牢の外の扉もロックをかけきちんと閉めた




ディアッカ・エルスマン

捕虜の少年はそう言った



また来てくれるよな

弱々しく吐かれたその言葉


あそこで振り返ってはいけないと思った


廊下に出て扉のすぐ横の壁に背中を壁に付けて溜め息を付く





何を迷っているんだろう


あたしはどうしたらいい?



「あ…」

顔を上げると反対側の壁にサイが困ったように笑って寄りかかっていた

「お疲れ。ちょうど休憩だから、見に来たんだけど」

「・・・ん、ありがと」

気のない返事を返すあたしにサイが肩をすくめる

「もしかして、また何かあった?」

「…」

反射的に黙ってしまったのはやはりこのもやもやは誰にも話したくなかった

「殴っちゃったとか?」

「そうなのこうこの拳でガツンと…て、さすがに裁判開けにすぐはやんないわよ !」

「あはは!だよな〜」

思わず乗り突込みをしてしまった恥ずかしさに声を上げるとサイが笑いながら肩を叩いてくる

あたしもたまらず吹き出した

「ほら、早く着替えよう。その格好じゃも俺らも落ち着かないし」

やっぱり?脳殺されるでしょ?と冗談まじりにいうと

うん、たまらないよ、とサイが答え笑いながらその場をあとにする




後ろ髪は引かれていたが振りきれそうだ

サイが居てくれてよかった



何だかんだであたしはいつも誰かに助けてもらってる




そんな自分が情けなくてしょうがなかった












Me too  act9












が作業着に着替えてドックへ戻ると、先ほどまでとは打って変わって閑散としていた

多少、整備士が動いているがそれほど慌しいという訳でもなさそうだ

「おう、戻ってきたか」

「マードック軍曹!!」

脇からひょっこりと顔を出した無精髭の上司に声をかけられた

、あのペットはどうしたんだ?」

マードックの突然の言葉には首をかしげる

はて、そんなもの飼っていたか?

すぐに思いついたのキラのトリィだったがそんなはずはないと首を振る

あまりに悩んでいるの様子にマードックが噴出した

「あははは、とぼけなさんな!あいつだよ、あいつ!お前がさっきつれてた捕虜の話だ」

ああ、と納得したがすぐにペットと言っていた意味が分かり赤くなる

きっと縄を引っ張ってつれて歩いていたからだ

「最初はこのドックの中も大変だったさ、お前がスカートを履いているってところから始まり

 次は彼氏だなんだって大騒ぎ、しまいには主従関係だっていう・・・んぐっ!!」

「わーーーーー!!!軍曹ストップ!!」

これ以上、この話を広められたらたまったもんじゃないとは慌てて口をふさぐ

「ちょっとまって下さい、軍曹!それは根も葉もない噂でして、悪質な嫌がらせといいますか・・・

 さっきの格好は軍事裁判があったからで、捕虜を連れてたのはそれが科せられた罰だからで

 とりあえず、わたしは色々無実なんです!!」

「むぐっ!!むぐぐっ!!」

必死に弁解したあとマードックを見ると顔が赤から青く変わるところだった

うっかり慌てておさえたもんだから口と一緒に鼻も抑えてしまっていたのだ

「ああ!すいません!!」

は手慌ててマードックの口と鼻から手を離した

やっと酸素が取り入れられるようになったマードックは大きく方で呼吸をする

「・・・まぁ、今更慌てたってドック中みんな知ってるぞ」

「は?」

「その根も葉もない噂、悪質な嫌がらせとやらを、だ」

マードックは豪快に笑うと唖然としているにウィンクを投げかけた

「ちょっと、それって・・・」

「あれ?もう着替えちゃったわけ?」

愕然とするにとどめを刺すかのように現れた男

聞き覚えのある声にはギギギギギと音のしそうに首を捻った

「・・・げ」

「ちょっと、ゲ、はないんじゃないかな〜」

この艦にいるたった二人のパイロットの一人、ムウ・ラ・フラガだった


はフラガが苦手だった

年上の余裕というやつか、いつも振り回されて遊ばれている

フラガは楽しんでいるが、遊びの対象とされたこっちとしてはたまったもんじゃない



まさにこのタイミングで来るとはこの世に神様はいないとは思った


マードックがフラガに近寄っていく

「どうしたんですか、少佐?スカイグラスパーの整備は順調ですぜ」

「いや〜デッキで面白い噂を聞いたからさ、休憩がてら確認しに来たんだけどさ」

はいやな予感を感じた

不意に上げた視線がフラガとぶつかる

フラガはにんまり笑った

その笑いが予感を確信へと導く

「それってもしかして・・・」

マードックも気づいたようだ

「そ、がヒモをつれて歩いてるって言うからさ!」

(やっぱり)

・・・てか、また話が大きくなってないですか?

「それは噂です。忘れてください。すぐ脳内から消し去ってください」

苦々しい表情で履き捨てるように言う

その様子を見てマードックも悪のりしてきた

「あれは壮絶な光景でしたぜ、少佐。見れなかったのは残念だ」

「ぐ、軍曹!!」

「やっぱり?あ、でも、一応スカート姿は見たから一応よかったかな?」

「いや〜やっぱりそこはつれて歩いてるところも見ないと」

「だよね?あ〜こんな事なら昼飯なんて食ってんじゃなかった!俺としたことが〜!」

そう言ってフラガは芝居がかった動きで頭を抱える

は苛立ちを通り越して悲しくなっていた

(どこまで広がってるんだよ、この噂)

は軍事裁判の告訴の内容に名誉毀損はないか調べてやろうと決心した





「じゃあ、あたし、捕虜の昼飯届けてきます・・・」

後ろからごちゃごちゃ言われてたがは耳をふさいで足早にドックを後にした










食堂に入ると見慣れた顔があった

「ミリィ!!」

!」

一人でトレイの上の食事を突付いていたミリアリアが顔を上げる

あのあと、サイに任せっきりだったので

ミリアリア食堂に顔を出しているだけでもは安心した


今でも思い出すと身震いする

やさしかったミリィのあの行動

(少しは落ち着いたのかな?)


「よかった、大丈夫?顔見にいけなくてごめんね」

自分のトレイを持ってくるとミリアリアの前に座る

「ううん、平気。・・・って言いたいところだけどちょっと寂しかったかな」

ふふ、と笑うミリアリアは少しだけ以前のような感じが戻ってきてる

「ごめんね、ちょっと忙しかったから」

「別に責めてるわけじゃないのに!デッキよりドックのほうが事後は忙しいって分かってるから」

ちょっとわがまま言いたかっただけと舌を出した

その当たり前の仕草一つ一つが嬉しくなる

「休憩、どれくらいまでなの?」

はパンをそのままかぶりついた

「え〜っと、もうそろそ終わりかな?」

「じゃあ、すぐ食べちゃうから待ってて、一緒に途中まで行こう」

「え、別にいいけど、ドックとじゃ逆方向だよ?」

食べ終ったミリアリアは最後の水を飲み干すと目の前でどんどん口に入れていくを見つめる

「ひょっとひゃぼひょう」

「もう、食べるか喋るかにしてよ〜」

そして、もう一度ミリアリアは微笑んだ




「ご馳走様!」

パンッと手を合わせて頭を下げる

「間に合いそうミリアリア?」

は食べるの早いから平気よ」

「よかった!じゃあ、トレイ置いてくるから」

そう言っては立ち上がると小走りでカウンターの方へと向かった

「おいしかったです、ご馳走様!!」

カウンターから少し身を乗り出すと中にいるコックに声をかける

コックも上半身をの方へ向けてにっかり笑った

ちゃんか、そこ置いといてくれ」

「は〜い」

一通り片付け終わるとトレイの乗る棚に一つ残っているトレイを見つけた

はそのトレイを取り上げる

「おじさーん、捕虜君のご飯、このトレイでいいの?」

「おう!ちゃんが持ってくのか?大変だけど頑張りなよ」

「はーい、ありがと。今度おかずおまけしてね〜」

食堂のおじさんは任せとけよ!と笑っている

は手をつけられていないトレイを持ち上げミリアリアの座ってる席へ向かった

「さて、行こうかミリィ?」

「・・・え、・・・それって」

「あ〜ほら、この前の軍事裁判でこれが罰だったんだ」

トレイを持ちながら肩をすくめる

明らかにミリアリアの顔が曇った

「・・・あたしをかばって、やったやつでしょ?」

「あ〜違う、違う!あいつの態度が気に食わなかったから殴ったのよ、ミリィは関係ないから!」

「でもっ!!」

「いいからいいから!ほ〜らほら、遅刻しちゃいますよ〜」

は片手でトレイを持つと空いているもう片方の手でミリアリアの背中を押した





「じゃあ、あたしこっちだから」

デッキとの分かれ道でミリアリアに手を振った

「・・・ごめんなさい」

「も〜!!だから、何で謝るの?」

片手を腰にやり怒っているようなポーズをとる

ミリアリアが大きく首を振った

「・・・いいの、謝らせて」

こうなるとミリアリアが譲らないのはがよく知ってる

仕方ない、と頭を掻いた

「う〜ん、いいけど。これっきりだよ、一回だけ」

「うん。ごめんね、ありがとう」

そう言ってミリアリアはデッキへ向かった

その姿が見えなくなるのを待ってからは動き出す


(・・・さて、次の試練だ)





「・・・また、来てくれるよな」

(あ〜あ、畜生)




労の中は相変わらず真っ暗だった

ディアッカが入ってる牢を覗き込む

壁のほうへ向いて硬いベッドで横になっていた

「はい、ご飯」

その声にディアッカは反応する

そして、ゆっくりと体を起こした

目を凝らすように細める

か・・・本当に、お前が俺の世話係なんだ」

呆れたように、少し嬉しそうにディアッカは言った

にはその様子を分かるはずもない

「食べるの?食べないの?」

「いや、食べるけどさ・・・」

そこで詰まるディアッカには首をかしげる

「何、戸惑ってるの?・・・あ〜食事に毒入ってないか心配してるわけ?」

「はぁ?」

「ふーん。そうか、毒で殺されちゃうんじゃないかと心配してるわけだ。結構臆病者なわけね」

臆病者、といわれてディアッカが勢いよく立ち上がり格子まで向かってくる

「ちょっと待てよ!誰がそんなこと言ったんだよ!!」

「分った分かった。毒見してあげるから」

「話し聞けよ!!」

「ここのミートボールは美味しいのに」

そう言ってはトレイからスプーンを取り上げ一品一品少しづつ口へ運ぶ

あきらめたディアッカはその様子唖然と見ていた

そのうちぽそっと呟く

「お前さ、これから俺が使うスプーンをよく平気で使えるよな」

「ん?何?」

「何でもねーよ」

全て毒見が終わるとはトレイを差し出す

(・・・スプーンそのままかよ)

「ま、大丈夫でしょ?ほら」

「・・・ん」

は下の隙間からトレイを通そうとする

それをディアッカは渋々と受け取ろうとしたが

「何だよ、もういいんだろ?飯、渡せよ」

がトレイの端を離さない

別に無理やり引っ張ってもいいが零れたりして一食棒に振るうのはいやだった

「あたしはあんたの為に毒見をしたのよ」

「・・・だから?」

「感謝の言葉は?」

ディアッカはこれでもかと言うほど眉を寄せる

(何だよこの女)

しかし、ディアッカの中でプライトは食欲に負けた

捕虜という立場上、三食きっちりもらえるとは限らない

食べれるときに食べておかないと、そう思ったのだ

「あ り が と う ご ざ い ま す  さま」

「なんか引っかかる言い方だけどまぁ、いいか。どうぞ」

トレイを離した

なんだか心なしか自分の中がすっきりしている








もしかしたらこいつ・・・





いいストレス解消になるかも


また見当違いな見解を持ちながらは食べているディアッカを見つめていた














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