医師が持ってきてくれたパソコンのモニターには緑の髪をふわふわと揺ら した同僚が写っていた 「ニコル〜!」 は思わず嬉しそうにガッツポーズをとる それにつられてニコルもにっこりと笑った 「怪我の具合いはどうですか?」 から始まった久しぶりのニコルとの会話は思いの外はずんだ とりあえず、あの迷惑コンビがこっちに来るまでの話や来た時の話が中心だったのだが 「酷いですよね、イザークとディアッカ!」 モニター越しにニコルが頬を膨らます その仕草が可愛らしくてはにやり(にっこりではなく)とする (怒ってても可愛いなぁ〜) あたしは自分の中での癒し系は今も不動で顕在していることに感動した (はは…何だかあたし、ちょっとおやじみたいだ) しかし幸せなときはそう続くはずもなく 「おいニコル、時間だぞ!」 入り口から死角で通信していたのでディアッカの声だけが聞こえてくる ニコルの姿が画面から外れた 「分かりました!すいません、足つきの動きが掴めたので、 Xナンバーで出撃する事になったんです。…また連絡しますから」 「うん、分かった。気を付けて」 にっこりと笑うとお互い敬礼し合う 画面の端にディアッカがひょっこり写りこんだ 「あれ?お前、と通信してるわけ?てかさ、さ」 ぷつり モニターに近付いてきたたれ目に対して、いい音を立てて一方的に電源を切った (あいつの言いたいこと分かってるし、ニコルとはちゃんと挨拶したからいいや 、別に。電気代の無駄だ) ディアッカは元より特にイザークがそうなのだが、コミニュケーションの取り方が稚拙だとつくづく思う なのに普段はこれでもかというほどいじをつつくのに、結構ああやって面倒を見てやっている所がある つくづく素直じゃない …と言うより、プライド高い (まぁニコルに面倒かける割合の方が俄然高いけどね) 何だかんだで仲良くやってるな と嬉しくなった モニターをしまうとふと窓の外を見る 「出撃か…」 さっきのアスランの話が気になっていた ナチュラルのパイロットとその機体 どちらかというとは前者に興味があった 「おっちゃん、あのさ…」 どうかこの声が 貴方に どうかこの声が 君に 届きますように は赤服を着ていた 正しくは左肩から右腕を吊るす為に三角巾をしているので上は羽織っているだけだが 先ほど医師に頼んで予備の赤服を出してもらったのだ やはりコレを着なければ、気持ちも何も引き締まらない あたしもつくづく軍人だなぁと笑みを浮かべる 廊下を移動していると窓の外がやはり気になって仕方なかった パイロットとしても 仲間としても この外ではアスランたちのあのXナンバーと一機が戦っているのだろうか 目を何とか凝らせて見ようとするが肉眼で姿が確認できるわけがない 遠めで閃光が激しくぶつかり合うのがなんとか見える まるで流れ星が飛び交っているようなロマンチックな光景 は体の中ではっきりと何かがうずくのが分かった それはある種の恍惚感に似ている 自由に動く左手であるはずのないグリップを握り締めた その手はもちろん何も掴むことはできない 「…くそっ」 握った手をそのまま壁にぶつける みんなが戦っているというのにあたしは何をやっているのだろう この怪我も元はといえば自分の不注意だ 思い出すのは 灰色の横たわる巨大な兵器と 差し出された手と泣き出しそうな瞳 (・・・泣き虫、キラ) 赤服を着たあたしは完璧に軍人に戻った これでもう、彼らと会う事はない 地球ぐんと敵対している軍人と全く無関係な民間人 自分の中でもあの三ヶ月は捨てなくてはならない それでも、心のどこかでは生きていてくれますようにと願っている・・・ でも、あの失敗は自分にとって痛手だった あんな抗争の起こっている場所で、あんなことしたら格好の的だ 何のための訓練だったのか・・・ 少し考えれば分かるはずなのに 自分の脳は3ヶ月の平和暮らしで確実に衰えていた だから平和は怖い 軍人である自分がおかしくなってしまうから 早く戦場に出たい その気持ちが自分の足を進める 向かう先は・・・ 窓の外に広がる宇宙空間を気にしながらはベルトを使わず自らの力で進み続ける 時折、穴の開いてしまったわき腹がしくしくと痛んだ (痛み止め、どのくらいもらっていこうかな) ガモフの医師が信用できないわけではないが、こうい時だ、自分が最も信頼を置いている人に自分の体を預けたい (もう少しだ・・・) 角まで差し掛かるとビリっと背中に何か走った 緊張感で背中に汗が伝う はコレに似た感覚を知っていた パイロット特有の感覚 ロックオンされたときの焦燥感 「まずい!!」 そう声をあげたとき、すでに遅く大きな音の直後艦が激しく揺れた 廊下に警報が鳴り響く (・・・そんな、ヴェサリウスが被弾した?!) 『機関区損傷大!!推力低下!』 『第五ナトリウム壁損傷!火災発生!ダメージコントロール、隔壁閉鎖!!』 (ここにくるまでノーマークだったてわけ?ありえない!!) は体を守るために壁に体をつけ揺れに合わせる (何やってるのよ、一機のMSとMAに!!トップガン勢ぞろいで!!!) 上辺では出撃していった同僚を攻めるが、本当は自分を殴り飛ばしたい そうしてまた自分が動けないことを悔やんだ 今の自分には戦場に出て戦うこともできないと分かっていながらもそんな自分に腹が立つ 「ああ、もう本当にムカつくな!!」 一度揺れが収まるとはもう一度進みだした しかし、そこでは大きな、重要な事に気が付く 何かがおかしい あちらの軍にはMAとMS一機ずつしかないと聞いている ヘリオポリスでの戦いでザフト軍と戦ったのはそれだけだと聞いている (まだ、MAがいたのか・・・?) そんなはずはない だったらヘリオポリスでの戦いの際に投入するだろう さすがに地球軍といえどそこまで人道を外れた事はしないと思っている (・・・まぁ、あったらきっと出してたわよね、自分らの最強兵器があったし) もし、見方の軍と合流してたら? いやそれらのことも考えられないだろう ヴェサリウスとガモフが見張っていたのだ見方の軍が合流しようものならその熱源を発見している これらのことをふまえればMAとMSの二機でMS四機と抗争しているはずだ その中を潜り抜けて誰にも気付かれず一機がこちらへ来る事 更にはヴェサリウスのレーダーに捕まらずに来るなど無理に等しい いや、確立は0%だろう そう考えると答えは一つ こちらが罠に嵌ったのだ (まさか、そんな事が・・・) しかし、その内の一機がこちらに攻撃を加えてきた、という事は どちらか一機が残って戦っているのだろう MAの存在を気付かせない様に惹きつけ役としては新型MSがうってつけである MSが一機が四機を相手にしているというわけだ たとえば敵の艦隊に攻撃を加えているのが半分の二機だとしても 二機を相手にしている こちらはコーディネーターの、それも優秀なパイロットなのだ 彼らに落ち度があるといえば自機を持ったばかりと言うことだけ しかし、きっとOSも書き換えてあるだろうし、訓練では上位の四人がナチュラル相手に・・・ そこであくまで仮説だがこんな事が頭をよぎる 「・・・パイロットはコーディネーター?」 それもかなり優秀な そう思いたくなかったが考えれば考えるほど合点がいく (中立国での開発だから、コーディネーターが手を貸すってこ・・・!!) 再び緊張感が走る そして、また凄まじい衝撃が襲う 左に傾き反対側の壁に打ち付けられた 「っ!!」 とっさに右側をかばい左で受身を取る 不安定ながらもゆっくりと体制を整えたヴェサリウス内に声が流れた 「そんな、ヴェサリウスが戦線離脱・・・?!」 「・・・ヴェサリウスが被弾?!撤退命令!!」 アスランはガモフから届いた命令に目を疑った 目の前ではキラの乗るストライクガンダムはデュエルとバスターと交戦中だ 訓練を受けていないその動きは実に稚拙なものだったがそれでも 戸惑っているアスラン以外の三名を翻弄している 画面に映ったイザークがイライラしはじめていた この板ばさみの戦いの中でそれでもアスランはの事が気にかかった あの状態ではまともに動けないだろうし、どうなっているか心配でたまらない モニターに写るニコルやディアッカも気になってしょうがない様子だった AAからも帰還信号が上がる いいタイミングだと、アスランはほっと胸を撫で下ろした しかし、人一倍プライドの高いイザークはそうはいかなかった 「のいる艦を攻撃されて、大人しく帰還なんかさせるかよ!!」 「イザーク!!帰還め・・・」 アスランの言葉を振り切るようにイザークは思い切りペダルを踏み込みストライクとの間合いを詰める 四機でかかって一機をすら落とせない、赤服の恥だ 自分の手のようにデュエルのサーベルを握る手に力がこめられた ストライクの目の前には迫り来るXナンバー、デュエル ビームライフルを構えて無我夢中で乱射する デュエルはそれを難なく交わしてゆく (クソ!こんな腕でぇーーー!!) 「え?!」 ストライクのトリガーが全く反応しなくなった キラは焦ってゲージに目をやる ゲージはレットゾーンにまで差し掛かっていた デュエルが迫り来るとき恐怖感に駆り立てられ無我夢中で撃ってしまった結果だ きっと、ずっと鳴り響いていただろう警告音が今になって耳につく それがまたキラの恐怖感をあおった デュエルか迫り着たとき、とうとう フェイズイシフトが落ちる キラは息を呑む (やられる!!) シュっと音を立ててドアが開かれた 「失礼します!」 が入ると振り返ったのはクルーゼ隊長とアデス艦長だった 「おや、 。」 クルーゼは微笑む しかし、仮面に隠れた笑みはまったくつかみ所がなかった 「さて、困ったものだ、まさかこんなことになろうとはな・・・ここまで追い詰めておきながら」 「申し訳ありません」 少し驚いたような顔をしたがすぐに口もとを緩める 「いや、 、君を攻めてるわけではない。むしろ君は任務を無事果たして帰還した。 この作戦の成功は君の情報なしには得られなかったのだよ」 「・・・しかし」 そこでは言葉を詰まらせる 「ふむ、君は先の任務の言い訳をしにきたようではないようだが」 「はい、ガモフへの帰投許可を頂きに参りました」 |