「これから命のやり取りをしようって相手のことなんか、知ってたってやりにくいだけだろ」

フラガはケバブにかぶりつにながら何気ない会話のようにそう言った。

それはもしかしたらとても重要なことなのかもしれない。

キラは眉をひそめた。


「会えて楽しかった・・・よかったかはわからんがね」

「あたしは ・クライン。あなたが助けてくれたラスクの義妹。ザフトのクルーゼ隊所属。」



今まで無意識に当たり前のことだと思っていたことがそうではないのだと、それを始めてリアルに感じている。

大切な人を守るため、敵を撃たねばいけない。

それが必要に迫られて取らなければいけない選択だったとしても、自分は人の命を奪っていたのだ。

爆発して消えていくMSにの姿が重なってしまう。

キラは怖くなる。

知らなければよかった。

でも、知らなくてはいけなかった。

深い葛藤の中でカタパルトデッキの扉が開く。



僕は戦うことが出来るのだろうか。











どうかこの声が

貴方に



どうかこの声が

君に




届きますように














 
call 【黒煙たちこめて】















発進の直後、レセップスの前で様子を伺っていたは目の前のアークエンジェルを見据える。

戦いはすでに始まっていた。

アークエンジェルの周辺では爆発が起こっているがその動きは止まることはない。

「中にいたときは実感できなかったけど、やっぱり凄い、あの艦体」

クルーの手腕もあるのだろうが、それ以上に艦の性能が素晴らしい。

(でも、今はあれは後回し)

は迫ってくるMSに照準を合わせた。


GAT-X105

ストライクガンダム


ごくりと喉が鳴る。

『先に行かせてもらうよ』

「了解しました。わたしもすぐに動きます」

バルトフェルトからの通信を受けると、後方ですでに攻撃を始めている二機へと通信を入れた。

「イザーク、ディアッカ、混戦に乗じてこっちに来ないでよ」

返事はすぐには返ってこない。

図星だったのかとは眉を寄せた。

「あんたたち・・・」

「はいはい」

咎めようとすると、ディアッカの面倒くさそうな返事が聞こえてくる。

やはりというかイザークは返事をしない。

約束は出来ないということなのか。

(勘弁してよ、まったく)

は大きくため息をついた。

「役に立たないんだから前に出てこないでよ。足手まといよ」

「お前!!」

毎度のパターンになりつつあるが、はイザークの癇癪声を聞かない振りをして通信を切った。

すぐにスラスターを吹かしラゴゥの後を追う。



ストライクの周囲で大きな爆発が起こる。

(・・・五発目)

考えたくはないがこちらのバグゥ五機が撃破されたということなのだろうか。

砂煙から白い機体が姿を現す。

は舌打ちをした。

『さぁ気を締めていこうか』

まだ、ふざけた調子の残るバルトフェルトに肩をすくめる。

「もとより抜いたら死にますよ、狂戦士相手では」

『だろうね。じゃあ行こうか』

言葉はもうなかった。

戦士たちは戦いの中では自分独自の空間を纏う。

それぞれがそれぞれの世界に身を投じてしまうのだ。

は小さく頷いてレバーをしっかりと握った。

ラゴゥは身を翻そうとしたストライクにビームを放つ。

ストライクは足を止め、こちらを捕らえた。

続けざまに撃たれるビームをストライクはシールドで受けながす。

は背中から実刃のソードを抜いた。

(・・・援護。そうだ、手か足を破壊して動きを止めれば・・・)

スラスターを吹かし、両手でソードをしっかりと持ち、ストライクへと振りかざす。

ストライクは寸前で気づき、ソードで受け止めた。

その衝撃で火花が散る。

は顔をしかめた。

キラの表情がストライクに重なったのだ。

(クソっ!!)

捕らわれている場合ではないのに。

間隔をあけず、攻撃を繰り返す。

汗が纏わりつく。

ストライクはラゴゥとガイア、両方の攻撃を交わすのに精一杯で攻撃を繰り出すことが出来ない。

キラに焦りが出てきた。

迷いが動きを鈍らせて、隙のない攻撃に押される。

(今までのと色の違う機体はバルトフェルトさん、白い機体には・・・)

違う。

この二機は敵だ。

敵以外何者でもない。

わかっている。

わかっているはずなのに。

迷いが振り切れない。

キラははっと気づく。

エネルギーの残量が少ない。

もう

道はひとつしかないのか。

その時、モニターに大きく刃を振りかざしたガイアが映った。

彼女は自分を殺すつもりなのだろうか。

何も迷いもせずに。

自分を敵として。


キラの中で大きく何かがはじけた。



おかしい。

何かが変わってきている。

は顔をしかめた。

それはバルトフェルトもアイシャも気づき始めている。

『熱くならないでアンディ、負けるわ』

心配そうな声が通信を通して聞こえてくる。

その焦りも仕方のないことだ。

隊長機と隊長機クラスの二機で確かに押していたいたはずの戦況が変わっている。

(まずい。早く足か手を落として動きを止めないと。)

焦りが極限に達する。

『まずいわよ、アンディ!』

再びアイシャの声が通信機を通してコックピッドに響き渡る。

いやな予感が背筋を走り、は振り返った。

レセップスが黒煙を上げている。

「イザーク!ディアッカ!!」

呼びかけてみるがノイズが返ってくるばかりである。

小さく舌打ちをした。

汗をぬぐいたい。

唇を強く噛む。

(もう、時間がない)

はキーをだして打ち込み始める、OSを書き換え始めた。

しかし、すぐさま入力を終えキーをしまう。

(手足を、落とさないと!!)

再びスタスターを吹かした。

スピードを増したガイアがストライクに迫る。

(動きが変わった!?)

キラは目を見張る。

素早い動きでシールドを弾き飛ばした。

そして、すぐにコックピッドに向かって歯を立る。

ここを貫けば全てが終わるのだ。

(・・・貫け!)

この刃は全てを守るために振るうもの。

私の大切なものを守るために。

心臓が煩い。

彼は

キラはわたしの敵なのだから。


刃を立てられてから、その後来るはずの衝撃にキラは息を呑んでいたが、一向にその衝撃は来ない。

(どうして、貫かない)

ガイアの動きがおかしいのにキラは眉をひそめた。

しかし、その隙をキラは見逃さなかった。

ストライクは体当たりをしてガイアを吹き飛ばす。

「っつ!!!」

砂がクッションになり、さほどの衝撃はなかったが、折角のチャンスを逃してしまった。

なのに、あれほど煩く鳴っていた心臓が妙に落ち着いている。

(安心して・・・るの、キラを殺さなかったことに?)

息をつくまもなく、正面から迫るストライクに慌てて立ち上がった。

しかし、ストライクはラゴゥの横からの体当たりをくらい吹っ飛ばされる。

『君はもう下がりたまえ』

バルトフェルトからの通信に信じられないような顔で声を荒げた。

この戦況にストライクと一対一で戦おうというのか。

「まだ、戦えます!」

『言うことを聞かない子は嫌いだよ。この戦いに君は必要ない』

「ひつよ・・・っ!?」

その言葉は最後まで言うことが出来なかった。

ラゴゥにに備えられているソードがガイアの足を捕らえ、そのまま切り落としたのだ。

片足を失ったガイアはバランスを崩して再び砂の中へと倒れこむ。

立ち上がらなくてはとレバーを動かして見るが、無重力状態とは違い重力のある地上では片足のないMSは立つ事も出来ない。

『これで君はもう足手まといだ。そこで見ていたまえ』

「隊長!」

必死の形相で訴えかけるとバルトフェルトは悲しそうに笑った。

『・・・そんな顔をしながら戦うもんじゃないよ。』

「!?」

今までずっと汗だと思っていたものは涙だった。

初めて気づいたような様子のを見て今度はやさしく微笑む。

『終わらせるのは大人の仕事だ』

覚悟を決めた顔にそれ以上言葉が出なかった。

ラゴゥが立ち上がったストライクへと向きなおす。

(どうにかして動かさないと!!)

レバーを動かしても、スイッチを押しても、よろよろと動くだけで立ち上がることすら出来ない。

「くそ!!」

大きくこぶしを握って壁に叩きつけた。















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