「君はできるだけの力を持っていだろう?」 それは僕はコーディネーターだから。 みんなとは少しだけ違うところがあるけれど、でも同じ人間だ。 颯爽と進んでいた足はだんだんゆっくりとなり、仕舞いには止まってしまった。 (だったらどうしたらいい。僕は戦わなくちゃいけないのか) キラは俯いたまま肩を壁にくっつけた。 (・・・軍の人たちはみんな身勝手だ) 「銃下ろしなさいって言ってるでしょ!?聞こえないわけ!!」 ふと思い出したのはあの背中と、あの声。 「キラくん!待っててば、キラくん」 まさか、その声が追いかけてくるなんて思いもしなかった。 |
COMPOUND:7 「それぞれの信念」 |
はキラが足を止めていて助かったと切れていた息を整えた。 「どうしてさんが僕を追いかけてきたんですか」 それが誰であろうと追いかけてきてくれたことは嬉しいけれど、は地球軍の人間だ。 素直な意味で取ることはできなかった。 「ムウが・・・あっと、フラガ大尉の言葉が足りなかったと言うか、微妙だったというか・・・ 私がちょっと納得しなかったから、直接キラくんと話したくてね」 「そうですか」 それから二人は壁に寄りかかると窓の外を見ながら黙ってしまった。 も話したいといったが何から話してよいか分からず、 キラにいたっては先ほど答えてから俯いてしまったままだ。 何か警戒をしているようにも感じる。 (・・・こまった) 中尉ともなると主な付き合いは自分よりも年上の人ばかりである。 同年代の、それも一般人の少年と何を話したらよいか全く分からなかった。 (いい天気ですね?・・・宇宙空間じゃ関係ないっての) 口をへの字に曲げて情けない顔をしていると、 たまたま目を上げたキラが窓に映ったの顔を見て頬を緩める。 「さんは、僕を説得しに来たんじゃないんですか?」 「そ、それは違うよ!!だから私、キラくんと話に来たんだって!! あ、の・・・でも、同年代の子と機械とか軍とか抜きで何の話をしたらいいのか・・・」 もごもごと口ごもるを見てキラは笑いが抑えられなかった。 はじめてあったときも、戦いのときも、この艦のあのときでさえ、 しっかりと前を見つめ、変な意味ではなく、とても綺麗な人だと思っていたのだ。 しかし、今、目の前にいるはミリアリアやフレイと大してかわらいないようなあどけなさを感じる。 顔には出さなかったがそれと同時にすごいショックをも受けた。 の口ぶりから考えると少なくとも早くから軍にいたことが伺える。 自分たちには外の世界だと思っていた戦争もにとっては日常だったのだ。 自分たちと変わらないぐらいから、きっと当たり前のように戦ってきたのだろう。 それも女の子が・・・ 胸がつかまれる思いだった。 「笑わないでよ!もー恥ずかしい!!」 そう言っては両手で顔を覆ってしまう。 前にこぼれた髪の隙間から見えた耳は真っ赤だった。 「すみません。あ、その、そういうつもりじゃなくて・・・」 キラがあやまると指を開き隙間から覗く。 それから少しづつ手を頬に移動させていった。 頬よりも冷たい手の平で熱を落とそうとする。 「なんか、最初のイメージと違ってすごくかわいい方だと」 「わー!わー!やめて!!!」 再びダメージを受けたは顔を真っ赤にさせて大声を上げて首を振った。 「あ、すみません。失礼なこと言って・・・」 「失礼じゃないんだけどね・・・ あまり褒められ慣れてないので、お手柔らかにお願いします」 はい、と言ったものの、キラはよく意味を理解していなかったが、 とりあえず、かわいいというのは言ってはいけないのだと理解した。 (キラくんは思ったことを素直に口にするタイプなのか?) また、必死であがった体温を下げようとしている中、はそう思った。 「は、話が反れちゃったけど・・・ヘリオポリスではありがとう」 突然お礼を言われてキラは焦って首を振る。 「でも、あれは僕がたまたまそこにいて、運よく操作できたから・・・」 「でも、そのおかげでここに、あの一機だけかもしれないけれど、 でも、あの一機だけでも守りきることができたから。それはキラくんのおかげだよ」 はキラの真正面に立ち、深々と頭を下げた。 「本当にありがとう」 びっくりしてキラは目がこぼれそうなぐらい大きく開いた。 こんなに感謝をされるなんて思わなかったのだ。 驚きと共に心の片隅で喜びがあった。 みんなが遠まわしに自分を見る中、感謝の言葉をもらえたことに。 でも、そうやって頭を下げてもらうのは悪い気がして、気が気じゃない。 「あ、頭を上げてください!!そんな、あの・・・!!」 慌てての肩を掴み、体を起こさせる。 頭は上げさせて一安心したが、それもつかの間だった。 が眉を寄せている。 「僕、また何か失礼なこ」 「・・・ねぇ、さっきから気になってたんだけど、 なんで、キラくんはわたしに敬語使ってるわけ?」 「え?」 「なんで、キラくん私に敬語使ってるの?」 「年上には敬語、使いません?」 キラの両肩を掴んで妙な迫力で聞いてくるにキラはたじろいだ。 「・・・キラくんいくつ?」 「16歳ですけど」 「あたし、いくつに見える?」 そのとき、キラはミリアリアの話を思い出した。 女の人が年齢を聞くときはわざとらしくない適度に若めに言うのだと。 キラは決して慌てないようにすばやく考え答える。 「じゅ・・・19歳ですか?」 掴んでいた手に力がこめられた。 キラは瞬時に理解する。 この答えはハズレだ。 「C.E54、8月生まれ」 「お、同じ年?」 キラの反応にがっくりとすると力なく答えた。 「そ。だから、敬語をつける必要も、名前にさんをつける必要もないのよ」 キラは信じられなかった。 年上だったからこそ自分たちぐらいから戦っていたのかと思っていたのに 「じゃあ、いつごろから戦ってるの?」 「え?あぁ、12歳・・・だったかな?」 指を折りながら計算していたはその答えをあっけらかんと言う。 キラは眉をひそめた。 その表情に気づいたはくすくすと笑う。 「ま、私は特別だから。そうそう12歳から戦場でMAに乗ってる子はいないわよ」 特別 それは自分がコーディネーターだから、というときにすごく似ているとキラは思った。 そうやって自分をごまかしているのだ。 「でも、どうして!?どうしてそんなころから戦う必要なんかないじゃないか!!」 「待ちきれなかったの」 決意を秘めたその横顔は怖いほど綺麗だった。 「戦う理由なんて人それどれだけど、私は一緒にいたいと思った人が軍に行ってね、 それで待ちきれなくなって・・・こうやって、一緒に戦ってる。 自分の知らないところで死なれるのも嫌だったし、 自分がそばにいれば守れるかもしれない、盾になれるかもしれないから」 「・・・そんな」 「守りたいもののために戦う、これは私の信念なの」 その言葉を聞いて、年齢より上に見えたのは、 彼女が自分たちにはない強さ持っていたからだと気づいた。 突然警報が鳴り響く。 『敵艦影発見!敵艦影発見!第一戦闘配備!軍籍のあるものは直ちに持ち場に着け』 「あーあ、もっと話してたいけど私いかなきゃ」 すっくとはまるで当たり前のことのように立ち上がった。 すでにその目は戦いのときと同じ、軍人のものだった。 「キラくん、ごめんね、あたし嘘ついてた。」 「・・・うそ?」 「本当は説得しようと思ってきたの。でも、やっぱりキラくんは普通の子なんだよ。 だから、戦わないほうがいいって思ったからやめちゃった。」 そういってはにかっと笑う。 胸が痛んだ。 「戦闘中は艦が揺れるから頭ぶつけないようにね。しっかり柱か何かにつかまってて」 最後にはじゃ、と軽く言うと地面をける。 その背中を見ながら自分はこのままでいいのだろうか、と思った。 守りたいものがある。 自分の信念のために戦うのだと。 キラにも守りたい大切なものはある。 そして、コーディネーターである自分はその力があるかもしれない。 キラはぐっと唇を噛んだ。 床を蹴り上げる。 「待って!僕も戦うよ」 振り返った笑顔は驚きと喜びに満ちていた。 |