カタパルトハッチから放り出されたストライクは想像以上の重力の影響を受けていた。 そのまま引かれない様にキラは方向を変えようとしたがフットペダルが重い。 「くそっ重力に引かれているのか・・・」 キラはキーを出して操縦系統を微調整しはじめた。 「そこはそっちで設定した方が楽よ」 「・・・分かってる」 その指示の的確さにがザフトの人間である事を再確認させられてしまった。 怒りと悲しみがキラに込み上げる。 「・・・まずい」 後ろから聞こえた声に自分の調整ミスを確認しようとしたがそれではなかった。 警告音が流れ始めたのだ。 目の前にはMSが立ちはだかっている。 装備が重厚になった気がするが、紛れもなくデュエルだった。 どうかこの声が 貴方に どうかこの声が 君に 届きますように ストライクが発したビームライフルはあっさりと交わされてしまった。 それどころか、避けたデュエルはビームサーベルをかざして接近してくる。 キラはそれを間一髪のところで交わした。 シールドで必死に受け流して入るが、容赦のないデュエルの攻撃に押されている。 デュエルの装備を苦々しく見つめていたはやっと思い出したように呟いた。 「・・・アサルトシュダウトじゃない」 「アサルトシュダウト?!」 「デュエルの追加兵装。一見そうは見えないけれど、機動力もあがるの」 それでさっきの一撃が避けられたのだ。 今、繰り出されている攻撃も反撃の隙を与えない。 (どうにかして反撃をしなくちゃ) キラがペダルを踏もうとした瞬間、大きな爆発音が聞こえた。 二人は嫌な予感に刈られ、爆発音の方へ目を向ける。 炎上していたのはメネラオスだった。 あの艦にはキラと話をしていたあの人が乗っているのだろうか。 キラを、自分を導いてくれたあの人が ふと見慣れた戦艦を見つけた。 懐かしいガモフがメネラオスの傍で炎上している。 更にそれを取り巻くようにメビウスとバスターたちも見えた。 (・・・まさか) はよぎった予感を振り切ろうとする。 生真面目な軍人の鏡のようなゼルマンはこれまでの失敗をその命に代えても償うつもりなのだろうか。 そのとき、最後の抵抗とも言える一撃がメネラオスから放たれ、ガモフは一瞬にして貫かれた。 再び大きな爆発音が響く。 (ゼルマン艦長!) 心の中で声にしてはいけない叫びをあげた。 メネラオスから小さなシャトル射出され、 それを最後に爆発し続ける二機は地球の引力に引かれ消えていく。 地球に吸い込まれるように 彼の見事な敬礼が見えた気がした。 泣いてはいけない。 泣いてはいけない。 そう繰り返しながらシートに掛けていた手を堅く握る。 メネラオスとガモフの交戦に気を取られていたが、ストライクとデュエルはいまだ交戦中だ。 気付かなかったたが、重力が強くなってきている。 「キラ!戻らないと!!振り切れば大気圏内突入だから、これ以上は相手も追ってきようがないわ」 「それが出来れば苦労がないよ!!」 キラはデュエルのサーベルを受け止め押し返す。 跳ね飛ばされたデュエルの動きも少しだけ鈍くなっているように感じる。 流石の追加兵装のデュエルも重力には逆らえないようだ。 それでも喰らいついてくるデュエルにはただただ感服する事しか出来なかった。 でも、このデュエルをどうにかしなければ、自分もアークエンジェルには戻れないのだ。 (あのおかっぱ!早く戻りなさいよ!!!) 体制を立て直したデュエルがこちらへ迫ってくる。 キラも向かっていった。 予想外だったのかデュエルの動きが一瞬だけ止まり、そのすきを見てキラはシールドでライフルをはじいた。 「キラ、スラスターに点火して!!」 すぐにスラスターを入れたストライクは回し蹴りの要領でデュエルの顔面を蹴り飛ばす。 後方に飛ばされたデュエルとの距離は大きく開いた。 は小さくガッツポーズをとる。 (・・・は本当にザフトに攻撃をした。) 直接、攻撃したのは自分だが、そう指示を出したのはである。 本当には自分たちを守るためにザフトと戦うのだろうか。 「離脱しよう!」 呆然としていたキラは現実に引き戻され、ペダルを踏もうとした。 逃がすまいとデュエルはライフルを構える。 ロックオンの警告音が鳴り響いた。 そのとき、視界を横ぎるものがあった。 メネラオスから射出されたヘリオポリスからの避難民が乗るシャトルだった。 「!?」 ビリっと体に何か痺れのようなものが走る。 嫌な予感がした。 「イザーク!!やめて!!!!!!」 イザークというのはデュエルのパイロットだろうか。 そう思ったキラははっとする。 デュエルからのロックオンが外れた。 銃口はシャトルを捕らえていたのだ。 キラは目を開き、バーニアをふかした。 「やめろぉぉぉぉおぉぉぉぉおぉ!!!!!」 間に合って欲しい 手を伸ばし、届いたかと思った。 「いままでまもってくれてありがとう」 そんな声が聞こえた気がした。 そうだ この手は届いた。 自分は守れたのだ。 守りきったのだ。 よかった 「いやぁぁぁぁあ!!!!」 微笑もうとしたキラはの叫び声で現実に引き戻された。 目の前で届いたはずの手が何もつかめず、虚しく伸ばされているだけだった。 「・・・そんな」 デュエルのビームライフルに打ち抜かれたシャトルはあっという間に炎をあげて、バラバラに散ている。 「そんな・・・僕は守れた筈だったのに・・・」 キラは呆然と燃え朽ちるシャトルを見つめていた。 泣き声が聞こえる。 誰のものだろう? 信じられない感覚に包まれていたのはキラだけではなくも同じだった。 キラに無理やりついてきたけれど、自分は力になれるはずだった。 守れるはずだった。 友人も、皆も 自分の力なら、 自分の能力なら。 でも、結局、それは驕りでしかなかったのだ。 守るだけに戦えば、人を殺す必要なんてない。 そう信じていた自分の心が、決意が崩れていく。 結局、奇麗事ではなにも守れなかったのだ。 あふれてくる涙を止める事は出来なかった。 がくん、と体を引かれる感覚に二人は我に返る。 デュエルとの交戦で気がつかなかったが、大気圏に突入していたのだ。 自分たちは落ちている。 通信からジ・・・ジジ・・・と何か声が聞こえるがもう、それも聞き取れない。 「キラ!なんとかしてアークエンジェルに・・・」 キラは何も返してこない。 どうしたのだろう。 こうしている間にもどんどん落ちていく。 コックピッドの温度が上がってきた。 喉が焼けるように熱くなってきて息をするのも辛くなる。 「・・・キラ、キラ」 うわごとのように名前を呼んだ。 キラはパチンと片方のベルトをはずしてこちらを向いた。 「こっちへ来て」 に手を差し出す。 「平気だ、から・・・早くストライクをアークエンジェルへ」 「いいから!」 キラは強く手を引いていつかラクスを乗せた時のように、自分の前に引き寄せた。 そのまま抱きしめる。 ストライクは背面から落ちていた。 キラに抱きしめられるとシートとキラの体分、さっきより熱さが楽になった。 「大丈夫、平気。あたしはコーディネーターなん・・・だから、早く」 「黙ってて」 「でも!」 キラも苦しそうに返事を返す。 二人の視線があれからはじめてぶつかった。 「・・・ごめん」 向けられた視線は優しく、自分に向けられた言葉はいつもと変わらない。 涙が次々にこぼれてきたが熱の高さにすぐに蒸発してしまう。 「ずっと、悩んでた・・・んだよ、ね、ごめん」 「ちが・・・う!わたしはキラたちを騙して、それで」 「右眉」 キラはゆっくりと首を振った。 「右眉が下がってる、が悩んでる時の癖」 あの時の他愛もない会話が蘇る。 コックピッドで会ったときから、自分の演技は全て見抜かれていたのだろうか? この稚拙な芝居を 「・・・、分かり、やす・・・いから」 そう言ってキラはにっこりと笑った。 許されるはずがないのに。 自分を戒めるようにキラに言葉をぶつけようとする。 「わたしは・・・裏切ったの、皆を、アスラン達も・・・」 優しくされちゃいけない。 自分にはそんな資格はない。 「ごめんさない・・・ごめんなさい・・・」 は意識が完全に切れるまで繰り返し続けた。 地球は子供たちを離さないように、 抱きしめるように、 大地へと引き寄せる。 落ちてゆく。 堕ちてゆく。 |