レバーを握り締めている手が動かない それそのものがレバーとして一体化してしまったように 目は何も見えず 耳は何も聞こえない 暗闇のコックピットはキラを飲み込もうと様子を伺っているようだった 恐怖 言いようのない恐怖がまだ体を支配する 戦争とはこんなに恐ろしいものだったのか 「のいる艦を攻撃されて、大人しく帰還なんかさせるかよ!!」 そんな声だけが頭の中をぐるぐると回る 敵の声がはっきりとと言った (どうして・・・彼がの名前を・・・?) アスランはこの機体の横で倒れていたを抱き上げあの機体へと連れて行った もう乗り込まされたしまっていた僕は手も足も出るはずがなく そして初めてMSでアスランと対面したとき 「を、 を何故連れて行った!!」 「・・・彼女はまだ生きていた、だからこちらで保護したんだ」 生きている そのときはそれに安心して、よく考えはしなかったが、何かおかしい気がする ザフトが民間人を保護するのだろうか 中立とはいえナチュラルともコーディーネーターとも分からないものを (・・・整理がつかない) でも、どんなに考えてもこんな気持ちじゃ何も考えられるはずがない とにかくこの闇から この恐怖から抜け出したかった そう思ったときハッチが開き光が差し込んできた どうかこの声が 貴方に どうかこの声が 君に 届きますように 「貴様、よくも!!」 イザークの声がロッカールームに響き渡る 「お前があそこで余計な真似をしなければ!!」 イザークは怒りに顔を歪ませ、アスランの胸倉を押さえつけ壁にたたきつけた それでもアスランは何も言わない アスランの態度にイザークは余計腹を立たせる 「くっ!!」 「とんだ失敗だよね。あんたの命令無視のおかげで」 遠目から壁によりかかり、やりとりを(イザークから一方的だが)見ていたディアッカも苦々しげに口を開いた イザークがデュエルでフェイズシフトが落ちたストライクに切りかかろうとした寸前に アスランがイージスをMAタイプに変形させストライクを捕獲した そこで揉めているうちにヴェサリウスに攻撃を加えていたMAも戻り、形勢は一気に逆転する 結果、ストライクの撃破は失敗 異様にストライクに固執して追い続けたイザークはデュエルの右腕を失った 煮え切らない態度を続けるアスランにとうとう我慢ができなくなったイザークは更に締め上げようとする 「何をやっているんですか!?やめてください、こんなところで!!」 ドアを開けて入ってきたニコルが険悪な状況に声を上げる ディアッカは小さく舌打ちをし、イザークは手の力を緩めた そのままイザークとニコルの睨み合いがしばらく続く ニコルは芯の強い少年だった 臆病者、と二人からはどやされているが決してそんなことはなかった 優しさと立ち向かう勇気をちゃんともっている やがてイザークがニコルから視線をはずし声を荒げた 「四機でかかったんだぞ!!それでしとめられなかった!こんな屈辱・・・」 「だからって、アスランを責めても仕方ないでしょ」 「まったく、ニコルのいう通りだわ。いい加減にしなさいよ、イザーク」 「「!?」」 ここにいるはずのないその声に全員反応する 声の先を見るとがいた 額は包帯が巻かれ、右手は厚く包帯が巻かれた上、吊っている そんな傷ついた姿ですら彼女は悠々とたっていた いままで反応をしめさなかったアスランもこれにはさすがに動揺する (なんで・・・まだ、絶対安静なんじゃないのか?) 誰もがそう思って唖然としていた 周りが動けなくなっている中をカツカツとブーツを鳴らし中へと入ってくる 「いつこっちへ?」 「今さっき。ゼルマン艦長に報告しに行ったら皆ここだって聞いたから」 「も、もう大丈夫なんですか、?」 うん、平気、といって近寄ってきたニコルの肩をたたいた はゆっくり息を吐くと厳しい目を向ける 「あんたたちは赤服に泥を塗るつもり?」 全員の顔を見渡せるように真ん中に立つと一人一人顔を見ていく 「一機であろうと、四機であろうと、トップガンのメンツが揃いも揃って私情もちこんでるんじゃMAにすら勝てないわよ」 イザークが歯を食いしばりくっと喉を鳴らした はソファの背もたれに軽く腰掛けるとイザークを捕らえる 「イザーク、あんたが仕留められなかったものをアスランのせいにするのはお門違いなのよ まず、自分の未熟さを恥じなさい」 「・・・ちっ!!」 に言われている事は本当だった ナチュラルに手を焼いているかと思うとイラついて冷静な判断を欠いていた ただ自分がアイツを撃破することだけ考えていたのだから 分かっていたことだがに指摘された事はほとんど、今の自分の痛いところを触っていた イザークはアスランにかけていた手を突き飛ばすように放すと部屋を出て行く あーあ、と言うとディアッカもイザークの後を追おうとした 「訓練と実践じゃ違うんだから、ゲーム感覚で参加しないでよね、ディアッカ 相手をなめてるといつか自分が痛い目見るからね」 ディアッカは先の戦いである種の恍惚感の中で戦っていた ワンパターンの動きをするゲームなんかよりずっと面白い的だと思った、ナチュラルは それが間違っている認識と分かっていても 「・・・肝に銘じときますよ」 ドアに向かいながらひらひらと手を振る なんともいえない空気が流れた 「アスラン・・・」 口を開いたのはニコルだった 「あなたらしくないとは僕も思います・・・でも・・・」 おこしてしまった行動について言っているのだろう しかし、実際ニコルについても反省すべき点はあった 自機を手に入れ、戦いへ本格的に向かうことが決まった今、戸惑っている暇はないのだ 相手の事を考えていたら自分の命が危ない 今はひたすら倒すことが目的なのだ 「・・・今はほっといてくれないか・・・ニコルもも・・・」 アスランは顔をそむけた それ以上何も言おうとはしない ニコルは悲しそうな顔をしながらしぶしぶロッカールームを出て行った 「ちょっと、アスランそれはないんじゃないの?」 壁に寄りかかったままのアスランに近付いていく そんな態度じゃ心配しているニコルが可哀想だ 「も今は一人にしてくれない・・・」 パンッ 「アスランもいい加減にしなさいよ!!」 が思いっきりアスランの右頬を叩く 乾いた音がロッカールームへ響き渡る 呆然としていたアスランの頬が赤く染まっていった 「・・・かってるんだ」 俯いていた顔がの方を向く 緑の目が自分の顔を映した どきりとする 目にはたくさんの涙がたまり、少しだけアスランの周りを飛び交う 「俺だってわかってる、俺だってわかってるんだ!!」 「ア・・・スラ・・・ン?」 「でも、じゃあ、俺はどうしたらいい?!こっちへ来いといったんだ!何度も何度も!! コーディネーターが地球軍に加勢する義理なんてないじゃないか!! なのに・・・なのにアイツはむこうに友達がいると言ったんだ!!・・・こっちへは来れないって!!」 アスランは声を荒げていく 顔をグシャグシャしながら 髪を振り乱しながら アスランが首を振るたびにたくさんの水の玉が宙を舞う それがの頬にぶつかるたびに全ての辻褄があっていった 「俺はどうしたらいいんだよ!!」 隊長機シグーの損傷 D装備のジン部隊の全滅 四機での撃破失敗 確かに並みのパイロットがやろうとしてできるものでもない コーディネーターがパイロット 自分の予感は当たっていた でも、それよりもっと深い問題だった そして、あの時アスランの本当に隠していたこと アスランが息を整えようとする 何かを伝えようと口の中で繰り返す は耳をふさぎたかった ふさがなきゃいけない気がした あの三ヶ月がまた蘇る (やめて、あたしは軍人なんだから!!) 「って面白いよな!!」 「うわぁぁぁ!もう勘弁してくれって、」 「同じラボに女の子がいるとやっぱり違うわよね〜」 「ここのプログラム何だけどさ、そうそう助かったよ」 「ここは中立だけど、僕は同じコーディネーターとしてがいてくれてよかったと思うよ」 「・・・ストライクのパイロットはキラだ」 あまりにもまっすぐ見据えられた目に そしてその言葉には動く事ができなかった |