりと顔をあげる。 正面にいたラゴゥも動かなくなっていた。 アマーシュナイダーが刺さった箇所から火花が飛び散り、そこから誘爆し始める。 ラゴゥはゆっくりと崩れ落ちた。 そして、耳を劈くような爆発音が響き渡る。 砂漠は燃え上がるラゴゥの機体で赤々と染まった。 それはまるで血に染まるかのように。 「僕は・・・」 こんなことがしたかったわけじゃない。 ・・・殺したかったわけじゃない。 そう言いたかったが言葉が続かなかった。 漏れてくるのは嗚咽ばかりだった。 そして、 そして、ノイズに混じっての悲鳴が遠くに 遠くに聞こえる。 |