アスランはその直後、ヴェサリウスから帰投命令が来た

損傷激しいヴェサリウスは完全なる修復もかねて本国へ向かうことになったのだ



あの後からはアスランと顔も合わせていないし言葉も交わしていない




はベッドに横たわるとアスランの言葉を思い出す





「・・・ストライクのパイロットはキラだ」




実際その言葉を信じていないわけではなかったが何となく半信半疑だった

(・・・でも直接、話したみたいな様子だったな・・・)



「でも、じゃあ、俺はどうしたらいい?!こっちへ来いといったんだ!何度も何度も!!

コーディネーターが地球軍に加勢する義理なんてないじゃないか!!

なのに・・・なのにアイツはむこうに友達がいると言ったんだ!!・・・こっちへは来れないって!!」



友達・・・

この場合はミリィ達のことを指すのだろうか

(じゃあ、あの敵艦には皆、いるってこと?)

・・・でも、そんなはずはない

自分の願い的な面で否定を繰り返した

はベッドの上でばたばたと動く

(しょうがないじゃない・・・自分で見なくちゃ信じない太刀なんだからさ)

色々な事がありすぎたから、アスランもあたしも

(・・・乗艦がこっちでよかったわよ・・・呑気な二人と可愛いニコル相手にしてればいいんだから)

これでアスランについていったりしたら自分も迷ってしまうだろう

いらないことをたくさん考えてしまいそうだ


とにかく自分はここにいれば大丈夫だと思う


少なくとも戦いの中にいればその緊張感が自分を守ってくれる



そうだ、大丈夫だ



















どうかこの声が

貴方に



どうかこの声が

君に




届きますように














 
call 【日常に返る】















「うわーーーー!!!!こうしてても仕方ない!ガイアの様子でもみてくるかな!!」

は起き上がると開けていた襟を止める

(・・・んあ?作業着の方がいいか?)

とりあえず、今は様子だけを見に行こうかな、とそのままドアへ手をかけた

シュッと扉が開いては思い切り床を蹴って身を乗り出す

一瞬にして目の前に赤が広がった

「ぅわあ!!」

「っ!!!」

ぶつかる、そう思って目をつぶっただったが予想に反してふわりと抱えられる

「あ・・・あれ?」

それでもやはり目の前は赤一面だった

しっかりと腕が背中に回され誰かの腕にすっぽりと納まっていたのだ

は抱えられた腕を掴んで顔を確認しようとする



「ニ・・・ニコル!?」



見上げるとニコルが頬を少し染めながら困ったように微笑んでいた

「すいません、まさか同じタイミングで出てくるなんて思わなかったので・・・」

少し動揺したニコルに対しては別のことで頭を捻っている

(・・・男の子はずるいなぁ。何だよ、ニコルも結構ガタイいいでやんの・・・)

は体制を立て直しながら、受け止められた感覚を思い出す

外見に似合わず均等の取れた、無駄のない筋肉がついていた

硬い軍服の上からでもはっきりと分かるほどに

(ニコルでこれだけって事は・・・イザークやアスランも軍服の下はもっと?ディアッカは・・・うわ、考えたくない!!)

「・・・怒ってます?

くだらない事をしかめっ面をして考えてたにニコルが心配そうに覗き込んできた

は慌てて頭を振る

「あ!この顔はその件ではなく・・・あはは、ちょっと理不尽な事が・・・さ」

「??」

理解できなかったニコルは首をかしげる

(この期に及んで、この年で「男の子ってずるい!」なんていえるもんか)

まぁ気にしないで、あたしの不注意でもあったからさ!とごまかした

「あたしこれからドックに行こうかと思ってるんだけどさ」

「ああ、そうなんですか?僕は・・・」

そのまま黙ってしまった

「ニコル、ドアの前にいたんなら、あたしになんか用事あったんじゃないの?」

ニコルは「・・・あ」、と一度言葉を詰まらせ俯いた

「…アスラン、今、イージスで帰投しました。は見送り行かなくて本当によかった んですか?」

あのあとは部屋に戻ってから、すぐにニコルから連絡があってアスランの帰投命令を聞いた

ロッカールームでのアスランの様子、の苛立ち

何をとってもニコルにとって心配の材料にならないものはなかった

だからこそ、すぐに通信を入れたのだ

(・・・そりゃ、いかなかったら心配するよね)

そしてわざわざの部屋まで出向いてきてくれた

それでも何とかその場をごまかさなくてはいけないとは思った

大好きなニコルであっても、時には嘘を付かなきゃいけない時がある

これはまだあたしとアスランの問題なのだから

「うん。別に…最後の別れってわけじゃないしさ。いいかなって」

首を傾げながら苦笑いを浮かべる

「・・・喧嘩ですか?」

(当たらずとも遠からずな発言だなぁ)

「アスランもそうでしたがも何かあったんですか?」

真剣なまなざしで迫ってくる

(・・・この子はどうして時々、鋭いかな・・・)

「んーちょっとね」

視線をそらしてまた首をかしげた

「僕じゃ力になれませんか?」

「気持ちは嬉しいんだけど自分の中でもまだ落ち着いてないからさ、ごめん」

はそういってニコルの肩を叩くとすり抜ける

「あ・・・!!」





ごめんね、ニコル

は何度も心で繰り返しながらドックへと向かった















「ちょっと困りますって!!」

「うるさいなぁ!俺がやるって言うんだからいいだろ!貸せよ!!!」

ドックの外まで響く声で整備士と誰かがもめ合っているのが分かった

聞き覚えがある声には顔を顰める

(・・・どうしてあたしは、こうシリアスな状況が続かないかな・・・)

頭に手をやりガックリとうな垂れる

(それはそれで助かってるんだけどさ・・・)

仕方ない、と急ぐとドックの入り口を潜った

「いいから貸せって!!」

聞こえてきた声の主はの予想どうりだった

さん!いい所に!!どうにかしてくださいよ、あれ!!」

入ってきたに気付いた整備士の一人はそそくさと寄ってくる

寄って来た整備士が顎で促すと無重力空間の中をガイアの前で整備士と揉めている姿が目に入った

「あちゃー」

視界に入ったその姿はいつもの赤服ではなく作業着に身を包んでいる

彼特有の褐色の肌が見えていなければ整備士と間違えられるだろう

「ディアッカ!!あんた何やってんのよ!!」

「げ、

あからさまに不味いと言う顔をしたディアッカにはカチンとした

「何やってるのよ、そんなところで!!困ってるでしょ?!」

「・・・あ・・・えーっと・・・そのさ」

「何、言ってんのか分からないわよ!!」

「あ・・・だから・・・ああ、もう!今、降りっから」

観念したディアッカはこちらへ降りてくる

の隣にいた整備士は「助かりました」というと持ち場へ戻っていった

さて、どうしようか、とは腰に手を当てて降りてくるディアッカを見た

「何で、そんなに怒ってるんだよ」

「いや〜別に怒ってないけどさ〜虫の居所がね、こう」

「八つ当たりかよ」

「そう言ったらきっとそうなんだけどさ」

いやはや、とは肩をすくめる

ディアッカもつられて渋い顔をした

「左様ですか」

「で、あたしのことはいいから、あんたなんでこんな所でそんな格好してんのさ?」

「あ〜」

ばつの悪そうにディアッカは顰めっ面をすると頭をがしがしと掻く

「何?いえない事してんの?」

「あ〜・・・ん〜・・・」

更にディアッカは目を泳がせた

「いや〜実はさ・・・」

「あ!分かった!あんたがわざわざそんな格好してここにいるんだから〜」

「はぁ?」

「イザークのデュエルにでも手、出そうとしたんでしょ?

 まぁ、イザークなら構わないけど、後でバレたときあたしは無関係だからね」

「え・・・いや・・・」

「ちなみにニコルなら打っ飛ばしてる所だけVv」

「だから、目が笑ってないんだよ、お前は」





それから、いまいち話を理解しないをつれてディアッカはガイアの足元につれてきた

「ふ〜ん。そういうことなのね。やっと分かったわ。最初っからそう言ってくれればいいのに

 だから揉めてたわけね」

「・・・ったく、お前がややこしくしたんでしょ?」

は思いつく限りのくだらない発想で当たりを探したがまったく見当はずればかりだったのだ

そっか、といって宙を回っていたドリンクを手に取り一口飲む

その以外にも落ち着いた様子を見てたディアッカがおずおずと聞いてくる

「・・・怒ってないの?」

「こんなことで怒ったりしないわよ、色々あって人間成長したの」

「わお!イザークに見習わせたいもんだ」

「さて、じゃあ一緒にガイアの整備やってもらおうかね」

「・・・はぁ?」

「ディアッカと一緒に整備をしようか、といったんだけど」

「俺はそんなことを聞いてるんじゃなくて・・・」

「あんた、時間なくて整備できませんでした、なんて軍人として通ると思ってるの?」

ディアッカの襟首を掴み上げるとは凄んでくる

(めちゃくちゃ怒ってるじゃんか・・・全然、成長してないし)

「一人でやることを一緒にやるって事で譲歩してやってんだから頑張ってねVv」

「・・・だから、お前は目が笑ってないんだって」

掴まれたままディアッカはがっくりとうな垂れた

「すいません、休憩入ってください!ガイアの整備の残りは自分らでやりますから!!!」

そのままの体勢では声を上げる

「ほら行くよ、ディアッカ」

「ぐわっ!ちょ、ちょっとさ襟引っ張るなって!!」






そうだ、これがあたしの日常・・・


何も悩む事はない



あたしはただ日常に戻っただけなのだから












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