扉の向こうには抜け殻のようなミリィが座っていた


怖いぐらい最悪の状況に足が鋤くむ

「大丈夫、?」

とサイがあたしの名前を言った時


真っ暗になっていたミリィの瞳が微かに動いた

微かな希望が見える


「ミ…リィ…」


精一杯絞り出した小さな言葉は




それでも




ミリィに届き




その大きな瞳は




ひどく揺れて




あたしを映し




涙を溢した




ミリィは言葉にならない気持ちを伝えようと




手を伸ばし必死に乾いた喉を動かす




気付けばあたしは無我夢中で駆け出していて


ミリィを強く抱き締めていた






弱々しく背中に回されたミリィの手は

それから 強く強く抱き締めてきて

声を上げて泣いた

その指先から

涙から

鼓動から

全てから痛いほど伝わる思いにあたしも涙が止まらなかった





ごめんね、ミリィ










Me too  act5










ゆっくりと呼吸を整える



ミリィとはベッドに寄りかかり肩を並べて座っていた

お互いの涙も収まり

「さぁ、いつまでもこんな所にいちゃ駄目だよ」

と言ってくれたサイには頷くとミリィの肩を抱きながらミリィが調子を整えるのを待っている

サイはあれから黙ったまま向かいのベッドに寄りかかって待っていてくれた






あたしは何をするべきだろう


それはなんて下らない問掛けだったのだろう


答えはちゃんと出ていたのに


あたしは自分が可愛くて


この温かさの大切さを見失っていた


キラがあたしたちにそうしてくれていたように


そして、トールがそうしようとしたように




あたしはミリィを守るのだ







が肩に置いた手に力を込めるとミリィはやっと落ち着いてきた瞳でを見 た

「さぁ行こうか!」

「そうだな」

はにっこり笑って立ち上がり手を指しのべる

サイも近寄って来て手を出した

ミリィは少しだけ微笑んで頷き二人の手をゆっくりと取った






廊下を食堂に向かって歩き出すと騒ぎにぶつかる

兵士達がざわついていた

向こうから揃った足音とふら付いた足音、吐き捨てられたような投げ遣りな声が近付いて来る

たまたま居合わせたトノムラが達に気付いたのか気付かないかは分からないがぽつりと呟いた

「バスターのパイロットか…」

その呟きには反応する

(あの投降してきたGのパイロットだっけ)

ビクリとミリィの体が震える

「捕虜だから平気、何にもしてこないよ」

その慰めがミリィの震える理由と違うと分かっていたがはそういった

一応頷きはしたがまだ震えている

はミリィを隠すように向かい合い、空いた手でミリィの手を握った

足音はどんどん近付いてくる

の手を強く握り返したミリィの手が汗ばんでくる

(これはまさにバットタイミングってやつじゃん)

はサイと顔を合わせ互いにしかめた

文句と足音はどんどん近付いてくる


(頼むから何にもなく終ってよね…)


ただそう願うしかなかった

足音がの隣を通りすぎようとしたとき

「ん?」

声がこちらをむいた

サイが更に達の方へ一歩下がる

ミリィの顔がどんどんこわばる

その様子との背中越しに伝わる緊張感と視線に冷や汗が垂れた

「へ〜この鑑にはこんな女の子もいるんだ〜」

その声色は捕虜と言う立場でありながら軽薄で緊張感のないものだった



驚きはそれだけではない



がこちらに近付いてきた捕虜を横目でみるとその瞳に写ったのは少年だった

あのザフトでGパイロット、どれだけ屈強な男が乗っているのかと思えば

自分ら とさして変わらない年齢の少年

アメジスト色の瞳がこちらを捕えた

(…キラ)

その視線はをスルーして捕虜の関心は完全にミリィに注がれている

「ふ〜ん彼氏に守られてんの」

やっとその瞳がを見たのはそんな台詞の後だった

「なっ!」

思わず掴みかかりそうになった

サイに黙って腕を掴まれる

(…確かにこんな格好だけどさ…)

そっぽを向いて眉を寄せた

少しホコリの付いた作業着を叩く

「あれ〜?もしかしてあんた泣いてるの?」

再度、視線はミリィに戻った

(…ん?)

その言葉で妙な感覚に捕われる

(あ…れ?)

は頭を捻った

しかし、きゅっとミリィが繋いだ手に力を込めたので引き戻されてしまった

ミリィの手は更に震えていた

「ばっかみたい何泣いてるの〜」

ミリィの体がビクリと揺れる


ドクリ


は体の中で何かが動く気がした

「まったく泣きたいのはこっちだっての」

見下した仕草をして鼻で笑った

引率の兵士に促され振り返り歩き出す

サイは我慢しきれない様子で怒りに顔を歪めた

「ーっ!!」

サイが飛び出そうとしてトノムラに止められる

拳はそこで止められたはずなのに

「よせよ、捕虜への暴行は…」

ガンッ

鈍い音が響く

?!」

唐突な事にサイが反射的に声を上げる



が捕虜の少年を殴り飛ばした




視線はに集中する

は何を言うわけでもなく拳を握り捕虜の少年をただ睨み付け口を強く結んで いる

その状況にまわりは驚き唖然とするしかなかった

一番驚いたのは殴られた捕虜の少年で目を大きく開いていた

互いの視線がぶつかり合う

慌てて捕虜の少年に付いていた兵の一人がの前に立った

「捕虜に対する暴行は許可されていない、この事は艦長に報告させてもらう」

「…」

「名前は?」

「… 二等兵であります」

名前を確認するともう一人の兵士が銃を突き付け捕虜の少年を無理矢理起こそう とした

「そら、お前もとっととたて!」

「…ちっなんだよ」

二、三度頭を振ってふらふらしながら上半身を起こす

「殴られれば誰だって痛いのよ」

怒りとも悲しみともとれる表情でがぼそりと呟いた

捕虜の少年は少しだけ瞳を開く

そして銃を払うように体を振るとしゃんと立ち上がった

捕虜の少年は先ほどとは全く違うように口を開かずしっかりと歩み出した

は捕虜の少年に見向きもせずにまたうつ向き下唇を噛み続けていたる






始めて憎しみだけで人を殴った



気持悪いほど頭の中は冷めきっていたのに



振り下ろした拳が酷く熱かった









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