「アスランを知っているんですか?」 キラは驚いて急に発した声は少し裏返ってしまった 「アスラン・ザラはわたくしがいずれ結婚するお方ですわ」 ピンクの髪の少女はゆらゆらと髪と服を揺らしながらふんわりと笑う そして、その言葉にキラは更に目を開いた 同じコーディネーターとは言え、まさかこんな戦場でアスラン・ザラという一人の少年を知っている むしろ彼に近い二人が出会うなんて こんな奇遇があるのかと驚いた だからこそ、自分の気持ちを理解してもらえるのかもしれない キラはその安心感にの姿を重ねた (・・・アスランがはザフトに保護されていると言ってた・・・でも・・・) キラは再び俯く 「キラ様はまだ何か悩み事をお持ちですの?」 「え・・・あ、」 覗き込んできたラクスの顔と見透かされてしまった気恥ずかしさに顔を赤らめた 「わたくしに妹がいますの、血は繋がっていませんが、とても素敵な妹ですわ 私が悩んでいると何にも聞かずにずっと傍にいてくれますの。」 「・・・そうなんですか、いい妹さんですね」 「はい!その後決まって、諦める前にぶつかりなさい。と言われます」 キラはが初めて言っていた言葉を思い出す (・・・ ) 「わたくし、いつもたくさん元気を頂きますの」 顔を上げるとラクスが屈託のない笑顔で微笑んでいる 僕は何をしているのだろう このこを人質にまでとって 盾にまでして それでも生き残っていたいなんて そんなの間違っていると思う どうかこの声が 貴方に どうかこの声が 君に 届きますように 『クルーゼ隊長』 モニターには先ほど合流したばかりのの顔が映し出されていた 「か。到着したのかね」 『は!このままイージスに搭乗致します』 「ああ、先のアルテミス陥落はご苦労だったな。今回も厄介な事情だが君なら大丈夫だろう」 『は、ご期待に添えますよう頑張ります!』 「健闘を祈る」 モニターの向こうのは敬礼をすると通信を切る クルーゼはわずかに見える口元を緩め消えたモニターを見つめ続けた 「さて、これがどう出るか・・・見物だな・・・」 アスランはガモフに通信を入れてからすぐにイージスの準備に取り掛かっていたため、すでにコックピッドの中にいた 開いたままのハッチに手をかけるとは屈んで覗き込む 「到着いたしました、アスラン」 の声にアスランは顔をあげる 「早かったね。こちらの準備整ってるよ」 「よいせっと。お邪魔します」 狭いコックピットの中にもシートの裏に一人分のスペースはあるのだ はするりとシートの後ろに回りこむ 「しっかり掴まっててね。イージス発進します。ハッチを開けてください」 静かに開かれる扉 「アスラン・ザラ出る」 イージスはバーニアを最大限に吹かしながらストライクの待つ場所へと向かう 「分かってたけど・・・なんか変な感じだね、の船外作業服」 「あたしもそう思う・・・このもったり感がね、なんとも」 無理に展開しようとした会話は途切れた あまり触れたくはなかったがこのことに関する話をするしかないのか、とアスランは眉を寄せる 「・・・あっちはなんだって?」 「イザークは猛反対よ。最後の最後まで駄目駄目言い続けてた」 「俺だって本当は反対だよ」 「大丈夫だって捕虜としていくんじゃないんだから・・・ったく、過保護すぎんのよ、皆」 それはそうだろう アスランはそう思った ガモフの様子も容易に想像がつく それでも誰も止められない 軍の命令であり 彼女が決めたことだから 「あたしは確かに女だけど、軍人なんだから・・・できれば対等に見て欲しい」 「は本当にいいの?」 「あはは、ここまで着ちゃったのに何言ってるのアスランは!」 「行かせたくない」 「あたしがまた学生の振りするだけでラクスが戻ってくるなら何てことないでしょ?」 「でも・・・俺は」 「ストライクが見えてきた・・・さて、これからあたしは保護されていたヘリオポリスの民間人だからね、よろしく」 はアスランの声を遮る これ以上、話していたら自分が向こうにいけなくなりそうだったから キラはストライク アスランはイージス 二人は相対する立場でまた再会する (・・・空気がピリピリする) その距離は短いのに何だかとても遠い気がした 『アスラン・ザラか』 懐かしいキラの声 でもそれはいつもの優しいあの声ではなく緊張などにより強張っていた 「そうだ」 アスランも自分の動揺を隠すためにあえて気丈に答える 『コックピットを開け』 向かい合った時からストライクのビームライフルはずっとイージスを捕らえ続けていた こんなやり方は脅すようで卑怯だとキラは唇をかんだ (ごめんアスラン) 言葉は交わさずともアスランもも分かっていた この威嚇は形だけのものだと だからこそアスランは無言で小さく頷いてハッチを開く そして次いで開いたストライクのハッチの上には二つの影があった しかし、この状態でははっきりラクスだ、といえない 『話して』 『え?』 『顔が分からないでしょ?本当にあなただってことを分からせないと』 『ああ、そう言うことですの』 回線を通じて会話がぽそぽそと声が入ってくる キラとラクスが話しているのだろう の心臓がアスランに聞こえるんじゃないかというほど大きく脈打っていた 『こんにちわ、アスラン。お久しぶりですわ』 耳に入ってきた聞きなれた鈴を転がすような高く可愛らしい声には安心する (・・・よかった) ね、とアスランの方を見ると何だか複雑な顔をしていた 「やきもちやいてる?」 「・・・何で」 小声で聞くと横目でアスランも小声で返してきたがぴしゃりと遮った すぐに視線を戻す 「確認した。こちらも声を」 「やっほ〜キラ!」 お互いの少女の呑気さに二人は大きく溜息をついた 『やっほ〜って・・・まったく呑気なんだからは』 キラは怒ったような口調で言う しかし、そこでやっとモニターに映されていたキラの目が始めて弧を描いた そして、確認した、と言うように大きく頷く シートの後ろにいたの体を支えながら先にハッチの上にあげた アスランが出てきたのを確認するとキラは軽くラクスの背中を押す ふわりとラクスの体が宙を舞いアスランの腕を目掛けてゆっくりと飛び込んできた アスランがしっかりとラクスを受け止める 「いろいろありがとう、キラ様」 ラクスはやわらかくゆっくりいつもの口調でそう言った が見たラクスの顔には全く心労や翳りはない (何もなかったんだ・・・本当によかった) 泣き出しそうなを見ていたラクスは状況を分かっているのかの顔を見て黙って微笑んでいる (ごめんね、ラクス) 本当は抱きつきたい 無事でよかったね、と抱きしめたい でも 今は無理なのだと納得するしかなかった 「じゃあ、行くから。アスランくんありがとう。皆にもありがとうって言っておいて」 「あ・・・ああ」 一歩前に出たはアスランとラクスの方を向き手を振った 自分からハッチを蹴るとキラのほうへ真っ直ぐ向かう キラは大きく手を広げてを受け止め、そして、抱きしめた 「・・・心配したんだ、本当に・・・」 「うん、ごめんね。ただいま」 あまりに力の込められたその腕と少し震えてたその声に思わずも抱き返しす キラは優しい だからきっとヘリオポリスからずっと自分を心配してくれていたのだろう 偽者の自分を (・・・ごめんねキラ) その優しさに胸が痛かった あたしはまだ騙し続けなくてはいけない 「キラ!お前も一緒に来い!!」 アスランのあげられたその声には我に返る 「・・・アスラン」 キラが聞こえるか否かの声で名前を呟いた 『お前も・・・彼女も地球軍にいる理由が何処にある!!来い、キラ!!』 必死で伸ばされた手をキラが辛そうな目で見つめる 「僕だって、君と戦いたくない」 キラはやっとのことで言葉を吐き出す にまわしていた腕が強張った (・・・キラ) キラはちらりとを見る 同じコーディネターだからこそ答えを求めるのかもしれない (手をとって・・・なんて言えないよな) それはあたしにとって都合のいい答えだ、とは苦笑いを浮かべた それに乗っている以上、キラにだって何らかの信念あるのだろう 今、自分が口を開けばそれを曲げさせてしまうかもしれない 「キラの好きにしなよ」 は微笑むとキラは一度下を向いて黙った そして、視線をアスランへと向ける 「あの艦には守りたい人たちが・・・友達がいるんだ!!」 (・・・キラ) 「この写真?キラ、キラ・ヤマト。俺の大切な友達」 「これは僕の幼年学校の友達のアスランが作ってくれたトリィっていうんだ」 アスランがその言葉に怒りと悲しみを露にした 『ならば仕方ない、次に戦う時は俺がお前を撃つ!!』 アスランの荒げられた声にキラも声をあげる 「僕もだ・・・!!」 二人とも言葉とは裏腹にどうしてそんな顔をしているの そんな泣きそうな顔で・・・ あたしはどうしてこんな光景を見なくてはならないのだろう 差し出されたその手は繋がれなかった 「フラガ大尉!?」 キラが声をあげる ストライクがイージスから離れた時、ヴェサリウスからMSが近付いてきた 『何もしてこないと思ったか?!』 敵の動きを察知したAA側からもゼロが発進してくる (・・・シグー!?) 遠目からだがの目にははっきりと捕らえられた 自分がここにいるにもかかわらず攻撃を加えようというのか しかし予想に反して目の前に現れたシグーが反転していく 何かしてくるだろうと思ってゼロで発進したフラガは納得できないように歪められていた クルーゼを抑えられるといったら今の状況でラクスしかいないだろう また遠く離れていってしまう義姉妹に届かないと分かっていても心の中で何度も感謝の言葉を繰り返す (ありがとう・・・ラクス) 『何だか知らんがこっちも戻るぞ!追撃してヤブヘビになったらつまらんからな!!』 「はい」 そう言って二機は機体を返してAAへと向かう 『しっかし、とんでもねぇお姫様だったな・・・』 「・・・」 『・・・?どうした??』 「あ、いえ・・・」 キラはふと後ろの席にいるに顔を開けると俯いたまま肩を震わせている 「?・・・泣いてるの?」 キラは恐る恐る手を差し伸べる 「なんでもないの・・・何でも」 そう言って首を振るだけだった 涙で歪んだ視界の中にイージスが そして、あたしの全てが去っていった |