銃声に驚いてコックピッドから身を乗り出すと、 先ほどまで気を失っていたマリューが銃を構えている。 銃声のはその手に握られているものからだとわかった。 (・・・民間人相手に!!) 「銃をしまって下さい、ラミアス大尉!」 名を呼ばれたマリューは銃口をこちらへ向けながら、目を細めて声の主を確認しようとする。 「・・・中尉?」 ポツリとつぶやいて銃口を下ろした。 このときほど、自分の顔と名前が軍に知れ渡っていたことを感謝したことはなかった。 |
COMPOUND:4 「破片になった平和」 |
は急いでストライクから降りると、マリューの元へ駆け寄る。 「ラミアス大尉、どういうことですか!民間人に発砲するなんて!!それにか」 「これは軍の最重要機密よ。民間人がむやみに触れていいものではないわ」 そう言ってラミアスはの言葉を遮ると少年たちに視線を向けた。 一発発砲されたものの、いまだに状況がつかめず、ぽかんとこちらを見ている。 「それでも、彼のおかげでこの一機だけは死守できたんですよ!」 納得のいかないは引くことなく食いついてきた。 マリューは言葉に詰まってしまう。 確かに先の戦いで自分はその最中、彼にこの機体を任せてしまった。 彼のすばらしい能力に あまつさえ、衝撃で気まで失ってしまったのだ。 守れたとはいえ、自分の落ち度も十分にある。 だからこそ、これ以上は、と思っていた。 「私はマリュー・ラミアス。地球軍の将校です。 申し訳ないけれど、あなたたちをこのまま解散させるわけにはいきません。 事情はどうであれ、軍の最高機密を知ってしまったあななたちは、 しかるべき連絡が取れ、処置が決定するまで私と行動をともにしていただきます。」 マリューはしっかりとした声でそう告げた。 向けられた言葉は少年たちへのものだったが、 遠まわしにを納得させようとするものでもあった。 (・・・わかっているけど、さ) やっとおかれている状況が理解できたのか、少年たちは非難の声をあげる。 「なんで!」 「冗談じゃねえよ、何だよそれ!!」 ストライクに群がっていた彼らは信じられないといった表情だ。 マリューのそばにいたも苦々しく顔をゆがめている。 「僕たちはヘリオポリスの民間人ですよ?中立です。軍なんて関係ないです!」 そう声を上げたキラにマリューの表情は険しくなった。 「黙りなさい!何も知らない子供が!!」 少年たちの体がびくりとする。 有無を言わさぬ迫力に少年たちは黙ってしまった。 「中立だ、関係ない、と言ってさえいれば今でもまだ無関係でいられる、 まさか本当にそう思っているわけじゃないでしょう?周りを見なさい!!」 確かにそうだ。 テレビ越しでしかなかった風景が、今、自分たちの眼下に広がっている。 事故修復を始めたシャフトは先ほどのアグニの傷が痛々しく残っていた。 それはまさに戦場だった。 でも (その原因を作ったのは私たちじゃないか) 顔を歪めていたは軽くし舌打ちをする。 「これが今のあなたたちの現実です。戦争をしているのよ。あなた方の世界の外はね」 そんなことは分かっている。 それが嫌でここで暮らしていたはずなのに。 そうやって暮らしてきた人たちに、この現実はそれはひどく酷なものだった。 少年たちはみんなうつむき、言葉を発しはしない。 マリューは話を続け、これらの進路を決定させる。 これからストライクの部品を乗せたトレーラーでアークエンジェルに合流することになった。 「ラミアス大尉」 「・・・どうしたの?」 何かを咎められるのか分かっていたのだろう。 マリューは振りかえるとそう取れるような表情をしていた。 「わたしもストライクと共にストライクのパーツ回収にあたります」 「ありがとう。あなたがいてくれてよかったわ」 「・・・いえ。それでは」 は素っ気無く答えるとヘルメットをかぶり、アドラステーアに乗り込む。 あなたの言っていることは正しいと思いますが、あまり納得はできません 本当はそう言いたかった。 でも言えなかったのは、マリューが軍人として当たり前の行動を取ったと分かっていたからだ。 もし、自分がマリューの立場だったとしても、そうしなければならなかったのだから アドラステーアを乱暴に起動させてゆく。 やりきれない気持ちばかりが心の中を埋め尽くそうとしていた。 モニターには動き始めたストライクがモルゲンレーテへ向かおうとしている。 『キラ君、私もパーツ回収を手伝いますから』 通信からはすみません、ありがとうございます、と短く返ってきただけだった。 本当に謝り、感謝の言葉を告げなくてはいけないのは自分たちなのに キラの声が少しだけ耳に残ってしまった。 再び爆発音がコロニー内に響き渡る。 回収をし始めていたとキラは音のするほうへ目を向けた。 ジンが進入してきているのだ。 はその装備に目を疑った。 「あれって拠点攻撃用の重爆撃装備じゃない!!」 モニターにキラの顔が映る。 『重爆撃装備?僕のさっきの装備に似てますけど・・・』 「アグニには及ばないと思うけど、あれも強力な粒子砲よ」 『そんな!』 「あいつら、ヘリオポリスを破壊するつもりなの!?」 その言葉を聞いて、モニターに映っていたキラの顔が青ざめた。 「キラ君、戦える?」 『え・・・あ、はい』 「・・・もう、アグニは使えないから そこのコンテナをアジャストして、多分、ストライカーパックだと思うから」 キラは言われた通りにアジャストする。 ストライカーパックとは身丈ほどにもなる長剣を背負う装備だ。 「シュベルトゲーベルは実刃とレーザ−刃の・・・まぁそれはあとでいいわ。 とりあえず、それは剣だから。 さっきのアグニみたいなことにはならないと思うから安心して使って!」 「あんなことにはならない」 自分に言い聞かせるように呟いたキラは大きく深呼吸をした。 やっと少し緊張が解けたようだった。 コックピットにロックオンの警告響き渡る。 「いくわよ!キラ君、死なないでね!!」 「はい!」 そう言って、二人はバーニアをふかした。 発射されたミサイルは追尾型で、二手に分かれたらを追いかける。 は加速し、ミサイルとの間合いを取るとしっかりとミサイルをロックオンした。 左腕につく攻盾のビームライフルのトリガーを引く。 見事にミサイルに命中し、空中爆発させた。 小さく手を握ると、その直後、背後で爆発音が響く。 『ああ!!』 通信からキラの悲鳴のような声が聞こえてきた。 は慌てて振り合えると、すぐにストライクの姿を見つける。 ここから見た限りでは何の損傷も見受けられない。 損傷したのはキラではなく、コロニーの方だった。 センターシャフトと地上をつなぐアキシャルシャフトは引きちぎれ、波を打ち、落下した。 それを見て、ストライクの動きが止まる。 だが、すぐそばまで残りのミサイルは迫っていた。 「キラ君!!」 が上げた声と同時に、ミサイルがストライクを捕らえ、爆発した。 ストライクは爆炎に巻き込まれる。 は息を呑んだ。 見開かれた目に落ちてゆく破片が見える。 (そんな) しかし、ストライクはその爆炎から躍り出た。 被弾していなかったのだ。 そのまま、ジンに迫る。 ジンも先ほどの爆発で油断していたのだろう。 まさに一陣の風ともいえる動きになすすべもなくストライクに真っ二つにされてしまった。 は自然とグリップを握る手に力がこめられているのに気が付く。 「・・・すごい」 その圧倒される戦い方には胸が躍っていた。 モニターの端にまた新たなるMSが映し出される。 「あれはジンじゃない。・・・イージス!!」 GAT-X303イージス。 ストライクと共にモルゲンレーテにあった一機が敵に渡っている。 キラがすごい能力を持っていようと、コーディネーターの乗るGが相手では・・・ 「キラ君!そこから離れて、一度艦まで!イージスは私が・・・キラ君?」 すぐそばまで来たイージスは攻撃する様子がない。 キラの乗るストライクにしてもそうだった。 どういうことだ、とは眉を寄せた。 轟音が響く。 視界の端で後一本しかなかったアキシャルシャフトが爆発を起こした。 (まずい!!) さらに次々に地表やシャフトで爆発が起きる。 (コロニーがもたない) 「キラ君!離脱するわよ!!キラ君!!」 存在するためのバランスを崩したコロニーは軋み、歪む。 そして、亀裂が広がり、分解し始めた。 コロニーは悲鳴を上げていた。 『ヘリオポリスが・・・!!』 やっと帰ってきた返事は悲鳴のように聞こえる。 「キラ君!早くしないと乱気流にまき」 そのときはすでに遅かった。 町並みは崩壊し、すべてがばらばらになり舞い上がる。 乱気流により機体はひどく揺さぶられ、コントロールがほとんど効かなくなっていた。 「くそっ」 (せめて、ストライクをキラ君を) 必死になってバーニアをふかす。 しかし、その距離は思ったように縮まらない。 キラの耳を突くような叫び声が聞こえてくる。 (もう少し、もう少しなのに) 駄目だ あきらめかけたそのとき、うしろからの気流に押されストライクの手を取ることができた。 だが、それ以上何もできない。 そのまま、二機は宇宙へ放り出されてしまった。 もう、イージスもアークエンジェルの姿も見つからなかった。 ヘリオポリスはいくつもの細かい破片と姿を変えた。 平和の国は戦争によって崩れ落ちたのだ。 |