「あんたに一番会いたかった。」 素直に本当にそう思った。 私たちの平和を奪ったコーディネーター 敵であるコーディネーター トールを殺したコーディネーター 憎むべき相手、コーディネーター なのに あれだけ悩んで否定し続けた心を受け入れると決めたら意外にも簡単に素直になれた。 ディアッカの顔を見てしまったら 褐色の肌も キラと同じなのに全然似ていないアメジストの目も その笑顔も 結局は私たちと何一つ変わらない。 それがどうしても嬉しくてたまらないのはいけない事なのだろうか。 「・・・ディアッカ」 少しだけ離れた唇から名前を呼んだ。 ディアッカは嬉しそうに微笑んで、あたしの名前を呼び返してくれた。 その目に映されたあたしが、まただんだん近くなる。 涙が零れそうになった。 Me too act16 どれくらいだか分からなかったが、抱きしめながらお互いを確かめ合った。 時々、じゃれあうようなキスもした。 びっくりしたのは自分よりもディアッカの方が照れていたことだった。 「・・・真っ赤」 からかうように頬をつつくと、ディアッカは眉を寄せる。 「うるさい」 「あひゃっ」 器用に格子から手を伸ばすと腫れていない方の頬を引っ張った。 「赤くないだろ、このやろう!」 ディアッカは悪いこというのはこの口か、と手に力をこめた。 ギブアップと告げるようには腕を叩く。 「参ったか?」 「まいりまひた」 演技がかった言葉を交わして、二人はまた笑いあった。 はキスをして抱き合ってはいたが、いまいちこれが好きなのかという自覚がなかった。 理解しあった同志のようにも感じていたし、 友達の延長線のような感じもしていた。 トールへの”好き”とは違うような気がする。 でも、これだけははっきり言えた。 自分にはディアッカが必要だと。 贅沢を言ってしまえば、ディアッカもそう思っていてくれればと。 この気持ちは戦っているキラに、 死んでいったトールやそのほかの人、残された人への裏切りになるのだろうか。 分かってはいる。 でも・・・ そう思いながら、少しだけミリアリアに後ろめたさを感じていた。 笑いあった後、少しだけ目を落としたの仕草が気になったディアッカは名前を呼んでみた。 「?おい、?」 名前を呼ばれて、あまりにきょとんとした顔を向けるに頭をかく。 「どうしたんだ?今更、後悔してるのか?」 「後悔?・・・何を?」 「・・・あー、このことじゃないのね」 自分とのことを言ったつもりだったのには全く気に留めていないようだった。 こうなっていることがごく自然であるかのように。 コ−ディネーターとナチュラル、ザフトと地球軍の人間なのに。 少しだけ残念そうにディアッカは皮肉に笑った。 はふと、キラとの話を思い出す。 「ねぇ、ディアッカ」 「なんだよ?どうしたの?」 「ディアッカ、あのね。・・・この艦、地球軍じゃなくなるみたいなの」 「なんでさ?どういうこと」 「・・・さっきのアラスカの戦いで」 それからはディアッカに事のいきさつを説明した。 アラスカでの戦争は地球軍のサイクロプスによってその戦いに幕を閉じたらしい。 敵も味方もなく、たくさんの犠牲者を出して。 さらにそれはザフトの新型大型破壊兵器によるものだと報じられたのだ。 ディアッカは耳を疑った。 ここで初めて苦々しい表情を浮かべる。 は小さい舌打ちが聞こえた気がした。 そして、このアークエンジェルがその難を逃れたのは、 死んだと思われていた、あの元ストライクのパイロットが新しい機体で呼びかけてくれたかららしい。 話を聞きながらずっとディアッカは下を向いていた。 地面を見つめじっと何かを考えているようだった。 はディアッカの様子が酷く気になった。 地球軍がしたことに、それから味方を思っているのだろうか。 「それでね」 そして、アークエンジェルは今、オーブにいる。 地球軍のサイクロプス投入によるアラスカ基地での衝撃はアークエンジェル内に大きな傷を作った。 オーブはそのアークエンジェルを受け入れてくれたからだ。 全ての話を聞き終わったディアッカは今までとは全く違う視線をに向ける。 「で、俺はどうなるの?」 「・・・分からない。今、私たちはアークエンジェル内に待機するように言われてるから」 「ふぅん」 何かを揶揄するような含んだ返事を返す。 気まずい沈黙が訪れてしまった。 さっきとは違った意味でドキドキしている。 ディアッカの表情が怖かった。 「で、はどうするの?」 突然自分のことを振られて、どう答えて言いか分からなかった。 そう言えば何も考えていない。 地球軍ではなくなる。 らしい、と伝えたが、きっと地球軍ではなくなるだろう。 じゃあ、自分はどうなる? オーブへ戻ってきて、地球軍ではなくなるなら。 平穏な暮らしに戻ってもいいのだろうか。 戦いとは無縁の生活に。 ちらりとディアッカを見る。 ディアッカはさらに険しい表情をしていた。 (ディアッカと一緒にいたい、なんていったらどう思うだろう) 正直本音はそうだった。 でも、戦うと決めたキラをおいて、 今まで一緒に戦ってきたアークエンジェルがまた戦いに赴こうとしたとき、ここを離れる事ができるだろうか そして、今は自分が生まれたここ、オーブが戦火に包まれようとしていのだ。 迷っている。 「・・・分からない」 「ま、そうだろうな。まだ何にも決められないよな」 意外にもあっけらかんとした声で返事が帰ってきた。 そう言ったディアッカの顔はいつもの顔で、五月蝿く言っていた鼓動もすっと静まった。 ディアッカに自分のことを問われたが、ではディアッカはどうなるのだろう。 釈放されるのだろうか。 釈放されたらディアッカはザフトに戻るのだろうか。 友達の話をしているときのディアッカはやはり懐かしそうに嬉しそうだった。 だから、きっと戻るだろう。 どこが彼の居場所なのだから。 でも、そうしたら、もう二度と会えない。 会えるとしたら、戦場だ。 それは決して再会ではない。 (ここに残ってくれることは・・・ないよね) 可能性のないことにすらすがりたくもなる。 そして、自嘲めいた笑いを浮かべた。 「なぁ、」 「え?あ、何?」 「この艦が地球軍じゃなくなったら、俺の処分も流れるかな?」 自分の気持ちを知らないディアッカはいつもの冗談めいた笑みを浮かべ話をはじめた。 それに合わせようと気持ちを押し隠しながら返事を返す。 「少しぐらいは受けた方がいいんじゃないの?」 あはは、と笑ったにディアッカは肩をすくめた。 「おいおい、もう大分受けてると思うんですけど」 「そうでした」 ディアッカにしてみればここへきて今までのことで大分痛めつけられただろう。 ふざけて話はしているが、自分もディアッカの処分がこのまま流れることを望んでいた。 「ディアッカ」 そばにいて欲しい。 隣で笑って欲しい。 ディアッカの格子に添えられていた手に触れた。 「どうした?」 不安そうなの表情が気になったのかディアッカは心配そうに答える。 は触れた手に力をこめた。 それから立ち上がっていつもと変わらぬ笑顔を見せた。 「休憩、終わるから・・・また来るからね。」 自分の取り越し苦労だったとディアッカは安堵に頬を緩ませる。 「待ってる」 その言葉にも小さく頷いてディアッカの額にキスをした。 がドアの向こうに消える間で二人は名残惜しそうに視線を交わし続けた。 閉まってしまった扉を見つめながら、がいなくなって尚、温かいままの心にディアッカは笑みを浮かべる。 恋愛なんてたくさんしてきたはずなのに、こうも自分のペースがつかめないものは初めてだった。 でも、それが楽しくて嬉しい。 唇に残る感触に胸が躍る。 こういう恋に舞い上がっていた同級生たちを嘲笑っていたが、そうも言えなくなったと思った。 途端に今までの恋が味気なく、恋だったのかさえ定かではなくなるほどだ。 「・・・これが初恋、てか?」 おいおい、と思いながらもディアッカは横になり、満更でもない顔をした。 くるくると変わるの表情をを思い出しくくっとのどを鳴らす。 ふと最後に見せた不安そうな表情が気にかかった。 「なんでもないよな」 何か言いたそうだったのに、それを飲み込んでしまったように感じた。 それを言わなかったのは自分がザフトだから、コーディネーターだからだろうか。 ディアッカは頭を振った。 自分がそんな事に捕らわれていたら駄目だ。 そうではいけない。 でも、一人の人間としてありたいと思えば思うほど、それはしつこく付きまとってきた。 さきほど、地球軍のサイクロプス投入をザフトのせいにした、と聞いたとき、 信じられないほどの怒りが体を駆け巡った。 ナチュラルのくせに、そうはき捨てそうになった。 ディアッカは天井を見つめる。 ここに入れられてから何一つ変わらないコンクリートの天井。 「ディアッカ、あのね。・・・この艦、地球軍じゃなくなるみたいなの」 この艦が地球軍じゃなくなればもう、足つきとは戦わなくなる。 状況は良いのではないかと思った。 しかし、そんなに上手くことが運ぶはずがない。 ディアッカは静かに目を閉じた。 親の 上官の 友人の そして、の声が聞こえた。 すべてを理解するにはあまりに学んでいなかった。 「俺はどうするべきなのか、決めるときなのかね」 自分へ問いかけるようにぽつりとこぼす。 しばらくしてたくさんの声が止み、ディアッカは目を開いた。 |