こいつの腕と

格子越しに伝わる体の暖かさが


なんか無償に優しくて

余計、涙が止まらなかった




この涙はトールとキラが死んだときの衝動的なものとは違う

溜め続けたものが溢れ出たときの力を思いしらされた




だから


誰でもよかったのかもしれない

その場所を貸してくれる人なら






こいつは暫くしてから片手で抱き締め、ずっと頭を撫でてくれていた


(…なんだよ、めちゃくちゃ優しいじゃんか)







今まで誰もくれなかった

誰にも求められなかったものを

こいつが与えてくれている



それはあたしが本当に求めてた場所かもしれない












あたしが落ち着いた頃を見計らって声をかけてきた

「お前もさ、俺たち・・・コーディネーターに友達を殺されたってやつ?」

「…」

「そうなんだな」

返事は返せなかった

そして、また沈黙

「あんたが悪いわけじゃないって分かってるから」

回されてる腕を掴んでいた手に何と無く力を込めた

「…

いつもとは全く違う

低く落ち着いていて優しい口調にどきりとする

側で呟かれた右耳が熱い

「…

もう一度呼ばれて何だかすごく気恥ずかしかったから止めさせようと振り向いた

その瞬間、撫でられていた手に力が込められて引き寄せらる

格子にぶつかりそうになった

思わず目を瞑る

その次の瞬間口に何か触れた

驚いて目を開けるとあいつの顔

あいつの目が弧を描いて微笑んでいた

「…んっ」

もう一度触れる

今度は長く





ちゅうされた




だから


だから


決してこいつだからってわけじゃない!!

誰でもよかったんだ!



断固としてお前だからじゃないからね!!












Me too  act11













驚いたが慌ててディアッカを突き飛ばした

「あああああんた、今ちゅうしたわね!!」

(…ちゅうって色気のない)

突然の衝撃にディアッカはそのまま後ろに尻餅を付く

それでも相変わらず豹豹とした表情でそんなことを考えながら頭を掻いていた

閃いたように顔をあげる

「あ〜もしかして、初めてだった?」

「は…初めてじゃ…ないけど…そ、そういう問題じゃないでしょ!」

「な〜んだ。初めてなら責任とる覚悟だったのに」

「せ、責任!!」

顔が熱くなる

きっと今、顔は真っ赤だろう

そう考えるとは余計に恥ずかしくなった

ディアッカは余裕そうに笑っている

「そ、ちゃんと取るよ、責任」

「取るんだ責任…て、違うわよ!なんでちゅうなんかするのよ!」

は声を上げると口を腕で隠す

その唇がディアッカの目にさらされるのが嫌だった

くくっと喉を鳴らして笑う

「いや〜だっていい雰囲気だったし、もったいないから」

「何それ!」

「じゃあ何?俺があんたの事、好きだからって言えば納得するわけ?」

その言葉にの頭は一気に冷えた

こいつは何とも思わなくてもキスの一つや二つ出来る男なんだ

簡単に結論付いた

(…なんか悔しい)

自分はこんなキス一つで動揺してるのに

こいつはこんなに何も思ってなくて…

確かに考えてみればこいつ相手に無防備に甘えたりしたあたしが悪かったのかも しれない

でもだからって…




愛情のないキスは許せない




ギッとディアッカの顔を睨み付ける

「…!?」

しかし、そこでは違和感を感じ驚いた

今、自分はなんと思っただろう


『愛情のないキスは許せない』


どういうことだ?


「ん?何、俺の顔じーと見てるわけ?」


どうして愛情がないと許せないのだろう


「分かったよ、キスの事は悪かったって!まぁ、お前もこれにこりて不用意に俺 に近付くなよ」


男女がキスをするときは必ずお互い愛情がなくちゃいけないから


「なんだよ!謝ってんだろ!!…はは〜ん、もしかして」


…違う

そうじゃないだ

許せなかったのは


「お前、俺のこと好きなの?」

「…え?」

は顔が今までで一番熱くなった気がした

みるみるうちに顔はおろか首や耳まで赤くなる

その表情にディアッカも唖然とした

「え…まさか、お前…本当に…」

その言葉を最後まで聞くに耐えきれずは走り出した

「おい!待てよ!!」

格子いっぱいに近付いたディアッカは声を上げる

声を遮るようにドアを閉めロックをした

しかし、手が定まらずカードが思うように通らない

(いや!…いやだ!早く、早く通ってよ!!)

何度も何度も通そうとするが入り口付近にぶつかり、カードはカツンと音を立てるだけだ

ディアッカは牢の中なのだからここまで来れるはずがないのには焦燥感に襲われる

焦れば焦るほどカードは通らない

(なんでよ!…早く、早…あ!!)


ピーー!


廊下にロックを完了した音が響いた

どっと汗が吹き出る

は一気に安心感と疲労感に襲われ、その場に座り込んでしまった

(…よかった)


明らかにあれは過剰反応だった


ふざけんじゃないわよ、あんたなんか!!

そう言えばよかったのに



「俺のこと好きなの?」



言ったディアッカははっきりと冗談の顔付きだった

この話題は上手くはぐらかせられたはずだ




でも




でも、できなかった


あの時、自分に否定できる余裕がなかったのだ



思い出す包まれた腕、掌


優しい声

触れた唇

速くなる動悸

大きくなる心臓の音

考えれば考えるほど恥ずかしくなった



恋は未知数の偶然で突然始まる 誰かが言っていた


別にこの言葉のせいにするわけじゃない


だってこれは愛とか恋とかの感情じゃないから

何度も否定を繰り返す



優しくされたいときに優しくされたから

それで好きになってしまうほど 自分が恋に安い女だと思いたくないだけかもしれない




(トール!トール!)



すがるように心の中で大好きな少年の名を繰り返した

でも浮かんでくるのは褐色肌のアメジストの瞳を持った少年


(何で!!・・・やだ!!!)


頭の中が「でも」だらけでぐちゃぐちゃになる







(…何か頭、すごい痛い)

ずる

壁に寄りかかっていたの体の力が急に抜けていく


(…あ…れ?)


は床の冷たさを感じた

起き上がろうとしたが体に力が入らない

薄れゆく意識の中で遠くで誰かが呼んでいる




サイ?




キラ?




トール?









ディアッカ?















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