が帰投した?」


奪取作戦を成功させ、ガモフに戻ってきたイザークとディアッカは

 早々に機体のOS を書き換え休憩室へと滑り込む

一足遅れてきたニコルに告げられたその話に顔をしかめた

「その情報は確なのか?」

「ええ、先程ゼルマン艦長がクルーゼ隊長より報告を受けたようです」

ニコルが大きく頷くとイザークは黙って無重力を利用してボトルを回し始める

「はぁ?だったらなんでこっちに戻ってこないでヴェサリウスにいるわけ?」

横から口を挟んだのは椅子の上に寝っ転がっているディアッカだ

「それが…その…」

ニコルは言いずらそうに視線を外した

その仕草にイザークがむっとする

「貴様はまともに喋ることすらも出来んのか?」

「そ、そんな事!違います!」

珍しくニコルも苛立っているのかすぐに反論した

「…が酷い怪我を負ったらしくて、すぐにはこちらに帰ってこれないそうないんです」

その台詞にイザークは立ち上がりディアッカは体を起こした

「何ィ?!」

「マジで?!」

「アスランがGの奪取後、帰還する際にモルゲンレーテで怪我をしたを発見 して

 共にヴェサリウスへ帰投したらしいんです。今は治療が終り、一応…命に別 状はないようなんですが…」

「あちゃ〜マジで?」

こりゃヤバいなぁ…とディアッカは手で顔を覆った

「どうしたんですか、ディアッカ?」

「いやぁ別になんでもねぇよ」

そして、もう一度椅子に倒れ込む

暫く考えるようにそっぽを向いていたイザークがにやりと顔を上げた

その笑顔はいつか命名した『悪巧みスマイル』だった

「ドックに作業用ポッドがいくつかあったな」

「…!!ああ、確かにあったな」

一瞬、ニコルと一緒に驚いていたデイアッカだったが、すぐに意図を掴み体を起こす

二人は顔を見合わせると話に付いていけないニコルの横をさっそうと通りすぎた

「え?…ふ、二人とも…まさか!?」

やっと意図が掴めたニコルは慌てて振り返る

入り口手前まで来ていた二人は不適に笑った

「止めたいなら力ずくで来い、じゃなかったら臆病者はそこで待っていろ」

「ははっそーゆー事、じゃね」

無常にも扉は閉まってしまった

「…僕だって行きたかったのに」

一人すねるニコルの姿があった
















どうかこの声が

貴方に



どうかこの声が

君に




届きますように














 
call 【君を想う人・2】















「貴様ぁ!ナチュラルごときにやられるとはどういうつもりだ!」

が何かを感じた直後すぐにドアが開き、入ってきたのはイザークだった

(やっぱりおかっぱか…)

は小さく溜め息をついた

カツカツとブーツを鳴らし近付いてくる

「大体貴様は…っ」

「おいおい、ちょっと落ち着けってイザーク!」

(…ぅわお、今回の怪我の原因の張本人も来たんだ)

の目が据わった

遅れて入ってきたディアッカは今にもに掴みかかりそうなイザークを後ろからはがい締めにする

さすがのイザークも体格差を利用されてはもがくだけでだった

(何でまた、よりにもよって一番会いたくない奴等が来るかな…)

まだ続くのかという自分の不運には肩をすくめた

「離せ!毎回毎回懲りもせずに!こいつには一度ちゃんといわんと気がすまん! !」

(言うだけで終らないから止めてんでしょ)

の目の前でかくも激しい攻防戦が繰り広げられる

もう一度溜め息をつこうとしたよりも先に特大のため息をついたのは隣にいた医師だった

煙草を携帯灰皿に入れるとすっくと立ち上がり、入り口で小競り合いをしていた二人に近付く

「イザーク・ジュール、及びディアッカ・エルスマン。ここは医務室だ」

静かに青筋を立てて言い放つその何とも言えない威圧感に二人は動きを止める

その光景には目を輝かせた

(おっちゃん格好いい!あたしを嫁にして)

心の中でどこまでも呑気な歓喜の声を上げる医師は更に続けた

「見舞いなら大人しくしろ、こいつはまだ安静なんだ。

 だが、もしこの医務室に 怒鳴りに来ただけと言うなら、即刻ガモフへ帰れ」

イザークもディアッカもぐっと引き下がる

暫く睨み合いが続いた

先に折れたのは

「…見舞いに来た」

少しふにおちない様に顔を背けたイザークだった

(イザークが折れてる・・・)

物珍しい光景に驚く

「だったらあっちに行ってやれ。面会時間は60分。時間になったら呼びに来るか らな」

それだけ言うと医師は入り口へ向かった

「あ、おっちゃん、ありがとう!」

医師は振り返りもせずにひらひらと手を振る

少しは笑みを溢した






先ほど医師が座っていたところにイザーク、ベッドにはディアッカ

は少しベッドを起こしている

赤服に身を包んだ将来有望なサラブレッド達

普通の女子であればこの壮観図に心ときめかせ緊張していただろう

しかし、普通とは少し違うは違う意味で緊張していた

「どうしてモルゲンレーテなんかにいた」

イザークが静かに言う

は黙って自分の手を見つめたままだった

「あそこに襲撃すると言ってあっただろうが!

 そもそも貴様が調査していたもの だろう!何故、のこのことそこにいたんだ!?」

の態度にむっとしたイザークが声を張り上げる

慌てたのはではなくディアッカだった

「落ち着けってイザー…」



「友達がいたから」



「「は?」」

二人の声がはもる

その上げられた声は聞き取れなかったのではなく、はっきりとその言葉に対して上げられたものだった

「貴様何をふざ…」

「聞こえなかった?逃げ遅れた友達がいたから、一緒に退避シェルターを探していたの。

 だからあの工場区にいたのよ」

射ぬかれるような視線にイザークは言葉を飲んだ

視線を反らして、苦虫を噛み潰したような顔をしてぽつりと呟く

「…なんで貴様がそんな友達ごっこに付き合う必要がある」



友達ごっこ



イザークが言っていることは正しい

は潜入調査でおよそ3ヶ月、工業カレッジの生徒になった

怪しまれない為にも「普通」の学生のようにふる舞う事を強制させられる

ヘリオポリスでの作られた日常

正直、は眼下に広がる自分にとってはあたりまえではないあたりまえに心を奪われた

戦争とは無縁の環境で幸せそうに笑う人々

コーディネーターだと言う自分を受け入れてくれたナチュラル達

一時でもその何でもない幸せに身を委ねてしまいたくなる

でも、は割り切ったつもりでいた

調査は調査

学校は学校

だから「生徒」としての自分はそこにいていい人だと勘違いしてしまったのだ

ミリィ、トール、サイ、カズイ

…そして、キラ

作られた日常の中、潜入調査やザフトの軍人だと言うことを除けば、何一つとして嘘はなかった

しかしその一握りの小さな、けれど酷く重い嘘は彼等から日常を奪ってしまった

にとって、その奪ってしまった日常は軍人に戻ってしまえは全ては「ごっこ」になってしまう

だが、彼らには「ごっこ」ではないのだ

今もこれからも友達と呼んでいた彼等に何を告げることも謝ることもできない

そう思ってしまうのは仮にも赤服を着ている自分が調査だときちんと割り切れなかったのがいけないのだ



自分が…



胸が酷く痛んだ





「何かあったんでしょ?」

不意に覗き込んできた紫の目にどきりとした

「いや、何でもないよ」

「ふ〜ん」

横目で疑わしそうに見る

(ディアッカは勘が鋭いからやだな)

「とりあえず奪取作戦は成功だったんでしょ?」

ごまかそうと話題を反らした

ディアッカは少し口を固く結び、そっぽを向きっぱなしのイザークすら顔色を変える

(じ、地雷踏んだ?)

嫌な汗が背中をつたう

「成功の失敗」

ディアッカは肩をすくめた

なんだそりゃ?とは顔をしかめる

「ラスティが死んだ」



ラスティが死んだ?



思わず聞き返そうとしたが声が出なかった

いつもの冗談ならぶっ飛ばしてやろうとしたが、ディアッカのこぶしが微かに震えていたのが目に入る

その事実にただ唖然とするしかなかった

「更にミゲルは機体を失って一機奪取し損ねたしね」

成功の失敗

そう言うことか





「女の子で赤服だって聞いたからどんなのが来るかと心配してたんだけど

可愛い 子で安心したよ!俺、ラスティ・マッケンジー、ラスティって呼んでくれよ」






屈託のない笑顔が浮かぶ

「あいつはただの呑気な馬鹿だ」

 と馬鹿にしていたイザークでさえその顔には笑みが浮かんでいた

いつだって笑っていて冗談ばかり言っていたけれど

 誰よりも周りを考えていて仲間思いのラスティ



「そういってくれたのだけだよ」




そんな彼はもういない








じわりと視界が揺らいで目がしらが熱くなる

察してくれたディアッカが頭をくしゃりと撫でまわした

「まぁ奪い損ねた一機は弔い合戦でミゲル達がD装備で出撃来たから、すぐでし ょ?」

くっくっと喉を鳴らして笑うディアッカにはぴくりと動く

嫌な予感がした

(もう一回出撃したの!?)

モルゲンレーテでの再会

キラのこと

奪取できなかった機体

ジンの破壊

コーディネーター

「ア、アスランは?」

は慌てて喋り出す

今まで口を閉ざしていたイザークが嫌味たっぷりで言った

「エースパイロット殿は命令無視で奪取した機体で出撃したさ」

驚いたは慌てて起き上がる

「え!?嘘っ…いつっ!」

(麻酔が切れてきた)

体は動いたが脇腹に走る鈍い痛みに顔をしかめた

「無理すんなって、今はアスランより自分の体を心配しろよ」

少し起こした体をディアッカが支えながらベッドへと戻してくれる

その後、二人が何かを話していたが耳には全くは入ってこなかった



きっと誤解している

あそこにキラがいたからそれに関わっているんじゃないかと

頼むから一人で先走らないでよ、アスラン

今は痛みに耐えながらそう願うしかなかった




そして違う場所で同じ宇宙を見つめる少年は何を思うのか

















     TOP