急に目の前が明るくなって顔を顰める 自分は横たわっていいるのでコックピッドではないとは分かった しかしここは自室でもない 白に統一されているがガモフの医務室でもない 「あ・・・れ?」 首だけで少し動かして傾げる 体が酷く重くて痛みが走った (・・・痛み止めが切れてる) 「目、覚ましたかよ?」 「よかった〜」 声の方向に顔をやると横にはトールとカズイが覗き込んでいた (そうだ・・・あたし、また学生になったんだ) その変えようのない事実がまた傷を痛めつけた 「それにしてもびっくりしたよ。キラが無断であの子連れて発進したって聞いて慌ててたらさ すぐ帰還してくるし、で帰還したらしたらでも一緒だろ?な」 「うん、それにその傷とかすごいから皆、真っ青だよ」 はやっときちんと思い出した あの交渉の後、シグーの不穏な動きも取り越し苦労に終わったのだ そして、帰還途中で痛み止めが切れて気を失ってしまったのだろう それでも軍人である自分ならし死ぬ気で堪えたのだと思う きっと、もう学生になってしまっている 幸せなただの一般人に (・・・まったく調子のいい体だ) しかし、何か違和感を感じる 「あ・・・それ、何?」 はトールとカズイが着ている青の軍服をさした 「ああ、俺たちAAが人手不足だから手伝ってるんだ。ブリッジに入るならちゃんと着ろって言われてさ」 「そ、キラがあんなのに乗って戦ってくれてるのに俺たちが何もしないわけにいかないだろ?」 何の屈託もなく笑う二人に胸が痛んだ 当たり前だ 彼等は こういう人間なのだ 真っ直ぐで優しくて あたしは何をやってるんだろう 「・・・そうだね」 は目もあわせられずただ頷くだけだった どうかこの声が 貴方に どうかこの声が 君に 届きますように ガモフでは何やらイザークたちが戦略パネルを囲んで話をしている 「確かに合流前に追いつくことは出来ますが・・・」 ニコルはそこで一度言葉を止めた パネルを見つめたまま苦々しい顔をしている 「しかし、これではこちらが月艦隊の射程に入るまで10分程しかありませんよ」 AAの追尾はガモフが引き継いでいた ヴェサリウスはラクスをラコーニ隊に送りと届けるためにガモフにその指令を引き継がせたのだ パネルに寄りかかっていたディアッカがちらりと視線をニコルに向ける 「10分はあるってことだろう?」 口の端を上げて笑った イザークもニコルの話を真剣には聞いてない 「臆病者は黙っているんだな」 「でも・・・!」 いつも慎重に物事を考えているニコルだが今回ばっかりは更に慎重になっていた あちらには捕虜がいる 大切な人が足つきにはいるのだ 表向きはそうではないがニコルから・・・ニコルたちから見れば一人で敵地にいる それは捕虜も同然だと思っていた 「がいるんですよ・・・足つきには」 「ふん!何を言っている。あいつは一人でも何とかできるさ」 「あいつはお前よりよっぽどしっかりしてるしな」 からかったように言う二人に対しニコルはまだ納得しないように目を伏せる 「ヘリオポリスでの怪我だってまだ完治していないのに」 「だったら早く助けに行ってやればいいじゃない?」 ディアッカが肩を竦めて目を細めた 「・・・そうさ、10分しかないのか10分はあるのかそれは考え方ってことさ。 俺は10分もあるのにそのまま合流するあいつを見送るなんてゴメンだけどね」 「同感だな、奇襲の成否はその実働時間で決まるもんじゃない」 「それは分かってますけど・・・」 「ヴェサリウスはラコーニ隊長の艦にラクス嬢を引き渡したらすぐ戻るということだ・・・」 イザークはそこで一度目を伏せて一息入れる 「それまでに足つきは俺たちで沈める、あいつも助ける。いいな」 強い瞳でそう言った しかし、それは簡単に言うほど容易なものではない 3人は分かっていた でも、やらなければいけないことなのだ AAを沈める事も ストライクを撃破することも を助けることも ゆっくりと3人は顔を合わせた 「OK!」 「・・・わかりました」 『ハロハロ、アスラーン』 ラクスの様子を見るために廊下を進むアスランにピンクの丸い物体が飛んでくる その球体は自分がラクスに送った「ハロ」だった アスランは大きく溜息をつく 向こうから来る人物におのずと予想がついた 「ラクス」 呆れたように名を呼ぶとふわりとドレスをなびかせてラクスが反対側からこちらへ向かってくる 「ハロがはしゃいでますわ」 アスランの傍で足をつけるとその手からハロを受け取る 「久しぶりに貴方に会えて嬉しいみたい」 「・・・ハロにそんな感情のようなものはありませんよ」 無邪気に笑うラクスにアスランは少しだけ眉を寄せた そのまま二人はラクスが来た場所へと戻る 「貴方は客人ですがヴェサリウスは戦艦です。あまり部屋の外をウロウロしないで下さい」 アスランは一時ラクス部屋として宛がわれた部屋のキーを開けると優しくラクスを促した 「何処に行ってもそう言われるのでつまりませんの」 ラクスは両手でしっかりと持っていたハロと目を合わせながら唇を尖らすようなしぐさを見せる 「仕方ありません。そう言う立場なんですから・・・」 アスランの言葉にラクスは大きく溜息をついた 「もいません・・・折角会えると思って楽しみにしてたんですのに」 「いたとしても、ガモフですからここにはいませんよ・・・」 「そうでしたわね」 「・・・」 アスランは先ほどの光景を思い出して顔を顰めた ふと、ラクスがアスランの異変に気付く 「何か?アスラン」 「いえ・・・あーご気分は如何かと思いまして」 少し照れた様に少し焦っていた ラクスはなにやら嬉しそうに微笑んでいる 「ふふ、私は元気ですわ。あちらの船でも貴方のお友達がよくしてくださいましたから だから大丈夫ですわ。もきっと」 アスランの顔が一瞬曇った 「そうですか・・・」 「キラ様はの事を本当に心配してくださってました。とっても優しい方ですのね。そして、とても強い方・・・」 「あいつは馬鹿です・・・軍人じゃないといっていたくせに、まだあんなものに・・・」 ラクスはじっとその顔を見つめ続けた しかしアスランは目を伏せていて気付かない 「あいつは利用されてるだけなんだ!友達とか何とか・・・あいつの両親はナチュラルだから・・・」 今度はラクスが顔を曇らせた そして、泣きそうな子供をあやすかのように手を差し伸べる アスランの視界にその手が入ると顔をそむけた 二人の間に何ともいえない空気がながれる ラクスの瞳ははじっとアスランを捕らえ続けていた 「あなたと戦いたくないとおっしゃっていましたわ」 「僕だってそうです!!」 反射的にアスランは声を上げてしまった そしてまた再び目を伏せる 「誰が・・・あいつと・・・」 それは友達だから? ラクスは問いかけようとして言葉を飲み込んだ 友達を守るといったキラに疑問を感じているのにあなたは友達であるキラと戦いたくない そう考えるのは少し矛盾ではありませんか? ラクスはそう思った ただ単純にそう感じただけであったが 「失礼しました・・・」 アスランが敬礼をして踵を返す 「辛そうなお顔ばかりですのね、このごろの貴方は・・・」 「・・・」 ラクスの言葉にアスランは何も言わなかった ドアの向こう側に立ったときやっと口を開く 「・・・ニコニコ笑って戦争は出来ませんよ」 そして静かにドアは閉まった まるでアスランの心を閉ざすように ラクスはしまったドアを見つめたまま自分が見てきた少しの事実を思い出す (アスランは悩んでおられるのですね・・・・・・貴方は答えを導き出せますか?) 誰も傷付くことがありませんように そして、ゆっくりと瞳を閉じた しばらくはトールとカズイと今までの経過を聞いていた その道筋は偶然と偶然の功名なる重なり でも、原因を作ったのは自分だ 話を聞けば聞くほど胸が痛んだ 「・・・そうなんだ。そんな事が・・・」 は目を伏せる 「でも、 だってザフトにいたんだろ!?どうだったんだよ」 「別に・・・コーディネーターだって分かったら優しかったから、トール達よりは全然だったし」 「・・・じゃあ、その傷は・・・??」 カズイが恐る恐る額の真新しいガーゼを巻かれた傷を指差した 「あ、これ?これと脇の傷と肩はモルゲンレーテでキャットウォークから落ちた時に、ね だからザフトでってわけじゃないの」 最後の言葉を聞くとカズイは明らかに安心した顔をする 「でも大丈夫なのかよ?」 「平気!分かってるんでしょ?あたし丈夫なんだから!」 コーディネーターだから とはいえなかった 今のあたしがそれを使ったら自虐的としか言えないから 「でも本当によかったよ、がいなくなってからキラもおかしかったし・・・な」 トールはカズイの方を向いて同意を求めた 「ん、でもそれはキラの友達のこともあるんじゃないかな」 「友達?」 「うん。あのイージス・・・を送ってきたやつに乗ってるのがキラの昔の友達なんだって」 「そ、そうなんだ・・・」 何とか一言搾り出した あたしは今、普通の顔をしていられるだろうか 「キラ・・・可哀想だよな」 キラとアスラン顔が交互に浮かんでくる あたしは あたしは カタカタと震え出した トールがの顔を覗き込んでくる 「、顔色よくないぜ?」 「ほんとだ!真っ青じゃないか!!・・・ごめんね、帰ってきたばっかりだってのに。トール」 「ああ、俺たち戻るわ。キラたちの処分も気になるし」 「・・・処分て?」 「ん〜それはまた後の方がいいかもしれない、もうちょっと落ち着いてからな。特になんでもないし」 トールはそう濁して言ったがは何となく分かった (ラクスをザフトに渡したから・・・勝手に動いたんだ、キラ) それはそうだろう まさか、そんな甘いことをこの戦場の中でやるわけがない それにキラが乗っているのは新型のMSだ たいした戦力もないこの艦が危険にさらされるかもしれない状況で 敵に捕虜を返すという自分たちにもっとも不利な状況に使うなんて事を考えるのは ただ捕虜を返すだけのために そして、捕まっていると思っていた自分の為に (・・・優しさしか知らない人たちがやることだ) 俯いたままのにトールとカズイはいそいそと立ち上がりドアへ向かう また来るからお大事に、とにっこり笑って ドアが閉まる音を聞いてからは大きく息を吐いた 震えはまだ止まらない ドアの外から話し声が聞こえてきた 「キラ、どうだったのさ?」 「それが聞いてくれよキラは何にもお咎めなし!俺とミリアリアはトイレ掃除だよ〜」 「あはは、頑張れよ!」 「ごめんね!僕も手伝うからさ、サイ!」 「別にいいって」 笑い声が聞こえてくる あの時は何十にも重なる笑い声が嬉しかったけれど、今は怖くて仕方がなかった 「は?」 「ちょっとまた具合悪くなったみたいでさ」 「またにした方がいいかもよ」 「そうだな・・・じゃ、先に食事か。さっき休憩だって声かけられたから」 「・・・」 「また来ればいいじゃんか、な、キラ」 「・・・うん。ゴメン、先に行ってて」 「あ、キラ!!」 「たくしょうがねーな、先行ってようぜ」 一つだけコチラに足音が近付いてくる 今、キラがここに来たとしても顔をまともにみれる自信がない ちゃんと話せる自身がない (お願い、来ないで・・・) そんな願いも無情にも足音はどんどん近付いてくる はただ手を握り締めて震えるしがなかった 足音がとまった でも、扉は一向に開かない 「早く、よくなってね」 聞こえてきたのは優しいキラの声 涙が溢れてくる その声はあたしが聞いてるなんて知らないだろう ただ 切にそう願っているだけ 嘘つきの裏切り者のあたしのことを それだけ言ってまた足音は遠ざかって行った 安心したはずなのに 心の鼓動は大きくなっていた 苦しくて 痛くて もう何処が苦しいのが痛いのか分からなかった 誰もあたしがザフトの兵士だって疑いもしない お願いだから疑って 疑って 怪しんで 問い詰めて そして、批難してくれればいいのに そうしてくれたらどれだけ楽か どれだけ・・・ |