爆発音 銃声 悲鳴 その中心であるはずのここは時間が止まったようだった。 キラとアスラン 思いもしなかった再会。 キラの目に映る赤く染まったパイロットスーツに身を包んだアスラン。 アスランの目に映る地球軍士官と共にGの上に立つキラ。 あの時、こんなところで再会するための約束じゃなかったはずなのに お互いがお互いに掛けようとした言葉が銃声によって切り裂くようにかき消される。 負傷していた女性がアスランに向けて銃口を向けていた。 「っち!」 アスランは小さく舌打ちすると身軽にそれらを避けていく。 まだ唖然としていたキラは女性に体当たりをされバランスを崩しコクピットへ落ちていった。 「なにするんですか?!まだ が外にいるの…」 その言葉は途中で途切れる。 女性も乗り込みハッチを閉めたからだ。 微かに聞こえたキラの声が、残されたもう一機に向かおうとするアスランの動きを止めた。 不確かな声だが確かに言葉は聞き取れた。 と どうかこの声が 貴方に どうかこの声が 君に 届きますように (… ?) アスランはとっさに浮かんできた、同じ名前の同僚の少女の顔を掻き消そうとした。 (いや、そんなはずはない) 彼女はクルーゼ隊長からかせられた極秘の任務を遂行するため、何処かに潜入しているのだ。 ”何処か” アスランは彼女がどこへ潜入しているのかを知らない。 同じクルーゼ隊でも彼女はアスランと違う鑑、ガモフのクルーだったので、 ヴェサ リウスのに乗っていた自分にはそれ以上の情報が入ってこなかった だからといってクルーゼに聞くわけにもいかない。 気になって仕方なかったアスランが通信で同じ鑑にいるニコルに聞いてみても 「すみません。実は僕も知らないんです」 と言われたのだ。 同じ鑑なのに知らないなんて、余程重要な事なのだろうか。 アスランは眉をしかめた。 その後のこの奪取作戦会議で会ったイザークとディアッカは何かを知っていたのだろう、 の事を聞くに聞けないアスランを見て二人で嘲笑っていた。 それでもアスランはその時の屈辱よりも任務前にが自分に何も伝えてくれなかったことが悔しかった。 思い出す感情に唇を噛む。 アスランふと思出した。 ラスティが撃たれる前視界の端で落下する人影を (まさか…) それがだと言う確信も、落ちた人物の性別すら分からないのに無償に気になって仕方ない。 (そんなはずは…) アスランは頭をふって嫌な予感を振り払おうとする。 (…そもそもがヘリオポリスいるわけ…) しかし可能性としてないとは言えない。 どちらかと言えば高いだろう。 極秘の潜入 G奪取作戦 彼女の捜査報告によりこの作戦が早まったのだとしたら… 断片的なものを照らし合わせながら考えると、あくまで推測上だが合点がいく。 でも今の自分には、それ以上悠長に考えている時間はない。 しかし今、そこに行かなければいけない気がした。 疑惑を抱いたままキラ達が乗り込んだGの脇に横たわったままの人に近付く。 「!!」 アスランはその光景に目を開き言葉を失った。 うつ向いて倒れていて顔が見えないにも関わらず、 それが自分の探していた少女だとすぐに分かった 必死で掻け寄り抱き上げる。 顔には切った額から流れた血で髪がべっとりと張り付き、 体は血まみれでぼろぼろだったがそれは確かにその少女だった。 やっとの再会もこんな形でなんて 言いようのない感情が駆け巡る。 耐えられなくなったアスランの目に涙が貯まる。 「…ッ」 やっと吐きだした一言の後、更にアスランはきつく唇を噛んだ。 微かに血の味がする。 (どうしてこんなことに!どうしてが!!) の体を持ち上げ、もう一体の機体に向かう。 アスランの目には言い様のない怒りが満ちていた。 抱き上げたときに微かな暖かさと、時折漏れるようにこぼれる息が、まだ生きているとアスランに告げる。 それを感じる度に張り積めた糸のようなアスランの理性を繋ぎ止めていた。 のろりと動きだしたもう一機を横目に足早にコクピットに入り込む。 に衝撃を与えないよう自分の腕にしっかりと抱いた。 ヘルメットをはずし、もう一度だけの顔を見る。 血だらけの額にキスを落とした。 もちろん反応はない。 アスランは悲しい表情をする。 (…早く君の声が聞きたいよ) そう思いながらヘルメットを被り直した。 それからレバーを持つ手に力を込めきつく正面を見据える。 爆音が響く中、アスランはモルゲンレーテを後にした。 外に出ると騒然とした状況に驚かされる。 先ほどまでの平穏で平和そのもだったこの中立国は見るも無惨な姿になっていた。 あちらこちらで黒い煙が立ち上がり、ジンが工場や持ち帰れないパーツを破壊している。 これが戦争なのだ。 しかしアスランはこんな状況下でも頭から離れなかった。 のこと キラのこと 頭の中はぐちゃぐちゃになりそうだった。 しかしここは戦場だ。 今、相手が殆んど戦力を持たない状況でも何が起こるかわからない。 気持ち半分と言ったところだが、目の前で上がる戦火にアスランは素早くOSを書き換えてゆく。 モニターにジンに乗って゛後片付け゛をしていた仲間から通信が入った。 二期上のミゲル・アイマンだ。 『よくやった、アスラ…んん?!』 ミゲルは目を開きとアスランの顔を交互に見る。 普通、モニター越しに会話をするためコクピットの中の様子は通信をした相手に筒抜けだ。 アスランはミゲルが言いたいことを理解したが、あえてその話題には触れなかった。 「ラスティは失敗だ、向こうの機体には地球軍の士官が乗っている」 『それで、ラスティは?』 アスランは黙って顔を横に振った。 を見て拍子抜けしていたミゲルの顔も激情を露にする。 どちらかと言うとミゲルもイザーク達と同じでナチュラルを見下している所があった。 そんなやつらに同胞を殺されたとなると彼が頭にこないはずがない。 その時、モルゲンレーテからよたよたと歩き始めた赤ん坊のような最強兵器が目にはいる。 ミゲルの苛立ちが高まっていった。 しかし、ミゲルの視線はモニターの端に映るに戻った。 「アスラン、それだよな。行きてんのかよ?」 やはりその質問は来るな、とアスランは心の中で呟いていた。 潜入調査に行った同僚が血まみれで保護されている、ミゲルでなくても気になるだろう。 それにその人物はだから余計になのだ。 アスランはしっかりと首を振り肯定をした。 「潜入先がヘリオポリスだったらしい、今のモルゲンレーテで巻き込まれた。詳 しい話はまた後だ」 一時、激情が収まったように見えたミゲルの顔が一気に怒りに満ちる。 『なら、あの機体はおれが捕獲する!お前は一刻も早く離脱しろ!』 キラの事も気になったがやはり腕の中で弱っているの方が優先だ。 ミゲルの声にアスランはもう一度強く頷くとコンソールのボタンを押した。 鋼色の装甲が一瞬にして炎のように血のように赤く染まる。 フェイズシフト・システム 一定の電流を流すと位相転移が起こり、装甲が硬化してあらゆる物理的攻撃を無効化するものである。 Xナンバーの特徴の一つでもあった。 アスランはその様子に唇を噛む。 「…ナチュラルがこんなものを作るから」 その呟きは自らが飛び立つ轟音に掻き消されていった。 沢山のことがアスランの後ろ髪を引く。 しかし今はヴェサリウスに戻らなくては アスランはまた唇を強く噛んだ じわりとその唇から血がにじんでいた。 |