周りはひたすら暗かった

あたしは一人でどこに向かうとも知れず歩いている


酷く怖かったけど足は止まってはくれなかった



誰もいない

誰も来ない

ただただ怖かった




「…!」

そう呼ばれて目を覚ますと見覚えのある天井

(…あれ?いつものベッドだ)

あの時、倒れて…

(こりゃ誰か拾ってきてくれたんだな…)

着ていた作業服は前だけ開けられていた

体を起こすとぽとりとタオルが膝の上に落ちる

触るとまだ冷たい

誰かいたんだろうか

(ミリィかな・・・)

そう言えば、さっきの妙にリアルだったあたしを呼ぶ声は誰だったんだろう

と 頭を捻ると後ろから声を掛けられた

「いつになったら、僕に気付いてくれるのかな、は?」

「え?」

聞き覚えのある少し高めのトーンに慌てて振り返る

「キ…ラ?」

すぐ後ろには茶色い髪とアメジストの瞳

氷の入った桶を持ったキラがいて

ビックリして涙が溢れてきた

キラは困ったように笑っている

「…う、そ?」

「幽霊じゃないよ?足あるし」

「ふざけた、じょ・・・うだ・・・…ん…っ!」

唇を噛んで大きく首を振った

あたしは堪らなくなって起き上がってキラに駆け寄った

キラがあたしを受け止めようと手をだす

桶が落ちて足元に水が飛び散った

そんな事も気付かずにあたしは必死でキラに抱き付いた

「…かった!よかったよ!」

「うん。ごめんね、ただいま」

柔らかくキラが笑う




色々な事があったから

キラにだから言いたいことと

キラだからこそ聞きたいこと

たくさんあったのに口から出てくるのは


泣き声ばかりだった












Me too  act12













暫くしてが落ち着くと二人はベッドに腰を下ろす

はまだ赤い目を擦りながらへらりと笑った

「キラに抱きつくなんてフレイに怒られちゃうなぁ」

「…あ、フレイはここにはもういないんだ」

「え?」

「配属がえだって、バジルール中尉とフラガ小佐と三人で

 …でも小佐はさっきの 戦いで戻ってきたらしいんだけどね」

キラが何とも取りにくい表情をする

「そっか。キラ、寂しくなるね」

はうつ向いて手を組んだ

「…うん。でも、考えなきゃいけないことがたくさんあると思うから…僕も、フ レイも」

そう言って、キラは目を伏せた



ふと思い出すのは 変わってしまったフレイ

の知っているフレイは可愛くて明るくて、人気者の持つカリスマ性を生まれながらに持った

憧れずにはいられないアイドルのような、そんな女の子

でも彼女は変わってしまった

たくさんの事がありすぎて・・・

それは少しばかり面識のあるゼミの皆も、そしてやはりキラも感じていたのだ

(でも変わったのはフレイだけじゃない)

ちらりとキラの方を見ると目が合い、先ほどとはまた少し違う困った笑顔をして いた

(キラも変わった)

正しくは変わっていく

カレッジの時では思いもしない様々なキラを今もまだ見る事がある



「…大変だね、みんな」

はいろいろ考えながらもそんなふがいない言葉しか言葉しか言えなかった

そんな自分が悔しかった

ちらりと前を見据えるキラの横顔を見る

また随分、顔付きが変わった気がした

カレッジからずっと見てきているが今の顔が一番自信に満ちている気がする

何だか自信とは少し違う気もするが・・・

それでも今までで一番いい顔かもしれない

(…キラには何があったんだろう)

は足をばたばたさせた

「ところでささっきの戦いでって言ってたけど…あたしどのくらい気を失ってたの?」

「まる3日」

「はぁ?」

「いや、だからまる3日」

聞いてるのはそう言う事ではないのに、とは頭を抱えた

こう言うところは変わっていない

天然なのだ

(でも、まる3日・・・あたしが倒れてからそんなに・・・)

キラから自分の事と一緒にアラスカの件も聞いた

今は、オーブに向かっているそうだ

「そんな激動の3日間、あたしは気を失っていたんだね・・・」

また自分が情けなく感じた

でもキラは大きく首を振ってこちらに体を向ける

「そんな!だって大変だったんでしょ・・・捕虜の世話任せられたみたいだし

 ・・・それに倒れるほどだったんだから」

「あ、いや・・・その」

ふいに出された話題にどきりとした

思い出してしまったあの事を

顔が熱くなるのが分かる

「どうしたの?まだ熱があるんじゃない?」

心配してキラが額に触れてくる

「大丈夫だよ、なんでもないから」

キラはそう?というと額から手を離した

「あのさ、キラ?」

「何?」

「その…トールは?」

キラの顔は一瞬にして曇り黙ったまま首を横に振る

分かっていたことだけど目の前がぐらついた

「・・・やっぱり、なんとなく分かってたんだけどね」

「ごめん。僕はまた助けられなかった」

キラは視線を落とし拳を握る


きっとキラは今も気に病んでいるのだ

フレイのお父さんの事や

あの少女の事

助けられなかった人の事を


はゆっくりとキラの手に自分の手を重ねた

「そんな事ない。キラは十分頑張ってるから!今回だってキラが来なきゃ危なかったんでしょ?」

・・・」

「ね!ほら〜泣きそうな顔しないでよ!!」

「うん。ありがとう」

「・・・それでもその事、ミリィにはまだいわないで欲しいの…」

「…うん。分かったよ。あのさ・・・」

キラが何か言おうとしたその時部屋のドアが開いた

!よかった!!」

飛び込んできたのはミリアリアだった

は危機一髪で聞かれていなかったことに胸を撫で下ろす

ミリアリアは思いきりに抱きついた

「ミリィ!」

「馬鹿!心配したんだからね!!」

「ごめんね」

「本当にフラガ少佐がを抱き上げて連れてきたときは心臓が止まるかと思ったのよ」

「・・・少佐?」

「うん。牢の前で倒れてたって」

(あのエロ上司変なところ触ってないわよね・・・)

が顔をしかめると隣のキラの顔も少し曇った気がした

「とりあえず目を覚ましてくれてよかった〜・・・あ!」

「どうしたのミリィ?」

「え〜っと、どうしよう・・・目を覚ましたら艦長のところへ来いって伝えてくれって言われてるの、

 とりあえずそっちが先がいいかな?」

「そうだけど・・・まさか、またそれ着るの?」

心底嫌そうな顔をしてミリアリアの軍服を指す

「え?またって、もしかしてそれ一式着たの?」

目を開いて感嘆の声をあげたのはキラだった

その態度に更にの顔が曇る

「着たわよ!ムカついた捕虜を殴ったの!!」

うわ〜やっちゃたんだ、とキラは苦笑いを浮かべた

「今回は公式の場じゃないからそのままでいいって」

「あ〜よかった」

ミリアリアがくすくす笑いながら言う

「僕もそろそろ休憩終わりだから途中まで一緒に行くよ」








「まずはごめんなさい」

ブリッジへ着くとすぐ目の前でラミアスが深深と頭を下げた

「あ・・・いや、頭を上げてください艦長!」

は慌てて体を起こしてもらおうと首を振る

「医師から聞いたの精神的疲労からくるものだって」

(・・・そうだったんだ)

「刑罰とは言え安易に課せてしまったわね・・・」

「そんな別に自分がしでかしてしまったことの罰ですから」

「捕虜の世話・・・ほかの人に頼んだから、もういいわよ」

本当に申し訳なさそうに喋るラミアスには逆に謙遜してしまった

「お心遣い感謝します」

は本当に安心した

もうあいつに会わなくてすむかと思うと

不可解な自分にも会わなくてすむと言う事だから

これで胸のつっかえが一つ減った

「ええ、本当にごめんなさい」

最後にラミアスはもう一度深深と頭を下げる

「いえ」

ドックにでも戻ろうとはドアに手をかけた





トールが死んでから



本当はもっと前からかもしれない



あたしなりにたくさん考えていて



それで出た結論が一つだけある



でもこれを言ってしまったらあたしの全てが変わるかもしれない



…それでも、あたしは




は拳を握り振り返った

「ラミアス艦長!」

「?どうしたの?」



「あたし、パイロットに志願したいのですが!」



その声はに響きわたり、その場にいた全員の視線がに注がれる






これは誰かに促されたわけでも触発されたわけでもない



わたしはただ


ただ自分が何かをしたいのなら自分から動かなくちゃいけない

そう思っただけだか ら
















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