艦長は少しだけ唖然として そして、やっぱり困ったように笑った 「…正直、今は何て言ったらいいか分からないわ…ごめんなさい」 その言葉がどういう意味を持っているかすぐに分かった あなたをパイロットにしたくない これは私個人の意見ですが 軍事的立場と人道的立場の間で揺れた艦長の考え わたしだって分かっている 自分の意思できちんと本格的に訓練をした軍人と その状況でそうなるしかなかった軍人と 能力的に大きな差があること 今まではゼミの経験が力になったから人手不足のこの鑑では役に立っていた パイロット 未経験の世界でこれはそうは簡単にいかない あたしはキラのようにコーディネーターではないから それに自分は女だから 男には総体的に劣ってしまう またそんな下らない事であたしは諦めなければいけないのだろうか 悔しくて唇をかんだ 「すみませんでした、失礼します」 このままここにいても答えは同じだ あたしは頭を下げると踵を返しブリッジを後にした Me too act13 とぼとぼと歩いていると後ろから呼び止められた 「!」 振り向くとキラが小走りで向かってくる 「あ、キラ」 「艦長の話し終わったの?」 はキラが追いつくまで待つと二人は肩を並べて歩き出した その質問には煮え切らない返事を返す 「う〜ん。一応・・・かな?」 「一応って・・・艦長何だって?」 肩を竦めたは大きくため息をついてキラに目をやった 「捕虜の世話、しなくていいってさ、その話」 「そっか、よかったね」 安心したようにキラは笑った (パイロットのことはキラにはまだ内緒にしておいたほうがいいよね) 散々苦しんでパイロットをやり続けたキラだからきっと反対すると思う あたしが戦いに参加したところできっと死ぬのも目に見えてる 友達思いのやさしいキラだから、あたしを気にしちゃうと思う キラに心配かけたくないし それでさえキラは自分のことで精一杯だから 自分は馬鹿だと思う そうやって人のことを心配するなら そんなことを考えるなら、なろうとしなきゃいいのに でも ごめんね、キラ 自己満足だとわかってるけど トールのように あたしも戦いたい あたしも守りたい だからこれだけは譲れないんだ 交互に動く自分とキラの足を見つめながらは考えていた 「フラガ少佐!」 不意にキラが声をあげる 視線を上げるとへらりとしたフラガが手を振っていた 「よ、坊主にお嬢ちゃん!」 よってくるフラガにキラはこそりとに耳打ちする 「ほら、!ちゃんとお礼言っておかないと!」 は露骨にいやそうな顔をした その表情を見てキラがもう一度念を押すように言う 「ちゃんと言うんだよ」 「わかってますよ」 はそっぽを向いて返事をした そんなこそこそ話をしているといつの間にかフラガが前に立っている 「俺を目の前にして、ほったらかしで二人だけで内緒話なんて妬けちゃうな〜」 「そんなんじゃないですってば!」 にやにやした顔をしてひじでキラを突付いた (・・・そこでわざわざ赤くなるからからかわれるんだってば) キラの心情も知らずは横を向いてため息をつく このままキラをからかってどっか行ってくんないかな そう思っただったがそうは上手くいくはずもなくその視線はに向いた 「お嬢ちゃん、体のほうはどうなんだよ?」 視線を合わせようとしてフラガが屈んでくる 「ソノセツハアリガトウゴザイマシタ」 「こら!ちゃんとお礼を言いなっていった・・・」 「アリガトウゴザイマシタ!」 目の据わったままのはキラの言葉をさえぎるようにもう一度言った 「・・・何でカタコトとなんだよ。まぁ、悪態つけるぐらい元気ならいいけどね」 あきらめた様子のフラガは肩を竦める 「じゃ、あたしはこれからドックに行きますんで」 壁際からフラガの脇を通り抜けようとする しかしそれはフラガの腕でさえぎられてしまった 「何ですか?」 いつも飄々としたその目が真剣になる 何もかも見透かすような目 は言いようのない威圧感にぶるりとした 「・・・パイロットに志願したって本当なのかよ?」 隣のキラの目が自分を見つめ見開く (こんの疫病神) は苦々しく顔をゆがめると背いた キラが慌てて口を開く 「ちょ、ちょっとそんな話、聞いてないよ?」 フラガは反対の手でキラとの間を遮った 「それは無言の肯定ととっていいのかな、お嬢ちゃん?」 「・・・さっき艦長に言ってきました。でも遠まわしにだめだって言われました」 「俺が言いたいのは、なった、なれなかったって話じゃな・・・」 「自分の意思でパイロットになるって決めたんです!! あなたたちがキラにしたようにじゃない! あたしは自分の意思で決めたから何も言われる筋合いはない・・・っつ!!」 「しょ、少佐!!」 フラガはの手首を掴みあげる 「ほら、何の抵抗もできないだろう?」 引っ張りあげられて爪先立ちでばたばたともがく むこうは片手で あたしは全身なのに またこんなところで自分の弱さを突きつけられるなんて 必死にもがきながらどんどん目に涙がたまってくる 「・・・んっ!くそ・・・ぅ!畜生っ・・・うぅ・・・」 どんなに抵抗してもびくりともしない この片手からすら逃げられなかった フラガの握る手からの力が抜けていくのが伝わる あたしはまた泣くことしかできないの ふっとフラガが手を離した は何の抵抗もなく床にへたりこむ 「少佐!・・・こんなやりか・・・」 キラがの隣に座り、フラガを睨んだ しかし、フラガの視線はだけを見ていた ひどく厳しい視線で 「こんな細い腕じゃ無理だ。何にも守れない」 見透かしたような台詞 はまたびくりと体を震わせた 「そんな・・・こと・・・」 パイロットになれば何かできる 安直な考えだって分かっていた でも 他に何も手がなかった わたしには少ない選択肢の中でこれしかないと これしかできないと思っていたのに 「あ、あたしは・・・」 ぽたぽたと床にしみる涙を見ながら唇を噛んだ 「決意と無茶を一緒にするな」 「・・・!?」 は顔を上げた フラガのその視線はどこまでも厳しくを貫く また涙が込み上げてきた は立ち上がると走り出しす 「!!」 キラが追いかけようと立ち上がろうとした 「・・・あ」 しかしフラガに腕を掴まれてしまい動けない みるみるうちにの姿は消えていってしまった 「離してください!!」 キラは振り払うようにフラガの腕を跳ね飛ばす 「今、坊主が追ってもどうにもならないさ」 「でもっ!・・・少佐こそあんな言い方ないと思います!!」 キラは噛みつくように怒鳴った 表情も変えずフラガは立っていた 「だったらどうする?優しく諭すか?それであいつが分かると思うか? 坊主、おまえがあいつのことを大切に思う気持ちだけじゃどうにもならんこともあるのさ」 「・・・っ!」 「どうにかしたいのは誰だって同じ気持ちなんだよ」 キラはその言葉を聞いてもうつむいたまま返事をしなかった 坊主にはまだ早かったか?と肩を竦めるフラガにキラが零すように呟いた 「それでも・・・それでも、あれじゃ、傷付いてます」 そのキラの様子にフラガは頭をがしがしと掻く 「坊主は”出来る”ことに悩むようにあいつは”出来ない”ことに悩んでるんだ」 「え?」 「だから坊主、おまえもあーなっちまったあいつの気持ち、分かってやれ」 「・・・はい」 「じゃ、俺はまたブリッジに戻りますか」 キラはうつむいて立っている横をフラガは通り過ぎる 「・・・まあねぇ、誰だって人を傷つけて痛くないわきゃないんだよ」 キラは驚いて顔を上げる そう言ったフラガの横顔が妙に悲しそうで目を開く そのまま行ってしまったフラガの背を見ながらのことを考える 僕がいなかったときに何があったのだろう 返ってこない返事を誰もいない廊下を見つめながら問いつづけていた 「こんな細い腕じゃ無理だ。何にも守れない」 「決意と無茶を一緒にするな」 その通りだった 分かっているのに自分で問いつづけるのと 人に言われるのじゃこんなに違うなんて 人通りの少ない個所までくると壁に寄りかかる 見つめた手首は赤くなっていた 軽く触るとずきりと痛む 「くそ!・・・くそぅ・・・」 また涙が込み上げてきた 時間はたっているのに手首はまた痛くて ずきずき痛くて どうしてだろう、こんなときにむしょうにあいつの顔が浮かんで 会いたくなってしまった もう会えない 会ってはいけないと分かっているのに 会いたくて仕方がなかった |