眩しくて目が覚めると日は高く上っている。

隣にいたはずのダコスタ副隊長はいなくなっていた。

(あたりまえだよね)

何時なのか分からなかったが、それでもお昼に近いことが日の高さから推測できる。

床で寝ていたせいか体が痛い。

久々にゆっくり休めた体を起こすとぱさりと上着が落ちた。

緑の軍服を持ち上げる。

すぐに誰のものなのかを理解し、昨日の緩やかな優しい時間を思い出して口元を緩めた。

許されるはずもないそんな時間を











どうかこの声が

貴方に



どうかこの声が

君に




届きますように














 
call 【余計な贈り物】












それは耳を疑うような話だった。

補給先でナタル達と別れたあと、約束までの時間をつぶすために入ったカフェに砂漠の虎がいたため、

ブルーコスモスの襲撃を受けたのだとキラは説明した。

カガリを庇うので精一杯だった自分はの姿を見失ってしまったと、

そして、そのまま砂漠の虎にお礼がしたいと連れて行かれ、探すことができなかったと話すとその場にいたミリアリア達は動揺を隠せなかった。

「そんな、が行方不明だなんて」

顔の血の気が引いてしまったミリアリアは口元を押さえて微かに震えている。

見かねたトールが優しく肩を抱きながら、大丈夫だよ、と慰めてはいたが、その声も心もとなかった。

キラは目を伏せる。

自分も嘘をついている。

のように きっと、この嘘は決して許されない。

(でも、僕はついてしまった。)

キラは心が痛んだ。

嘘をつく方にも痛みがあるのだと眉を寄せる。

「キラ」 トールに呼びかけられてキラは視線を上げた。

「大丈夫か?」

自分を本当に心配してくれる優しい友人。

キラは笑顔を作る。

「うん。きっと見つかるよね。」

そんなことはない。

見つかるはずなんてないんだ。


どうして僕は嘘をついてしまったんだろう。





眼下に広がる光景にバルトフェルトは苦々しく顔を歪める。

それも仕方のないことだろう。

先ほどジブラルタルから届いた補給物資に不満があるのだ。

「なんでザウートなんかよこすかね、ジブラルタルの連中は」

そこにいた全員が納得するようなことを吐き捨てて、バルトフェルトは書類を乱暴に頬り投げた。

「砲撃支援向けの地上用重火器型。旧式。足も鈍くて、小回りもきかない。バクゥの代わりにもなりませんね」

隣で共に輸送機から降りてきたザウートを見ていたが現状を確認をしてため息をつき、肩を落とす。

先日、撃破された二機のバクゥの代わりに補給されたMSは、早い話がバクゥとは全く反対の性質のMSだったのだ。

「バクゥは品切れか?!」

「はぁ・・・これ以上は回せないということで」

二人から少し下がった位置で控えていたダコスタも多少なりと納得のいかない様子ではあったが、

喚いて騒いだところでジブラルタルのお偉いさんが動くとも思えなかったで、バルトフェルトよりは大人しく書類を見ている。

最も彼の労力は、とんでもないこのとんでもない隊長のために取っておかなければいけないと、これしきのことは構わない様にしているのかもしれない。

思っていたとしても、一通り騒いでくれる人がいるので、何だかんだわざわざ声に出す必要もなかった。

隊長と副隊長の掛け合いの横では戦力を慎重に確認し始める。

(・・・心もとない)

は眉を寄せた。

働きの期待できないザウートと残りのバクゥ、隊長機のラゴゥ。

そして、自分のガイア。

宇宙で、あのクルーゼ隊の猛攻を幾度となく交わしてきたアークエンジェルとあのMSの実力は、すでに運だけではない。

数多の兵力を持って、万全の作戦で臨んでいても、撃破出来るチャンスを逃してきている。

甘く見てはいけないのだ。

自分達は認識を改めなくてはいけない。

ナチュラルだとか、一機だとか、そう言った類いのものを。

(キラ)

は一人のパイロットを思い出した。

ほんの数ヶ月前までただの学生だったコーディネーターの少年。

確かに素人ではあるが、彼は驚くべき能力と順応性をもっている。

彼を止めなければ何もはじまらないのだ。

(私がキラを撃破する)

今までの自分に戻るためにはそうしなければいけないと思った。

誰かの手ではいけない。

自分の手でだ。

それが本当の別れを意味していたとしても。

殺し合わなければいけない。

強く握った手が痛かった。

だから、 自分がキラに殺されることがあっても、それは仕方がないことなのだ。

それが戦争だから。


不意に日が遮られて、の顔に影がかかった。

顔を上げるとすぐ傍でバルトフェルトが笑っている。

「死にたそうな顔をしているね」

自分の思考を読んだような台詞には顔を顰めた。

「それとも死んだほうがましと考えているのかい、君も?」

「わたしが」

が視線を落として、零した声はあまりに消えそうだった。

「そう考えるのは卑怯ですから」

困ったように、愛しそうにバルトフェルトは歪める。

この子はとてもまっすぐだ。

可哀想なほどに。

もう少しずるく生きてもいいのに、幼さゆえの純粋か、の本質的なものなのか分からないが、

彼女に自分の中で少しづつ麻痺してきた感覚を呼び起こされる気がした。

ひどく自分をくすぶってくれる。

バルトフェルトは微笑んで大きな手をかざし、の頭をくしゃりと撫でた。

「終わらせるのは大人の仕事だ」

一瞬、の顔が曇る。

彼はどこまで自分を見透かしているのだろう。

思わず口を開こうとすると、彼の視線は再び補給物資へと向いていた。

輸送機が着陸態勢にはいっている。

「あーあ、やれやれ厄介なものがまた到着したようだ。かえって邪魔だからいらないって言ったのに」

ザウートのときとは違った冗談交じりで肩を竦める。

は口をきゅっと結んだ。

この上官は初めて知り合ったときから変わらない。

飄々としてふざけている様にしか見えないのに、彼の本質的なものは真逆だった。

(上手く交わされた)

話を逸らされては絶対に戻ってこないと分かっているのでため息を一つついて諦める。

「隊長、あんまり苛めたりしないで下さいね。一応、補給がバクゥじゃない埋め合わせみたいですから、クルーゼ隊の二人は」

後ろからダコスタが一応に力を入れて咎めた。

は驚いて思わずダコスタの方へ向く。

その表情を見てダコスタが首をかしげた。

「あれ?聞いてなかったんですか?先日、アークエンジェルと共に降下したクルーゼ隊の二人が合流するんですよ」

「えーと、なんだたっけ、名前」

「イザーク・ジュールにディアッカ・エルスマンですよ。隊長、ちゃんと覚えてて下さい」

イザーク・ジュール ディアッカ・エルスマン 嫌でも聞き覚えのある名前に眩暈がする。

よりにもよってあの二人が合流するなんて。

ストライクに以上に固執し続けるイザークとその腰ぎんちゃくディアッカ。

この戦いで何か起こらないはずがない。

(あ、頭痛い・・・)



ただ、余計なことをしないでくれと思うばかりだった。 そして、輸送機の扉が開き二体の黒い機体が姿をあらわした。






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