「・・・つぅ」 痛みで目を覚ましたはあまりにも変わりすぎている状況に目を疑った。 冷静になろうと必至に心を落ち着ける。 先ほどザフトの侵攻の報せがあった。 (どうして、作戦が向こうにばれてるわけ! それから・・・ 確かに爆発に巻き込まれたはずだったのだが 「・・・私の運のよさって、ムウ級よね」 |
COMPOUND:2 「少しでも進む力を」 |
はまず、アークエンジェルの内部を軽く確認して、その中の生存者がいるかどうかを確認した。 数名であったが中で作業をしていた工員を発見する事ができた。 しかし、工員だけでは艦は発進できない。 そこでは指令ブースの方まで足を伸ばしてみることにした。 最初は生存者すら期待できなかった状況だったにも関わらず、 数名ではあるが生きててくれた者がいる、それは大きな希望へと繋がった。 もしかしたら、まだ他にもいるのかもしれない、と 「それでは後をお願いします。もしもの時は先ほど言った起動方法で艦を動かしてください」 「・・・でも、中尉」 工員の中では年上に見える男は弱々しげにを見つめてくる。 「大丈夫です。コンピュータの通りに進めればなんとかなりますから!」 そう言ってガッツポーズをとるとハッチから抜けていった。 もしもの時。 はもう一度砲撃が来た時に自分が戻ってこなかったら、 艦をどうにかして脱出させて欲しいと頼んでいったのだ。 この艦が最後の希望になるかもしれないから。 艦に残された工員たちはの言葉をかみ締めながら、の無事を祈っていた。 ドックは凄惨たる状況だった。 多分、砲撃の目標がここだったのだろう。 これでは生存者はいるはずがない。 漂っている顔見知りを見つけて胸がぎゅっとつかまれた。 一刻も早く残りの生存者を見つけないと、彼らの死が無駄になってしまう。 は指令ブースに向かう廊下を急いだ。 「中尉!!」 聞きなれた声に目を凝らす。 すぐに誰がこちらに向かっているのが分かった。 見慣れた仕官服に黒のショートカットが揺れている。 「バジルール少尉!」 「・・・よかった。ご無事でなによりです」 「悪運だけはフラガ大尉の次に強いですから」 の顔を確認すると安堵でナタルの頬が緩んだ。 こんな彼女は珍しい。 そう思いながらもナタルが生きていてくれたのは嬉しい。 一人生きていると言う事はさらに希望が持てた。 「生き残った人たちはアークエンジェルで待機しています。少尉もそちらへ」 はナタルが来た方向へ進もうとする。 「?!・・・中尉はどちらへ?!」 「他の生存者を確認に」 「指令ブースに生存者はいません」 ナタルは苦々しげに俯いては吐き捨てるようにいった。 「まさか!」 信じられないと言った顔つきでナタルの肩をしっかりと掴んだ。 「艦長や士官たちは?」 力任せに揺すられていてもナタルは黙って首を振るしかなかった。 希望すら持てないのか。 は愕然とした。 艦長も仕官たちもいない。 これではアークエンジェルは発進できない。 でも 諦めてはいけないのだ 不可能を可能にするのが俺たちの仕事だ。 そう言っていつもどおりへらりと笑った顔を思い出した。 (・・・ああ、ありがとう) 「ハジルール少尉!」 凛とした声にナタルは顔を上げる。 「艦へ向います。ここから脱出しましょう!」 不幸中の幸いと言うのは本当にあるのだ。 アークエンジェルへ戻ると先ほどここまで案内したノイマンやトノムラほか 数人のメンバーがアークエンジェルに合流していた。 (これならギリギリ艦を発進させられる) しかし、人数は増えたが仕官は相変わらずとナタルだけだった。 「中尉これからどうしましょう」 いつもならあまり歓迎されていない女性仕官もこのときばかりは羨望の眼差しを向けられている。 (・・・なんと調子のいい) ナタルはその様子を見て心の中で舌打ちをした。 仕方のないことだが、なんとも納得がいかない。 「とりあえず、ここから離脱します。バジルール少尉はブリッジへそちらの指揮は全任します 発進準備をお願いします」 「全任・・・!?」 突然の言葉にナタルは驚きを隠せない。 「艦長としてブリッジで指揮を出してください。わたしはドックへ行きますから」 「そんな!中尉の方が!」 「わたしはパイロットですから無理ですよ。 これからこの艦が自軍と合流するまでにザフトとの抗争は避けられないと思います。 そのたびに艦長が戦いへ出ていたら、この艦はどうなっちゃうんですか」 の言っている事が正論である事は分かっている。 でも、今の状況で船員の信頼をもっとも集めているのは自分ではない。 なんとも取れない表情でナタルはを見つめた。 「お願いします。バジルール少尉しかいないんです」 は真っ直ぐナタルの目を見つめて手とる。 年下で上官の少女は自分を信頼してそう言ってくれている。 できる事ならその信頼に答えたい。 「了解しました」 ナタルは大きく頷いた。 その答えを聞いてはにっこりと微笑む。 必ず、この艦を守りぬくのだ。 |