(早めに支度をしておいてよかった)

ドックに残っていた数人の工員とアドラステーアの発進準備に取り掛かる。

はパイロットスーツを着てコックピッドに乗り込んでいた。

OSも装備も完璧である。

アークエンジェルがここを無事に脱出できたら次は自分の仕事だ。

なんとかしてこの艦を

そして、あの新型兵器を守らなくては

はブリップをきつく握った。



ドォン・・・と大きな爆発音が体にまで響いた。








COMPOUND:3
「少年たちとの出会い」










ごくりと息を呑む。

緊張しているのは確かだった。

(テストは何度かやったから、何とかなる、何とかなる。)

自分の心を落ち着かせながらも手にはじっとりと汗をかいてきている。

『発進準備整いました。モルゲンレーテではGAT-X105とシグーが交戦中です』

(シグー!?・・・てか、誰がXナンバーに乗ってるわけ?)

そのためのパイロットはまだ第七艦隊にいるはずだ。

思い当たる節がまったくなかったは眉を顰めた。

(でも、シグーと戦っているってことは味方よね)

「交戦中なのはストイライクだけですか?他の機体は」

『確認できません。破壊されたか・・・』

その後の言葉は続かなかった。

奪取された。

その可能性もあるだろう。

「わかりました。出撃準備、こちらもいつでもOKです。」

『・・・中尉』

「大丈夫ですよ。アドラステーア発進します」

そう言って、ヘルメットのバイザーを閉めた。

モニター越しに親指を立てる。

開ききったハッチの先でMSが動くのがわかった。

口をきゅっと結んで前を見据る。

その瞬間カタパルトがアドラステーアを射出した。

放り出されるようにして一瞬中に止まったがバランスを整えてペダルを踏む。

アドラステーアは左肩から腰にかけて10メートルに満たないソードを装備している。

シュベルトゲベールよりは2周りほど小さく、威力は劣るが小回りがきくのだ。

はそれをすらりと抜いた。

眼下には悲惨な状況が広がっている。

広範囲にわたって火が回り、煙が上がっていた。

「・・・なんてことを」

あの、平和で笑顔に満ち溢れていたヘリオポリスは見る影もない。

は手が震えた。

恐怖や悲しみではない、怒りでだ。

言いようのない怒りがを包んでいた。

(平和の国で開発をしたのが間違いだった)

その怒りはザフトへ向けられたものと自分たちへ向けられたものがあった。

こうなってしまっては何も取り返しがつかない。

モニターの端にGAT-X105、ストライクの後ろ姿を発見する。

(見つけた。敵はシグーのみ)

は更にペダルを踏みバーニアをふかした。

その対面する方向からシグーが接近しているのが目に入る。

(間に合う・・・え!? ちょっと!!)

驚いたのはシグーに対してではない。

ストライクである。

ストライクはランチャーストライカーをセットしたのだ。

(あんなものここでぶっ放されたら、ヘリオポリスに穴が開くわよ!!)

それほどまでに超高インパルス砲”アグニ”の威力はすごい。

「馬鹿!!やめなさい!!!」

アドラステーアの速さでは到底追いつきはしない。

でも、最大限のスピードでストライクへと向かった。

しかし

アグニからはすさまじいエネルギーが放たれてしまった。

そのエネルギーはシグーの左腕をもぎ取り、

 さらにはコロニーの内壁をいともたやすく溶かしてしまったのだ。

「・・・あー遅かった」

ストライクは自分の放ってしまった威力に驚いているのか動こうとしない。

(いけない!あの状態で狙われたら)

そう思ったが、左腕を失ったシグーはそのまま先ほど開いてしまった穴から離脱した。

(助かったの・・・?)

は肩の力を抜くとストライクの隣に直陸しようとそちらに機体を向けた。

Xナンバーは全部で四体。

自分の目で確認できたのはストライク、ただ一機だけだ。

やはり。

壊されてしまったのならそれでもいい。

でも、もし敵の手に落ちていたとしたら・・・

能力で地球軍はザフトに勝てない。

は否定するように首を振った。

そして、そうではないことを祈りながらは高度を下げていく。

「こちら地球軍、アドラステーア、パイロットの。ストライク応答お願いします」

ストライクと通じているはずの通信機に向かってそういった。





ストライクの隣に止まるとハッチを開けて顔をだす。

下にいる民間人にしか見えない少年達がこちらを見て身構えている。

後ろの二人はけが人を抱えているのだろうか、誰かをベンチへ運んでいる様だった。

(・・・どういうこと?あれって民間人だよね?)

ふと、ベンチに運ばれた女性を見ると、その顔には見覚えがある。

「・・・ラミアス大尉?」

はあわてて機体から降りる。

しっかりと地面を踏みしめると真ん中わけの少年が一歩前へできた。

「ち、地球軍の方ですよね?」

恐る恐るかけられた声には答えた。

「ええ。あなた達は見たところヘリオポリスの学生のようですけど」

「こ、工業カレッジの生徒です」

生徒と名乗る少年達は全部で五人いた。

全員がに畏怖の目を向けている。

(ああ、顔が見えないと不安だよね)

ヘルメットをとり忘れていたことに気がつき慌ててはずした。

さして長くない髪がぱらりと肩に広がる。

少年達の目が大きく見開かれた。

「・・・女の子!?」

目の前に地球軍に所属するパイロットがいる。

その人物は自分たちと同じぐらいで、さらに女の子だった事に少年たちは酷く驚いたようだ。

「まぁ、普通はびっくりするよね。はじめまして地球連合軍中尉、です」

が右手で軽く敬礼すると、呆けた顔で反射的にお辞儀を返してくる。

「で、さっそくだけど、ストライクには誰が乗ってたの?」

少年達は気まずそうに顔をあわせている。

何かまずい事でもあるのだろうか

「僕です」

しばらくして声が上がった。

「お、おいキラ」

「トール、大丈夫だよ」

そう言って一番後ろにいた少年が前へ出てきた。

五人の中でもさして背が高いわけではなく、かといって屈強というわけでもない。

「君が?」

はこれでもかと言うほど目を開いて驚いてしまった。

「はい。突然の事で・・・勝手にOSをいじったりしてしまいました」

「OSをいじった?」

「あんなOSじゃ、あれを動かす事ができなかったから」

キラと呼ばれた少年は伏せていた目を上げた。

と目がしっかりと合う。

何か引っかかるものがあるがそれどころではない。

専門家が作ったOSを”あんな”と言ったのだ。

は苦々しげな顔をした。

「あ、あの・・・すみません」

キラが申し訳なさそうに近寄ってくる。

「君!ちょっといい?えーと・・・名前!!」

「キラ・・・キラ・ヤマトです」

「キラ君!悪いんだけど、ストラ・・・あの機体見せてもらってもいい?」

「あ、でも、あれはあなたたちの」

そうだ、と言うとキラの話を途中で駆け出してしまった。



残されたキラたちは呆然とがストライクに乗り込んでいく様子を見ていた。


「・・・なぁ俺たちどうする?」

トールと呼ばれていた少年は頭をかきながら仲間を見渡した。

「なんだったんだろう、あの人」

「てか、あの人、本当に本当に地球軍の人なの?」

「まぁ、あのMSに乗ってるんだからそうなんじゃない」

カズイとサイは顔を見合わせて肩をすくめる。

たった一人いた少女はベンチで気を失っているマリューへ駆け寄った。

キラも慌ててそれに続く。

残された少年三人は顔をあわせた。

「どうする?」

「どうするって非難シェルターもないし、ここにいたほうが安全だよね」

「それはそうだけどさ」

「俺さ・・・実はあれ、もっと傍で見てみたいんだけど」

トールがそう切り出すとカズイもサイもごくりと息を飲んだ。

「すみませーん!!この機体、もっと傍で見てもいいですかー!!!」

この状況でも好奇心に負けた少年たちはストライクに駆け寄っていく。





ストライクを起動させたは目を疑った。

ここまで完璧にOSを調整できるものなのだろうか。

流れていく文字列を必死で追っていく。

(・・・あの子、すごい)

しかも、これで、あれだけの動きを見せたのだろうか。

少ししか見ていないが、それでも十分訓練された、滑らかな動きだとわかった。

(ただの生徒、よね?)

ふと、キラの顔を思い出す。

茶色の髪に紫の目。

あの眼差し。

どこかで会っている。


「あ」


OSから顔を上げる。

あの時、エレカポートで会った少年たちだ。

確かに自分と目が合ったあの子だと気づいた。

「そうだ、エレカポートで会った・・・」




パーン

そのとき、外で銃声が聞こえた。








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