何だか酷く怖い夢を見た気がした 誰かがあたしの名前を呼んで手を差し出してくれているのに いつまでたっても追 い付けなくて それから… 何が怖いのか分からなかったけど あまりの恐怖に目を覚ました 目の前には見慣れた天井が広がり 「目、覚めた?」 隣にはアスランがいた (さすがのおっちゃん、優等生はすんなりか) 感じていた恐怖も痛みも消えていた どうかこの声が 貴方に どうかこの声が 君に 届きますように アスランはが目を覚ましたのに気付くとこちらを向いて弱々しく笑った 何かを咎められると知っている顔 (・・・”何かあった”も限界なのかな?) ふと、ヴェサリウスに戻ったばかりの顔を思い出した (すっっごい辛そうな顔してたな・・・でも・・・) それよりも今はあのアスランの命令無視のほうが気になった 命令に従って任務を忠実にこなすアスラン 彼の命令無視 大体、理由は見当がついていたがは聞かずにはいられなかった 「勝手に出撃したんだって?」 「…知ってたんだ」 「まね。なんでそんな事したの?アスランらしくもない」 「僕らしくないか…」 そう言ってうつ向いて黙ってしまうアスラン それ以上は何も言おうとしない (やっぱり何もいわないか・・・) 「分かってるとは思うけど、キラはたまたまあそこにいたんだからね? 地球軍の 今回の件に対しては全く無関係から」 きっと優等生を絵に描いたようなアスランがこんなことをしてしまったのはキラ の事があるからだろう 今の出撃もそれに関わることだろうと思っていた (そりゃ、親友が敵軍に加勢してるかもしれなかったら気になるけど…でも、だ からって出撃して…) 「…じゃないさ」 「え?」 アスランの手に力がこもる ぽつりと吐き捨てるように言った言葉は思いの外、聞き取りずらかった 「…ごめん。何でもないよ。」 (そこまで言ったのにまだ隠すか…) いつでも相手に気を使い悩みや弱音を一切言わないアスラン 隠さずに言っちゃった方が楽なのに、とは思う でもだからと言ってはそれ以上詮索しようとはしない 何故ならアスランは一度決めるとがんとして譲らないところがあるからだ (こういうのは無理矢理聞いても仕方ないしなぁ…) 未だに顔を上げないアスランには溜め息をついた 「でも奪取したんでしょ?あと一機」 アスランは黙ってゆっくりと首を振る 「え?待ってよ、ジンはD装備で出て、しかもアスランだってXナンバーで出たんでしょ?」 「…でも、失敗したんだ」 もともと我慢強くないはとうとう煮えきらないアスランの態度にかちんときた 何かあって、アスランがこうなっているのはだいたい分かる しかし何も言わずにしかも人の前でこんな態度を取られては 「気にしてくれ」 と 言っているようなものだ 「ねぇ、アスランはここに話をしに来たんでしょ?! 黙って落ち込みに来たなら 部屋行ってやっ…ててててて」 痛み止めが効いていたが怒鳴ると被弾箇所が痛んだ 「、怒鳴っちゃ駄目だよ。傷に触るから」 (…お〜い、怒鳴ってんの誰のせいだよ) 落ち着いて当たり前の事を言うアスランに正直はむっとして目を細めた しかし、とりあえずこんな風になっている理由を聞きたいと、限界まできていたがグッと我慢する 「…あーあ、やっぱりにはかなわないな」 そう一言呟くと自嘲気味にアスランは口元歪めた 「ちゃんと全部話すから…さ」 「何それ?あたしが無理矢理、話させてるみたいじゃん」 「はは、違うよ。じゃあ『俺の話を聞いてください』でいい?」 しょうがないな、と言った感じで体をアスランの方へ向けた 少しまた目線を落としたアスランはすぐにきゅっと口を結ぶと意を決したように真っ直ぐを見る 「先の奪取作戦で奪えなかった一機に対し、D装備で再出撃したミゲルやオロー ル …ジンで出撃していった他の奴等も皆、その一機殺された」 は大きく目を開く (ジン部隊が全滅?) その驚くべき事実に目の前がちかちかした ザフトきっての作戦成功率を持つこのクルーゼ隊は赤服の面子をはじめ、並の兵士などいない 選び抜かれたものばかりだ それがそうも容易く しかも最新のMSといえどナチュラルのパイロットが操る機体に やられるわけがない 今までだってそうだしこれからだってそのつもりだった コーディネーターが数に能力で勝る戦い その反対など起こりうるわけがない しかしそれが現実に起こったのだ 一機とジン部隊 の体がびくりと震えた 「あれは、ジン相手に圧倒的だった。俺だってXナンバーでなければ …ヘリオポリスが壊れなければ殺されていたかもしれない」 「…アスラン」 アスランは悔しさに唇を噛む 真新しく唇に残るその痂に目を奪われた だがそこでは今の会話に違和感を感じた 「やられた」 ではなく 「殺された」 とアスランは言った は妙にそれが気にかかる 別にニュアンスが多少違うが意味としてこの場合どちらも不適切じゃない しかし、殺されたと言う単語をアスランから聞くのは珍しい いや、初めてではないだろうか (…でも、そう言えば一度だけ…) 殺された とアスランが一度だけ口にしたことがある 血のバレンタインで母親が死んだことを聞かされた時のことだ もしかしたらこの状態はそのときととてもよく似ているのかもしれない と、は爪を噛んだ 何かの裏切りによる何かの死 そう思いたくなかったがいやな予感ばかり頭を横切る (だっていつもなら倒した、やったって言うのに) 倒す やる なんてゲーム感覚の抜けない表現だろう 実際、戦争は相手ばかりか自分にすらその危機は迫る 自らの命をかけたゲーム どこかでそうでもしなければ大義名分を掲げ戦っていても人を殺す為の機械になど乗っていれない だってそれは只の殺人だから 偉そうな事を言っても戦争の持った意味なんてそんなものだ 「・・・」 「どうしたの?」 「少しだけこうさせてて」 そういってアスランはの体を強く抱きしめた 「いたっ・・・痛いってアス・・・」 でも、それ以上何もいえなくなってしまった 洋服に染み込んでくる冷たさと 時々、声を漏らしながら肩を震わすアスランの姿があったからだ はじめてのMS戦 はじめての失敗 はじめての友人の死 (あたしはとっくだったけど・・・やっぱり堪えたよな) しばらくしてゆっくりとアスランが気恥ずかしそうに顔を上げる 「・・・ごめんね。体痛くなかった?」 「別にいいよ、平気」 (なんかいやらしい会話だな) 「もう、隠していることはない?悩んでることはないアスラン? この際だからこの胸の中でど〜んとぶちまけちゃいなさい!!」 そう言ってはどんと胸を叩いた 「もうないよ、これ以上に甘えてたらイザーク達が怖いしね」 「はぁ?」 「こっちの話」 は納得できないようすで眉をひそめた 「・・・で、本当にもうないの?」 が真剣な眼差しでアスランを見るとアスランが噴出した 「ちょっと、な、何で笑ってるのよ」 アスランは口元を押さえてクスクスと笑う 真剣だったのが馬鹿にされたようでは真っ赤になった 「なんか、がお母さんみたいだから」 の目が点になる それを見てアスランがまた笑った 急にアスランの機嫌がよくなったのはいいことだが、はなんとなく面白くない 「・・・あたし、アスランみたいな子供は欲しくない」 「俺も が母さんだったら絶対グレてるよ」 「・・・グ、グレっ!!」 「ははは、ごめんって冗談だから」 はじとりと睨んだ 「・・・覚えてなさいよ、アスラン」 「俺はが先に忘れてくれることを願うよ」 「アス・・・!」 「さて、体長からお呼びがかかってるんだ、もういかなきゃ」 アスランはニッコリ笑っての催促をさえぎった 流石のも隊長の名前を出されては何も言えなくなる 「あたしは暇つぶしだったんだ」 「そんなことないよ、いの一番にのところ来たんだから」 「なら別にいいけどさ〜」 「ははは、じゃ、いってくるね」 立ち上がるとに向かって敬礼をしながらにっこりと笑った その笑顔があまりにいつもどうりだったのでは安心した は何も言わなかったが代わりに敬礼を返す アスランがもう一度にこりと笑うとドアへ向かった (・・・あ、そういえばまだ言っていなかったな) はアスランとの約束があったことを思い出した 「こんな状況だから二人とも生きて帰れるか分からないよね〜」 「ガイアに乗ってその名を轟かせてるが何言ってるんだよ」 「・・・死なんかいつだって隣り合わせなんだよ」 「・・・そうだね」 「・・・」 「・・・」 「こうしようアスラン!!いちいち任務をこなして帰ってくるたんびに 「生きてた〜」「帰ってこれた〜」じゃなんか余計気が滅入るから その意味を全部ひっくるめて「ただいま」っていおう!「おかえり」が先でもいいし」 「え?」 「だらか、生きてここにいられる、戻ってこれたで「ただいま」だよ」 「じゃあ、俺は「おかえり」?」 二人でにっこり笑ってカップをぶつけた 「アスラン」 入り口に手をかけていたアスランが振り返る 「ん?」 はにっこりと笑った 「おかえり」 「…うん。ただいま」 もっと早く気付けば良かった アスラン、あんたの笑顔が作り物だたって |