「早くよくなってね」



キラの優しい声が頭から離れない


(あたしは…)


ザフトの人間なのに

言葉は続かなかった

何も知らない優しさはとても痛い

はシーツを握り締めた


右腕の脱臼はもうほとんど治っている

握力も戻ってきた

脇腹の射たれたキズはまだ回復しないがもうそんなに痛むわけでもない

打撲なんて我慢すればなんとかなる

それに一度戦っているのだ

(ここまでくれば…やっと完全に戦える)



でも


あたしがここにいる以上、何もできない


彼等がここにいる以上、何もできない


理由なんて分かっているのに「どうしてこんなことに…」を繰り返した



今は戦争

甘い気持ちでは何も出来ない

あたしには決心が必要なのだ

もう一度シーツを握り締める




警報が鳴り響いた

急に外が慌ただしくなる

その音達が頭に残った優しい声を掻き消すように酷く耳についた

「…キラ」

伝えなくてはいけない

そして伝えたらあたしはどちらに対しても元には戻れない

あたしは

もう誰かを犠牲にしてしまったんだから自分も犠牲になる覚悟はある


でも怖い


ただ純粋に怖いのだ



鑑は大きな衝撃を受け大きく揺れた


















どうかこの声が

貴方に



どうかこの声が

君に




届きますように














 
call 【告げられた真実】















発進したストライクはデュエルと交戦していた

視界にはバスターと交戦中のゼロとブリッツを砲撃するAAの姿か入る


守らなくちゃいけない


僕が


みんなを


フレイを






そうだ

僕は戦うんじゃない

守るんだ



その気持ちがキラを目の前にある戦闘への集中力を欠かせた

そんなキラを見透かしたようにデュエルは執拗に攻め込んでくる

キラははっとなり必死で受け流した

『くそっ!手こずらせる!』

通信から声が聞こえてくる

(!?…回線が開いてる?)

何かの弾みで開いてしまったのだろうか

聞こえてくる声がキラはデュエルからだとすぐに分かった

その動きと声がリンクしていたからだ

「うわっ!!」

目の前にデュエルのビームサーベルが振り下ろされ慌ててシルードで受け止める

何とか防いだが機体がぐらりとした

『もらったぁー!!』

もう一度デュエルが迫りくる

様子からしてこちらの声は聞こえていないのかもしれない

キラは間一髪で避けるとバーニアを噴かせてデュエルから少し離れた

『キラ…戻ってきて…ブリッツにと…かれ…』

途切れ途切れに通信が入る

(…!?)

キラは慌てて背後のAAに目をやった

AAには黒い機体、ブリッツが取り付いている

至近距離でビームライフルを射っているのだろう

火花が飛び散り装甲が白く発光している

キラは目を見張った



あそこには…



「このお兄ちゃんが戦って守ってくれるから」



キラの頭に先程のフレイの言葉が蘇った

そうだ

自分が

自分だけが守ることができる

それだけで

たったそれだけの言葉で迷いや悲しみは吹き飛び自分は英雄になったようだった



「キラ」



もう一人少女の顔が浮かぶ


同じコーディネーターの


自分にとっての特別な少女


レバーを握り締める


守らなきゃ

守らなきゃ

守らなきゃ

呪文のように心の中で繰り返す

様々な記憶と一つの想いが重なりひときわ大きく鼓動を打った


AAはしずめさせやしない!!


そして

何かが大きく弾けた




『ストライクゥ!』

その声と迫り来るビームサーベルが連れていかれかけていた意識を引っ張り戻す

振り向いたキラの目にはまるでスローモーションのように全てが映った

『あいつはお前らのところに居るべき人間じゃないんだ!』

(…あいつ?)

その言葉にキラは反応する

デュエルのパイロットはこの間も何かに必要に固執していた

それを全部自分にぶつけているような気がする

でも、今はそんなことを気にしている場合じゃない

軽くサーベルをかわし、自らも一連の動作の中で反撃を加えた

その攻撃がデュエルの脇に当たりぱっと火花が散った

デュエルの動作が一瞬止まる

『くっ…!』

しかし、ストライクはデュエルの動きを見ぬままにバーニアを噴かし離れた

その目は真っ先にAAを捕えている



僕が守らなくちゃいけないんだ



背を向けて離れていくストライクにデュエルはビームライフル

しかし、キラは背中を向けたままひらりとかわしていく

『かわした!?』

その焦りの声はストライクの方にまで届いていたがキラの耳には全く届いてはいなかった

今のキラにとっての敵はAAを攻撃しているブリッツのみ

「やめろぉぉぉぉぉ!!!!」

キラは声を上げ切りかかるとブリッツは間一髪で飛びのこうとする

しかし、それに対する反応もキラのほうが早くブリッツの胴を膝で蹴り上げた

金属がぶつかり合い、悲鳴にも似た音を上げる

後を追ってきたデュエルがビームサーベルを大きく振りかざした

キラは振りかえり応戦しようとする

『もらったぁ!!』

デュエルのパイロットが声を上げた

回線はまだ繋がったままのようだ

キラは一度ひらりとかわした

デュエルはすぐに体制を立て直すとまた切りかかってくる

キラは腰部のアーマーシュナイダーを取り出すと先ほどの亀裂を狙おうとした

『くそ!!きさまぁ!!!返せ!を返せ!!』







その名がキラの動きを止めた


(・・・また、の名前)


そういえば、一度だけ交戦中にの名前を聞いた事があった

でも、気のせいかと頭からすっかり離れていたが

今度ははっきり聞こえた


、と


なぜ、彼は

(・・・アスランもおかしかった)

彼等はこんなにに固執するのだろう

何かが繋がりそうで

繋がって欲しくなくて


しかし、キラの前には目の前には迫り来るMS

何も考える事が出来ずに無意識に体が動き

その攻撃を反射的に避け動き深く切りつけてしまった

デュエルの腰部とアーマーシュナイダーの間で火花が散る

その衝撃にデュエルは吹き飛ばされ動きが完全に止まった

それを見た他の2機もそちらに気をとられる

キラはぽかんとして整理を付けようとした

通信からはデュエルのパイロットの呻き声が聞こえてくる

リアルな音

でも、もっと・・・




そしてそのまま二機はデュエルに寄り、抱える様にして離脱していった

キラは肩で大きく息をする

何だか夢から覚めたばかりのようなあいまいな気持ちだった

『やつら引き上げていったぜ、よくやったな坊主!』

「大尉・・・?」

嬉々とするフラガの声にも気の抜けた返事を返す

『ん・・・?お前・・・』

「え?」

『いや、すごいやつだよお前は』

キラはフラガの顔を見ていなかった

耳だけで話を聞き口を小さく開いて返事を返す

「・・・いえ」




守りきった


でも

違う


自分がやったものではないと分かった

それなのにこの不思議な感覚に酔いそうだった

気持ちがいいような

怖いような


はっきりしない頭の中でデュエルのパイロットの言葉が蘇る

キラは思い返す

は保護されていた・・・アスランが連れ帰って・・・)

はじめの時も何か引っかかっていたがどうしてこんなおかしい事に気が付かなかったんだろう

キラは自分に本当に余裕がなかった事を改めて痛感させられた


繋がる



確実にいえるのは

彼らもの事を大切に思っているのだ

それは自分と同じような想いで・・・



(・・・それって)






キラはドックに戻るとヘルメットを取ってコックピッドを出た

「坊主!!」

「・・・大尉」

先に帰還していたフラガはパイロットスーツを脱ぎ普段の軍服でキラに寄って来る

「どうしたんですか?」

「いやさ、悪いんだがゼロの修理に少し手伝って欲しいんだよ、着替えてからでいいからさ」

「あ・・・別にいいですけど、その・・・」

キラは少し目線を落とした

「その?」

フラガは眉を上げて腰に手をやる

「・・・少しだけ時間もらっていいですか?そうしたらすぐ手伝いにきますから!」

「あ〜、いやそれは別に構わないが・・・どうし」

「ありがとうございます!」

フラガが最後まで言わないうちにキラは足場を蹴って出口へ向かった

「・・・おいおい、話は最後まで聞けっての」

各所の修理で忙しいドックにフラガの溜息だけがのんびりとひろがる









キラが医務室にはいるとそこには医師はおらずベッドにはが一人で寝ていた

物音を立てないようにゆっくり歩いて近付いていく

静かな部屋に寝息だけが聞こえる

ギ・・・とベッドが軋む小さな音

キラはベッドに腰掛けるとの寝顔を見つめた

触れたくてしょうがなかった人がそこにいる

キラはゆっくりと手を伸ばし髪に触れた

「・・・ん」

はくすぐったそうに身をよじる

その全てがいとおしい

だから、許せないものもある

目を覚ましてしまう事が怖くなかったわけではなかった

でも

このいとおしさが最後になるかもしれないから

キラはゆっくりとに顔を近づけた

触れるだけのキス

「・・・キラ?」

今まで閉じていた瞳がキラを映す

の体がびくりとした

「あ・・・れ?キラ・・・どうしたの?」

「…君は誰?」

キラは目を反らさず、そしてそらさせなかった

そんなぶしつけな質問に普通なら笑い出すだろう

しかしの瞳はぴくりと揺れた



あたしはあたしよ



のどがひどく乾いて

その声は出なかった

ごまかしにおどけて笑うこともできない

なおもキラは鋭い目でを捕え続けた

「本当の君は僕達が知ってる?」

「・・・キラ」

今度はキラの瞳がひどく揺れている

はその様子に自分が寝ているうちに何かあったんだと悟った

「あたし」

「違うよね…」

静かに俯いたキラはの言葉を遮り自分の手を握り合う

何かを迷うようにキラは口を閉ざした

(・・・きっともう、駄目だ)

キラは何かに気付いたのだ

はキラの様子を見て胸が掴まれるような痛みと共に半ば安心したような気持ちになった

「ザフトの人間」

あまりにもストレートにその言葉を発したキラにのめは零れそうなほど大きく開く

分かっていたけれどそれはひどく大きな衝撃で

言い出したキラも唇を噛み泣き出しそうな表情をしている

きっとこれをこれを言い出すのは本当に辛かったのだろう



崩れる

何もかも

違う

崩したのはあたしだ

だから



「あたしは・クライン。あなたが助けてくれたラスクの義妹。ザフトのクルーゼ隊所属。

 覚えてる?アルテミスでストライクとブリッツの間にはいったMS、あれのパイロット」

ごまかそうとすればごまかせた

でも、あえては本当のことを言った

そう告げられたキラは両手を硬く握る

あなた、とはキラのことを呼んだ

今までそんなことはなかったのに

ほんの少しのことなのに

それが酷く悲しかった



「・・・それからアスランの友達」

キラが顔を上げた

ひどい顔だった

戸惑いと悲しみと怒りと

いろんな感情が入り混じった、本当にひどい顔だった

「・・・僕は」

そして立ち上がり駆け出す

「…キラ!」

立ち止まったり振り向いたりしてくれるはずがないのは分かっているのに

はキラの名を呼んだ

声は空しく消えた

は両手に顔を埋める



きっとお互い誤魔化して

誤魔化されようとすればこのままうまくいったのかもしれない

ばればれの嘘をついて

やりすごして


今のままでいられたのかもしれない

こもままやれる自信がなかった

それも一つかもしれないけど


でも








第八艦隊との合流は間近に迫っていた














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