白い手、細い指、可愛い声。 全てが私の心を逆撫でする。 パシンッと乾いた音が部屋に響き渡った。 私は思い切り差し出された手を払う。 少し赤くなった手を抱えながらミリィは眉を寄せた。 体中に荒々しい化け物が駆け巡る。 「あんたなんかいなければ良かったのよ!!」 入り口際にいたミリィを突き飛ばして私は駆け出した。 呼び止める声なんか、 聞こえない。 ただ、無我夢中で走った。 怖い。 自分が怖い。 これ以上、ミリィの傍にいたら自分がどうなってしまうか分からない。 でも それでも、私はミリィが憎くて仕方ない。 私が手に入れられないものを全部持っていたミリィが。 足がだんだん進まなくなる。 壁に手をついてやっと歩く。 目の前が暗い。 「ディアッカ・・・どこ、ディアッカ・・・怖いよ、怖い」 そばにいて欲しいあなたがいない。 それでも、戦いは始まる。 進まなければいけない。 Me too act19 ディアッカは空を見上げる。 青い空。 ぽっかりと穴が開いてしまった自分の心のように。 轟音を響かせて戦闘機が飛び交っている。 戦いが始まるのだ。 小さく舌打ちをした。 自分には何もできない。 できることもない。 (バスターをとられちまったんだ。生身の俺一人でできることなんてねーよ) そうだ。 今までだって自分に有利になることしかやらなかった。 全ては自分のため。 この先のため、可愛い御身のために なのに 手に込められたこの力はなんなのだ。 どうして自分は足を止めているのだろう。 何がそんなに心を動かしているのだろう。 「あんたに一番会いたかった」 はにかみながら微笑む笑顔。 初めて愛しいと思った少女。 (・・・) 少女の名前。優しい響き。 心に広がり、そして胸がちくりとする。 「お前は・・・あいつも戦うのかよ?」 「あたりまえでしょ?それにオーブは私たちの国なんだから」 自分を釈放しに来た少女はそう言った。 (あいつはまだあそこに) 遠くで交戦するアークエンジェルに目を細める。 自分は何がしたい。 何ができる。 ザフトのディアッカでもなく、 タッド・エルスマンの息子でもなく、 ただのディアッカとして (守りたい) 誰を 「ディアッカ」 強く、凛々しい、そして悲しそうな目をした愛しい少女。 損得なんか関係ない。 この気持ちを知ってしまった以上、今までのような生き方なんでできるはずがない。 何が大切で、何が大事かを知ってしまったから。 爆発で砂煙が舞う。 ディアッカは歯を食いしばり前を見据えた。 「ええい!くそっ!!俺もたいがい馬鹿だなっ!」 乱暴に吐き捨てて踵を返す。 ドックは大きく振動し騒然としていた。 先ほどから被弾の数が増えてきている。 はモニターに映し出されるキラの交戦の様子が気になった仕方がなかった。 新たに投入された三機のMSのうち二機がキラに攻撃を仕掛けているのだ。 決して有利とはいえない状況。 (キラ) 助けたい。 何もできない自分がもどかしい。 でも、役に立たなくても、それでも今はドックでやれることをやろう。 (ディアッカ、あたし頑張るから) 別れも告げられなかった大切な人。 今はせめてこの戦火を無事に間逃れて欲しい。 それがせめて願うことが許されるのだと思った。 は目を伏せる。 コーディネーターでザフトでこの艦の捕虜としているよりは彼にとっては良かったのかもしれない。 ミリアリアのことを思い出すといいようのない感情が湧き上がり、彼女を許すことは絶対にできないけど、 今は前を見なくちゃいけないのだ。 その時、地球軍のスカイグラスパーからの攻撃にアークエンジェルは大きく揺れた。 続けて攻撃が繰り出されるかと思ったその時、本島からビーム砲がまっすぐにスカイグラスパーを打ち抜く。 驚いてドックにいた全員が発射された方向に目を向ける。 モニターがズームになった。 は信じられない気持ちになる。 震えて声がうまく出ない。 それでもどうにかして搾り出そうとする。 「バ、バスター」 映し出されたその姿は海面に立つバスターの姿だった。 両脇にライフルとガンランチャーを構えて次々にスカイグラスパーを撃破していく。 『とっととそこから離れろよ、アークエンジェル!』 バスターからの通信は艦内に響いた。 それは苛立ちを込めた、まだあどけなさの残る少年の声。 はあふれてくる涙がとまらなかった。 そこにいた。 彼はそこにいたのだ。 こんなにも近くに。 「ディアッカ」 はしっかりと名前を呟いた。 同じくして新型MS二機を相手にしていたフリーダムが苦戦を強いられていた。 一瞬の隙を見て相手のMSが構える。 しまった、とキラは眉をひそめた。 その時、二機のMSとの間に、また新たなMSが割って入る。 見たことのないMSに戦いに介入した全ての者達が一瞬目を見張ったが、 そのMSはすぐにフリーダムを援護し始めた。 それから程なくして、完全にこちらの有利なものへとなり、連合軍は撤退。 戦いは終結した。 キラたちはアークエンジェルを、 オーブを守りきったのだ。 はバスターの下まで走った。 息が切れて、足が疲れても決して休むことはなかった。 やっとのことでバスターの足元まで辿り着く。 ハッチが開いた。 人影が見えて、ヘルメットを取る様子が伺える。 ふわりと金髪が揺れた。 胸が張り裂けそうに痛い。 でも、これはなんて甘い痛みだろう。 ゆっくりと降りてくる赤いパイロットスーツ。 ザフトの。 敵。 違う。 あれは 「ディアッカー!!」 声が アメジストの目がを捕らえる。 声が届いた。 「・・・どうして、お前」 信じられないようにディアッカの瞳が揺れた。 そのまま数メートルあるかという高さを飛び降りる。 は驚いてしまったが、ディアッカはうまく着地した。 二人は見つめあう。 ほんの数メートルしかない距離だったがすぐに近寄りはしなかった。 「また会えた」 は涙がいっぱいたまった目を細めて笑う。 それに答えるようにディアッカも笑った。 「ディア」 その言葉は最後まで言うことができなかった。 ディアッカがを強く抱きしめたのだ。 「また会えたな」 耳元で優しく呟く。 はディアッカの肩に顔を埋め、しっかりと抱き返した。 会いたいと思った。 会いたいと願った。 会いたいと欲した。 でも、もう二度と会えないと思っていた。 「俺はお前を守る。傍にいる」 ディアッカはいっそう手に力を込める。 コーディネーターとナチュラル。 ザフト軍と地球軍。 敵と敵。 決して交わらない道が、交わり。 許されない思いが、許された。 そして 私は彼と共に在ることができた。 |