「生きてた」

アスランは安堵のため息をついて腰を下ろす。

今し方、から直接入った連絡により生存が確認された。

先日バルトフェルト隊に無事合流できたようだ。

「・・・まったく、頼むよ。心配させないでくれ」

アスランは微笑を浮かべて額に手を当てた。

よかった。

本当によかった。

すぐにでもそばにいってやりたい。

駆け寄って抱き締めてやりたい。

でも、それはかなわない。

もどかしかったが仕方ない。

今は生きていてくれたことで十分だとアスランは自分に言い聞かせた。















どうかこの声が

貴方に



どうかこの声が

君に




届きますように














 
call 【温かいコーヒー】












砂漠には夜が来る。

一日中夜のようだった宇宙とは違い、日付感覚もしっかりしてきた。

それでも、は働き続けている。

薄暗いドックでパソコンの明かりだけがを照らし出した。

「摩擦係数をもう少し考えた方がいいかな」

画面をじっと見つめながら、ガイアの最終調整をしている。

上手く調整をしなければ砂漠での戦いでは命取りだ。

それでなくとも宇宙戦に慣れてしまっている自分は特に気をつけなければならない。

画面の文字が止まるとは空を仰ぎため息をついた。

(これで調整は終わった)

そして、戦いがくる。

大きな戦争が。

キラと戦わなければならない。


「ありがとう、さようなら」


あの最後の言葉が耳に残っている。

囚われてはいけない。

は大きく頭を振った。

もう、大丈夫だと思えば思うほど自分が弱くなっていく気がしてしまう。

こつりと靴の音が聞こえて振り返ると、緑の制服に身を包んだダコスタが湯気のたつカップを二つ持って立っていた。

「お疲れ様です」

ダコスタは屈託のない笑みを浮かべながらカップを差し出す。

ありがとう、と言って快く受け取った。

暖かい。

それにコーヒーのいい香りが匂いがする。

決して寒い気候ではなかったが、その心遣いが嬉しかった。

「隊長の特性のじゃなくて申し訳ないですけど」

そういってダコスタは短く刈り込まれた髪をわしゃわしゃと掻きながら悪戯っぽく舌を出した。

「いえ、こっちでいいですよ」

「俺も座っていいですか?」

畏まった様子のダコスタには思わず噴出す。

ダコスタは少し赤くなって気まずそうに下ろそうとした腰をまた上げた。

「あ、その・・・失礼でした?」

「ダコスタ副隊長、気を使わないで下さい」

「あ、でも・・・」

「今はバルトフェルト隊の一人ですからそれ相応に接してください」

「でも・・・」

それでもしどろもどろするダコスタには首をかしげる。

「でも?」

「俺の憧れでしたから」

ダコスタはポツリとこぼした。

「え?何?」

聞こえなかったのかは眉を寄せて聞き返す。

ダコスタは自分の言ってしまったことに驚いて、大きく首を振って否定した。

「あ、いいいや。俺、最初に敬語を使うとなかなか抜けられなくて・・・その、すみません」

照れたように笑うダコスタに心の中が暖かくなるような気がする。

自然と頬が緩む。

「あ、やっと笑いましたね」

指摘されて思わず口を手で覆った。

「なんか、すごい張り詰めてたみたいですから」

そういわれて、初めてここに来て自分の様子が気にかかった。

考えて見ればあまり食事も取っていなかったような気がする。

「そんなにすごい顔してました?」

「・・・えーっと、その」

しどろもどろするダコスタには何となく察した。

「してたんですね」

「・・・はい、すこし」

「心配おかけしてすみません」

は座ったままダコスタに頭を下げる。

ダコスタはまた大きく頭と手を振って否定した。

すごく落ち着くとは思った。

彼がかもし出す雰囲気からなのだろうか、ざわつき続けていた心が和らいだ気がする。

暖かいコーヒーと暖かい雰囲気。

張り詰めていた気持ちがゆっくりと解かれてゆく。

ゆっくりとカップに口を付けてて一口飲み込んだ。

「コーヒーおいしいです」

「インスタントコーヒーですけど、そう言ってもらえるとよかったです」

二人はただ静かなときをすごす。

目の前に聳え立つガイアを見上げながら。

「明日は戦いの日ですね」

「大丈夫です。俺たちは負けません」

自信に満ちた目でダコスタは熱っぽく答えた。

「負けません・・・」

はポツリとダコスタの言葉を反芻させる。

バルトフェルト隊が勝つと言うことはアークエンジェルが負ける。

負けると言うことは・・・

バルトフェルトの言葉がよみがえる。


どちらかが滅びるまで


負けると言うことはわたしは誰かを殺さなくてはいけない。

誰か。

誰かではない。

敵を知っている。

彼らを殺さなくてはいけない。

「顔色わるいですよ?」

ダコスタは心配そうにを覗き込んでくる。

「大丈夫です、すいません」

ゆっくり首を振って心配させないように微笑んだ。

そうですか、と言ってダコスタはコーヒーに口を付ける。

ため息をついてはなんだかひどく疲れたような気がした。

小さくあくびをする。

どれくらい寝ていなかっただろう。

急に眠気に襲われてまぶたが重くなってきた。

「すいません、少し眠っていいですか?」

「え?ああ、はい!大丈夫で・・・あれ?」

ダコスタが返事を返す前には目を閉じて微かな寝息を立てていた。

座ったまま少し頭を垂れている。

ダコスタはの肩を抱いてゆっくりと自分の腿にの頭を乗せた。

少し寝返りをうったにダコスタはどきりとしたが、そのまま寝息を乱さなかったので胸をなでおろす。

安らかな、年相応の寝顔にダコスタはあふれ出す愛しさが止まらない。

ゆっくりと髪をなでる。

「これぐらいは役得だよな」

ダコスタは嬉しそうに頬を緩めた。


そして

明日、この微笑が曇らぬようにただ願うだけだった。















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