「クルーゼ体長の言ったとおりだな」 深紅のパイロットスーツに身を包んだ少年が丘から見下ろす。 しっかりとかぶったヘルメット隙間から銀髪が覗いた。 「・・・あ」 隣にいた褐色の肌の少年がこの緊張感に似合わない声をあげる。 「どうしたディアッカ?」 「いや、言うの忘れた」 はぁ?と銀髪の少年はいかにも怪訝そうに眉をしかめた。 「いや、後でいいや。ここでお前の機嫌を損なうのも怖いし」 「どういう意味だ?」 さらに眉間の皺が深くなる。 それを無視してディアッカと呼ばれた少年は、口元だけ緩めると、視線を移動しているトレーラーに戻す。 「なんでもないって。ほ〜ら、作戦決行だよ」 少し離れたところで緑色の瞳で前を見据える少年にはこの声は届いていなかった。 どうかこの声が 貴方に どうかこの声が 君に 届きますように ラボ内に入る前はちょっと用事があるとキラたちと分かれた。 ラボから少し離れた使われてない教室に入り、入口にロックをする。 そのロックはもちろん正当なものではない。 カレッジといえど、そんなに易々と教室にロックが掛かるものではないのだ。 だから、自分の持つ秘密を守るために回線を少しいじって”正当”ではないロックをかけた。 教室の隅に座るとカバンから小型のパソコンを取り出し、胡座をかいた上に乗せカタカタと打ち始める。 しばらくすると、メールを受信したマークが表示された。 (メールがきてる・・・ニコルと・・・げ、イザークからだ) メールの文面を目で追う。 (とりあえず、返しとくか) 報告と私用のメールを返し終わったあと、大きく伸びをした。 手の関節をポキポキと鳴らし、すぐにパソコンを閉じる。 「完了。さて、この生活もあと僅かか・・・」 はもう一度、大きく背伸びをしてあくびをする。 「さて、皆のところに戻りますかね。・・・と、その前にトイレに行って」 トイレから出てきたは突然の轟音と揺れに足をすくわれる。 「うわっ!何なのよコレ?!」 慌ててトイレの正面の窓に寄ると、あちらこちらで黒い煙が立ち昇っていた。 街には数体のザフトのMSジンが闊歩している。 「はぁ?嘘?!何でジンが出撃してるわけ?」 の遠目にジン以外のMSが起き上がるのが見えた。 「あれってもしかしてXナンバー?はぁ、作戦は今日じゃないじゃない!!」 そう言っているうちに、もう一つカレッジに大きな爆発が起きる。 は必死に頭の中で、目の前の出来事と自分の中の情報を整理しようとした。 しかし、どう考えても答えは一つ。 ”作戦結構時刻が早まった”のだ。 「ちょっと!作戦時間早まったって聞いてないんだけど!あの垂れ目!!」 響く爆発音と揺れる建物の中で、昨日、呑気な会話のみをして通信を切った同僚の顔を思いだし叫んだ。 「とりあえずここから脱出しなきゃな、あいつをしめるのは無事に鑑に帰ってそれからだ!」 握り拳に力を込めて壁を思いっきり叩く。 それと同時に正面の通路奥から爆発音がした。 煙幕と爆風が迫る。 「嘘ぉっ?」 あたしが壁殴ったせいせい?とは小さく舌打ちすると巻き込まれないために横の通路へ飛込んだ。 爆発の衝撃で体が押される。 バンッ 急な衝撃に受け身を取り損なったは右肩から床に叩き付けられた。 「いった〜!…あ〜あせった…危なく巻き込まれるところだったよ」 半身起こして今まで自分がいた場所が爆発で崩れていくところを見ていた。 (間一髪って・・・このことだね) 立ち上がり、服を叩こうとした時、ズキっと肩に痛みが走る。 右肩に力がはいらない。 (・・・あ〜もう、泣きたい) 自分の不運さに頭を垂れるしかなかった。 「〜だと思ってたんだ!」 「ん?」 飛び込んだ通路の奥から声が聞こえてくる。 視界はまだ先ほどの爆発の煙によって遮られていた。 (声の震動からして距離50m弱って所ね。 まさかクルーゼ隊に敵地で大声上げる馬鹿はいないと思うんだけど …てかそれ以前に目的がGならここには用はないはずだし) 結論はすぐに出た。 (一般人、それもナチュラルあたりか) はまいったなぁという顔をして、痛まない方の腕でがしがしと頭を掻いた。 (とりあえず、妥協策として難民のふりしてシェルターまで一緒にいってもらおうかね、 きっと足手まといになるだろうけど) 納得が行かない策ではあるが今は諦めてそれでいくしかないのだ。 (あたし一人の方が楽だけど、これだと見捨てるみたいでやだしね) はじょじょに煙が晴れてきた通路に目を凝らす。 その先に二つの人影が見えた。 は一応身構える。 (まぁあたしの正体を知っている人はいないから心配はないと思うけど) はっきりと姿が確認できるぐらいまでくるとは目を開き、そして口を開いた。 「キ、キラ?」 「!?」 「何してんのこんなところで?!危ないのわかんないの?しかもトール達は? 「さ、先に避難した」 「じゃあ何でキラだけこんな所にいんのよ?!」 凄い剣幕で迫ってくるにキラはたじろいだ。 がちらりと横を見ると見覚えのない女の子がいる。 「あ、あれ?もしかして、逢い引きの・・・途中だった?」 「え?」 その反応がわざとや隠し事をしているようには見えなかったのでは大きく頭を振った。 「あ〜ごめん。緊張感のないこと考えてた。不謹慎でした」 キラはひとりで納得しているに首をかしげた。 そして再び建物内に爆発音が響く。 「とりあえずここは危ないから逃げよう!」 キラがそう言うとの前に手を出す。 「??」 は首を捻った (いや、この場合はコーディネーターのあたしよりナチュラルのこの子だろ) 女の子の手を取るとキラの手にのせる。 キラの顔が少し曇った。 だが、は全く気付く様子はない。 「ほら、早く逃げるよ!」 駆け出そうとするの横にいたキラの動きが止まる。 正しくはキラが止まったのではない。 少女がキラの手を振り払おうと必死になっているのだ。 「ちょっと、何してんの?!」 「私には確かめなければならないことが・・・!!」 「・・・きみ?」 あまりの必死な形相にキラも動きをとめざるえない。 でもは違った。 この状況で何を言ってるんだというような顔でいらついていた。 「確かめたいことも死んだらできないの!今の優先順位は”逃げる”!! とりあえず生きてたら、あとは何でもできるでしょ? あんたがここで何を確かめようとしても構わないけど、 それで手を離してあんたが死んだりしたらこっちが胸糞悪いって言うの!!」 「む、胸糞!?」 口の悪い言い回しに少女も声を上げる。 結局、自分の為に迷惑をかけるなといった口調で喋るにキラは笑みを溢した。 (もっと、言い方あるだろうに・・・) そんなの発言に自分も落ち着けた気がした。 そして少女もまた一瞬だけ驚いたように目を開いたが、冷静さを取り戻し何をすべきか分かったようだ。 再び爆発が起こる。 キラはしっかりと少女の手を握り、真剣なまなざしで少女を見た。 「とにかく非難が先だよ!!工場区に入ればまだ退避シェルターがあるはずだから!」 最後にと目をあわせ頷くと、少女とともに走り出した。 自分が生き残るために やっとたどり着いた工場区では、想像していた以上の惨劇にキラと少女は足をすくめた。 は苦々しい顔をして下唇を噛んだままだ。 眼窩に広がる戦火とその中央で優々と横たわる二体の異形のもの。 「これって・・・」 キラが無意識に零す。 圧倒的な威圧感。 (そうだ、これが) 少女が手すりに手をついてがっくりとうな垂れる。 「地球連合軍の新型起動兵器・・・やはり・・・」 (ビンゴってやつね、生で見ると本当にすごい迫力) ぼーと見いっていたの隣で少女が何か叫んだように聞こえた。 響き渡った声に兵士が気付く。 キラは銃口が向いたのを感じ、とっさに二人を手すりから引き離す。 放たれた銃弾は間一髪の所で手すりにあたり、軌道を変えた。 背中に冷やりとした感覚が広がる。 「早くシェルターの方に行こう!」 キラが少女を抱えるようにして、また再び走り出した。 も踵を返そうとすると右肩から全身に痛みが走る。 (腕が痛み出した・・・折れたかな) かすかに右肩を庇うようにしてもキラの後に続く。 退避シェルターにつくと中央のシェルターだけ緑のランプが点滅している。 キラがインターフォン越しに何か必死で頼んでいた。 振り返ったキラの顔が少し曇っている。 「・・・一人なら平気だって」 「一人?」 少女が明らかに顔を歪める。 「左ブロックの37シェルターならまだ空きがあるみたいだからそこまで行けば・・・」 「よっしゃ、じゃあ決まりね」 は少女の後ろにまわり、肩を押してシューターの中に押し込もうとする。 やっと少女のほうも意図が掴めてきたらしい。 「なに?お前らは?!」 「僕らはあっちのシェルターへ行く!大丈夫だから!!」 「なっ!こっっちだってコレでお前らに死なれたら夢見が悪い!!」 少女は必死になって毒気づくが全く聞き入れてはもらえない。 シューターの扉を閉めようとが近づき扉を閉めようとする。 そしては少女を見つめゆっくりと微笑んだ。 そのひどく綺麗な笑顔に息を呑む。 「あたし達は死なないから」 言い終わるかいなかのところでシューターは完全に閉じてしまった。 ランプが赤になる。 「さて、あたしはここでキラと心中したくないからさっさと左ブロックへ行きますか」 二人はシューターが下り切ったのを確認すると微笑み合う。 こんな状況下でもと一緒なら安心できる、笑える。 (僕は構わないけどなぁ) キラは不謹慎ながらもそう思った。 戻ってきた工場区はさっきよりも悲惨な状況になっていた。 たくさんの人間が人形のように転がっている。 「?!」 の視線の先に二つの赤いパイロットスーツが目に入った。 (・・・誰?ヘルメットまでちゃんと被ってるから、遠目だし体形だけじゃわかんないか でも、上手くいけば合流できる) 「来い!」 急に大声で下から叫ばれる。 覗き込んだ先には必死に女性がライフルを撃ちながらこちらに来いと促していた。 「左ブロックのシェルターへ行きます、お構いなく!!」 「あそこはもうドアしかない」 その言葉にキラとは顔を合わせて手すりに飛び乗る。 はじめにキラが飛び降りて下でを受け止めようと待っていた。 (別に大丈夫なのに) は心配性なキラに笑みを溢す。 飛び降りようとした瞬間、1つの銃声がやけにはっきりと聞こえた。 バンッ 一瞬周りが止まったようにゆっくりと動く。 下にいたキラの顔が青ざめていくのがはっきりと分かった。 体がぐらりと傾いて手すりから落ちる。 視界が回転した。 わき腹がやけに熱い。 (・・・最後までついてない。てか、打ったやつだれだよ) は降下するときの独特の気持ち悪さと、あまりの痛みに落ちる中意識が遠のいていく。 最後に見たのは、泣きそうな顔をしてキラが着地した場所から必死で手を伸ばしている姿だった。 その異形物の上ではなくではなくドサリとは物のように床に落ちた。 「ッーーーーーーーーーー!!!」 はぴくりとも動かなかった。 キラの悲痛な叫びもには全く届かない。 思いもしなかったことにただただ立ち尽くすしかなかった。 あまりの恐怖にキラはかたかたと体を震わた。 バン 「あうっ!!」 再び聞こえた銃声と女性の悲鳴にキラは我に返る。 そして、キラ達がいるこの異形のものに飛び乗ってきたザフトの兵を睨み付ける。 言いようのない憎しみがきらを支配しようとしていた。 しかし 「・・・キラ」 その深紅のパイロットスーツに全身を包んだその兵士は自分の名を呼んだ。 すぐにでもの元に駆けつけたいのに その声に かすかに覗く緑の瞳に体が動かない。 思い出がリプレィされる。 「・・・アスラン」 無意識に呟いた名前に兵士はぴくりと動く。 それは無言の肯定なのだろうか。 たくさん流れ出す血とともに 歯車は狂いだした |