こいつがあたしの手からご飯を取って食べる姿は何かを思いだせた

なんだっけ、あれよ




あ、あれあれ



犬!


(源五郎、生きてるかな)


犬と思い出してあたしはしんみりと遠い目をした


みんなに最低のネーミングセンスだといわれたけど

あの人たちにはわかりっこないわ、このハイセンス



源五郎、あたしの飼っていた茶色い雑種犬の名前


(見れば見るほど似てるかも・・・)



じーっと見ていたら目が合った

「ん?何、俺の顔見て・・・はは〜ん、もしかして惚れた?」

「源五郎・・・」

「げんご・・・ろう?」

「・・・あたしの愛犬よ」



直後、あいつが食べ終わったスプーンが飛んできたのは言うまでもない

「わざと当てないでやったんだからな!」





ノーコン


動かないでも当たんなかったわよ













Me too  act10












食器を下げた後、ドックへ向かうとマードックとフラガが真剣な顔をして話をし ている

(これは邪魔できないか)

は自分の持ち場の指示を促そうとしたが雰囲気的に近寄れなさそうだったので諦めた

そばにいた整備士に近付いていく

「すいません。あたしはどこに付けばいいですか?」

の声に反応して整備士は振り返る

「ああか…今のところこっちは特に用事がないから休んでてくれよ」

「え…いや、でも」

「お前、捕虜の世話任されてんだろ?精神的に厳しくなるし…それに相手はコー ディネーターだからな」




コーディネーターだから




その言葉にムッとした

「あたしそういう考え嫌いです!」

は怒鳴り上げる

急に大きな声を上げたに整備士はびっくりをして目を開いた

「コーディネーターとかナチュラルとか、そんなの関係ないじゃないですか!それって失礼ですよ!!」

「あ…いや、その」

「休憩頂いていいってことですよね!失礼します!!」

整備士が何か言おうとしたのも自分の声で押さえ込み一気に言い放った

完全に頭に血が上っていたは踵を返すとずかずかとドックを後にする

唖然としていた整備士にマードックとフラガが歩み寄ってきた

「おい、どうしたんだ?今の声、だろ」









「…ていうわけなんですよ。なんで怒ったのか俺にはさっぱりで」

まだ若年の整備士は肩をすくめる

フラガとマードックは顔を合わせて溜め息を付いた

「あ〜そりゃお嬢ちゃん怒るの当たり前だわ」

「お前が悪いだろ、それは…」

二人とも納得した様子で頷いた

「え?」

まだ戸惑い顔の整備士にマードックはもう一度大きくため息をつく

整備士に近づいた体格のいいフラガが腰を折って整備しの目の高さまで屈んだ

「だってちょっと考えれば分かるだろ。お前さ、この艦を守ってきたのはだれだ?」

「それは・・・少佐とキラ・・・あ」

そこでやっと気づいた整備士は自分の失言に口を抑えた

「そーゆー事」

「今さら分かったって遅いってんだ、ばかたれが」

後ろからマードックも否める

「あ・・・俺・・・」

「とにかく、お前は仕事に戻れ、のことについては後だ、後!」

戸惑いだした整備士の肩をつかんで後ろを向かせて背中を押す

少し反抗するように後ろを見ていたが上司とパイロットの無言の笑顔でしぶしぶ持ち場へと戻っていた




「いやはや、艦長もやりますな」

フラガはぼそりと零す

「全くで」

その意図を掴んでいたマードックは腕を組んで大きく頷いた

「初めは何でと思ったんだが、これがいやはやどうして・・・ね」

「捕虜という立場ですらみんな怯えていますから、あの子が最適でしたね」

急にフラガの顔が真剣みを帯びる

「坊主も坊主の友達も居なくなって・・・あいつら本当に辛いだろうな・・・」

「・・・戦争で戦友を失うとは違いますからね、あいつらの場合

 まぁ、なら大丈夫でしょう!あいつはそんじょそこいらの男より強いですから!!」

マードックは豪快に笑った

その声に隠れるようにしてフラガは苦笑いを浮かべる

「そんな強い子じゃないと思うけどな・・・」

(どんな子であれ、あの子は女の子だ)

「あ?少佐、なんか言いましたか?」

「いや〜こっちの話!さて仕事、仕事!!」













コーディネーターだから

まだ、あの整備士の言葉が頭をよぎる

(この艦を守ってたのは誰だと思ってるのよ!!)

やりきれない思いを床にぶつけながら歩く

(その言葉だけでキラがどれだけ苦しんだと思ってるのさ!!

 それでもここを守りつづけてくれたのに!!)

・・・守り抜いて死んでいったのに

じわりと視界をさえぎるものを手で拭った

そしてそれを怒りに変えて、頭にくる、と壁を叩いた

「・・・あ」

が見渡すとそこはディアッカのいる牢の側だった

「あたしこんなところにまで・・・」

無意識で来てしまったのだろうか

(・・・あいつ、何してるだろう)

殺風景な牢の中、ベッドが一つだけ

あの真っ暗な空間で何をしているのか純粋に気になった

ただそれだけだと思う

はカードを取り出すとロックナンバーを打ち込んでカードを通した

ドアが開くとひんやりとした空気が流れ出てくる

歩き出すとコツコツと足音が役に響いた

覗き込むと予想に反してディアッカはベッドに座っていた

(・・・起きてたんだ)

か、何か用?」

重々しくこちらへ向けられた顔が数時間前のものとは何か違うものだった

「あんた、何かあったの?」

「・・・別に」

「ふ〜ん」

はあいまいな返事をするディアッカにそれ以上散策するでもなく格子に寄りかかり腰をおろす

「何、あんたここに居る気?」

「・・・ちょっと居させてよ」

「・・・それって捕虜の俺に言うことじゃないんじゃない?」

「じゃあ、居させなさい」

「はいは〜い」

しばらく顔も合わせずお互い何も言わない

は背中を向けていたしディアッカもなにも言ってこなかった



真っ暗な陰湿なこの部屋がそれでもには心地よかった

こんな小さな空間だったがコーディネーターやナチュラルなどの抗争はない

(こいつがいても、だからなんだって感じだし)


まさかここで気持ちの整理ができるなんて思いもしなかった


何で大人たちはそんなくだらい事にこだわるんだろう

そして、それを子供たちに強制するのだろう

それが悪循環だと分からないのだろうか



(・・・トール、・・・キラ)




そんな下らないことの為に死んでいった命は・・・

(悪いのはコーディネーターじゃない・・・この戦争だ・・・)

それでも小さな犠牲として済ますのだろうか



帰りたいと思った

でも、こんなことを知ってしまった以上、知らない顔でオーブには居られない

どうにかしたい



あたしにはキラのように力があるわけでもない

フラガ少佐のように戦えるわけじゃない


それでも





静かな部屋が今まで考えないようにしていた事を掘り起こそうとしてくる

は目頭が熱くなった

「・・・んっ・・・グスッ」

「え・・・お前、泣いてんの」

背中からディアッカの動揺した声があがる

「あ・・・たし、男の子に生まれたかった・・・コーディネーターになり・・・たかった」

必死で止めようとする涙が、今までとめてていたものが溢れて止まらない

「・・・こんな戦争を止められる・・・力が欲しい・・・」

・・・?」

「そうしたら、そうしたら誰も死ななかった!!」





「よお、!」


「おはよう、






「こんな、力の・・・無い自分が・・・嫌い・・・」

そしてまたこんなところで肩を震わせて泣くしかできない自分が嫌いだった

「お前・・・」

ふわりと何かに包み込まれる

それが人の腕だと

憎んでやまなかったコーディネーターの

あいつの腕だとすぐに分かった

でも振り払えない


格子越しにまわされた腕を掴んだ

ディアッカはすぐに強く抱きしめ返してくれた




そのまま は大声で子供のように泣きつづけた

温かい腕に抱きしめられながら



ディアッカは何も言わずずっと抱きしめつづけてくれた







あたしは今、この腕に縋りたい








それはずるかった

ここを自分の居場所にしようとしている

決して許されるはずはない

そんなこと分かっていた

でも・・・






今まで誰の前でも弱い自分を見せるわけにはいかなかった

自分が弱いと認めたくなかったから




本当はミリィがトールと付き合うことになったときも

ミリィがトールの話をしているときも



トールとキラが死んだときも



皆、優しかった

でも、そこは私の居場所じゃなかった






本当のあたしは自分だけの泣く場所が欲しかったんだ















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