あたしは両脇をサイとキラに支えられながらただ涙を流し続けた

「キラ・・・ごめんね」

「何で謝るの?」

「あたし・・・何も・・・あいつらに・・・」



「そうそう、あんな遺伝しいじった危ない奴らなんていなくなったほうがいいんだよ」

「それに別にあいつに助けてくれって言ったわけじゃない」




「・・・んっ悔しいよ・・・悔しい・・・」

「泣かないで、

「そうさ、は悪くない」

両方から慰められてあたしは嬉しい反面、やっぱり女を感じてしまう



なんて汚い言葉だったんだろう

あいつらの顔が忘れられない

酷すぎる

悔しい

捕虜だってコーディネーターだって


同じ人間なのに


「でも、お前、いくらなんでも食事もって行かないのはまずいだろう」

「ああ、別にちょっとぐらい食べなくても死にはしないだろ?」




「あ・・・」

あたしは顔をあげた


ディアッカ・エルスマン


「どうしたの?

「あたし、思い出した・・・行かなきゃ」

「え?」

サイとキラの手をありがとうと言いながらどける

そして顔をごしごしと擦った

「大丈夫だから、ごめん。行かなきゃいけないの!」

「何処へ?とりあえず医務室行ってからじゃ駄目なの?・・・あ!」

キラのその言葉を振り払いあたしは走り出した


行かなきゃ

なんて嘘だ

あたしは行きたかったんだ















Me too  act15













「おじさん!」

食堂に走りこんでカウンターに顔を出す

「おう、体はもう平気なの・・・ってどうしたんだよ、その顔!?」

コックはの腫れ上がった頬を見て声をあげる

「どうってことないから!!」

「どうってことないって・・・すごく腫れてるよ?」

「ああ、平気!痛くないから!!それより捕虜の食事は?」

いつもならトレーの乗っている棚には何も乗っていない

コックは顔を顰めた

「ああ、ちゃんの後がまがまったく食事を取りに来なかったんだよ」

(・・・やっぱり)

は舌打ちをした

「じゃあ、あたしこれから持っていくから、三日分サービスして!」

「え、ああ。それでさっきミリアリアちゃんが持っていってくれたよ」

「え?」



ミリアリアが?

どうして?


何だか言いようのない不安を感じた


「あたし、トールと付き合うことになったんだ!」



何で今こんなこと思い出すの?




「ホントにここのやつはコーディネーターだからって怖がって

 よっぽどちゃんやミリアリアちゃんの方が勇敢だよ

 ・・・って、おーい!!ちゃん?」

コックの声を聞かないまま、または走り出した

「・・・頬冷やす氷ぐらい持っていけばいいのに」















そのドアはが思っていたよりもすんなり開く

(え、どうして・・・?)

カードキィも暗証番号もいらなかった

立てば開く扉


暗がりを覗き込むと中にミリアリアの姿はない

少しほっとして胸を撫で下ろした

こつりと自分の靴の音が響いて耳を突く

「お前、まだ何か用かよ?」

まだ?

三日ぶりにきた自分に対してその口調はない

(・・・ミリィの事なの?)

また何かふつっと自分の中で湧き上がる気がした

「ごめんね、ミリィじゃなくて」

は吐き捨てるように言って牢の視角に姿を現す

目が零れ落ちそうなほど開いているディアッカがいた

?なんで?!」

かしゃんとスプーンが床に落ちる

その手にはトレィがあった

「あ・・・いや、さっき外跳ねがこれ持ってきてさ、お前の事聞いたんだよ

 倒れたんだろ?こんなところ来て平気なのかよ??」

ディアッカは座ったまま慌てて喋る

(やっぱりミリィが来てたんだ)


そこで思い出した

あのときディアッカがに言った言葉を

「お前もさ、俺たち・・・コーディネーターに友達とか殺されたくち?」

お前もさ

ミリアリアはディアッカに会っていたのかもしれない


どうしようもなく自分の中で何か渦巻いていく

は格子ぎりぎりまでよっていった

「何か言えよ・・・って、お前どうしたんだよ、その頬!?」

さすがに傍まで寄ると暗いここでも分かったらしい

「別に何でもない」

「何でもないじゃないだろ?すっげー腫れてるじゃんかよ!!」

ディアッカはトレィを床に置くと立ち上がってに駆け寄る

「なんでこんな・・・」

その腫れ具合にディアッカは驚いて触れようと手を差し出した

「触んないで!!」

思わずは手を叩く

ディアッカと目が合った

「・・・あ、その」

衝動でやってしまったことにの顔に後悔の色が見える

ディアッカはその叩かれた手を腰に持っていった

(・・・こんな事したいわけじゃないのに)

ディアッカに嫌な顔をされると思ったに反してディアッカはけろりと笑っている

「・・・俺の同僚に今のお前みたいなやついたよ。ストライクにつけられた傷だ・・・あ」

ディアッカはストライクにと言ってしまった事に慌てて口をふさぐ

「あ〜いや、その・・・だから」

ばつの悪そうに視線を下ろすと頭を掻いた


どうしてだろう

嫌なことを思い出して

自分勝手にイラついて八つ当たりっぽいことまでしたのに

こいつは

別に怒るわけでもなく何をするわけでもなく

固く結んでた紐をすって手品の様に解いちゃうように

あたしの心を緩やかにしていった



気付けばディアッカの顔をみていたは微笑んでいた

「いいよ、話して。あたし聞きたい」

「お前の仲間の悪口みたいなもんだぜ?」

ディアッカはちらりと視線を上げる

「うん。いいよ、聞きたい」

その穏やかな顔にディアッカはそうか?と言うと口を開いた

「・・・えーっと、俺の同僚でイザークってのがいるんだよ・・・」













「ま、そういう話だってわけだ」

「はぁ。随分、感情の起伏が激しい人なんだ」

いつのまにかは座り込んで話を聞いている

格子越しではあったが二人の距離は30cmもなかった

「で、そいつがさっきのお前みたいだっての」

「え〜違・・・」

さっきのあたし

なんだかどろどろした感情がいっぱいだった自分

張り詰めた糸みたいな

「わないかもしれない・・・」

「だろ、なんか相当切羽詰ってるような顔してたし」

「・・・」

「何だよ、その顔・・・」

「ディアッカには何でも分かっちゃうのが嫌だなぁって思っただけ」

は大きく背伸びをした

「何でもはわかんねーよ。てか、それ本当に痛そうだよな・・・平気なの?」

ディアッカがまた手を伸ばしてくる

今度は違う意味でどきりとした

思わず目をつぶってしまった

触れると思った手はいつになっても触れてこない

目をあけるとディアッカがまた困った顔をして頭を掻いている

「どうしたの?」

「・・・あのさ、お前あんまり男の前でそーゆー顔しない方がいいと思うぜ」

「は?」

「だ・か・ら、前も言ったとおり俺に不用意に近付くな!!って

 俺はコーディネーターだし、捕虜なの」

「は?今まで普通に喋ってたのに急になんなのよ、その言い草!?」

「お前があまりにも危機感ないからだろ!!」

「何?そうやって責任てんか・・・んん!!」

またディアッカの顔が近付いてきて

キスされた

それでもディアッカはすぐに唇を離す

「こういうことだ!!分かっただろ」

そう言ってディアッカは後ろを向いてしまった

ディアッカがいいたいのは男女としての危機感と言うことなのだろうか

しばらく沈黙が続く

切り出したのはキスをされただった

「あのさ、ディアッカ」

「何だよ」

「耳赤いよ」

(赤くはないけど)

ディアッカは振り向いて耳を隠す

「赤くねぇっての!!」

思わず振り向いてしまったディアッカはまた後ろを向くことも出来ずに俯いていた

「あたし、嫌じゃなかったの。この間も今も」

「何が?」

「ディアッカとのキス」

「お前、何言ってるかわかってんのか?」

「・・・本当に何言ってるんだろーね」

首をかしげるにディアッカは調子を戻し大きく溜息をついた

「何言ってるんだろうって、おまえなぁ」

「でも、ここんところ色々悩む事があって、たくさん考えてたんだけど

 ディアッカの顔が浮かんでくるんだ」

ディアッカの顔が歪む

「ちょっと、待てよお前・・・」

明らかにディアッカに動揺の色が見えた






どうしてこんなことを考えるのだろう


あたしはトールが好きで

ミリィっていう可愛い彼女が出来てからもずっと好きで



諦められないぐらい本当に大好きだったのだ






なのに苦しいとき思い出したのは



こいつの顔だった




それはあたしに居場所をくれたから?

欲しい言葉をくれたから?


なんでこいつがあたしの中にいるのか分からない


けれど



これだけははっきりと言えた




「あたしあんたに一番会いたかった」

そう真剣な眼差しで言った

ディアッカは困ったように、そして嬉しそうに笑った



そしてディアッカが手を伸ばし

はその大きな背中に手を回した


唇が重なる


どちらからともいえないキスを交わした




持つ全ての苦しみを溶かすような優しいキスを

















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