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エレカに乗り込んだ○はいつもと変わらなくなっていた。

さっきまでつながれていた手はあっけなく離され、レイは外気の冷たさを感じる。

自分をどうして連れてきたのか気にはなっていたが、○が元の○らしくなったのでそれは別にどうでもいい問題だった。

「今度は何処へ行くのか教えてもらえるんだろう」

エレカの操作が終わった○がレイの方を見て笑った。

「クライン邸だよ」

「クライン邸?」

「そ、クライン邸」












椿姫
・・・カランコエ・・・










あの戦いの直後は見るも耐えない姿になっていたクライン邸だが、

ギルバート議長率いるクライン派とも言えるべきものたちの活躍で、あの素晴らしい元の姿を取り戻していた。

なれた手つきで門を開ける。

「入るのは初めて?」

「ああ・・・いや、何度か入ったことがある」

レイがそう答えると○は手をあごにやった。

「じゃあ別に面白くないか」

ここに来ようと言ったからにはそれなりの目的があるのだとレイは思っていた。

ここで帰ってしまったらいけないような気持ちになり、何かに迷っていた○に声をかける。

「いや、いい。行こう」

いいの?と首を傾げられ、レイはああと頷いた。

にっこりと笑って再びレイの手を掴んで中を進んでいく。

荒れ果てた庭も壊された家だったクライン邸も今はそんな姿だった事を微塵も感じさせなかった。

レイはその敷地内をぐるりと見わたす。

「随分綺麗になった。元通りだな」

「元通りじゃないよ」

ここまで綺麗になって何が不満なのだろうと視線を向ける。

○は面白くなさそうに口を尖らせていた。

「ここにはもう、あのころと同じものなんて一つもないから」

レイは閑散とした屋敷を見渡す。

何処をどう見ても何も変わらないもののような気がしていた。

「・・・義父さんもラクスもいない。ここはわたしの居場所じゃない」

○がぽつりとこぼした言葉は明らかにレイに言ったものではなかったがしっかりと聞こえていた。

彼女が言いたかったのは外面的なものではなく、内面的なものだった。

レイはかける言葉が見つからなかった。

何を言っても稚拙なような気がして、慰めにすらならない気がする。

「レイ!あっちの庭に行こう!よくラクスとお茶してたテラスがあってね」

ぱっと顔を上げて駆け出した○に手を思い切り引っ張られ、レイも駆け出した。

「そんなに走るな!」

レイがそう声をかけたとき、芝に足を取られて○がバランスを崩す。

慌てて支えようとしたが、掴まれていた手を振り回され、逆に自分もバランスを崩した。

「わぁぁあぁあぁぁぁ!!」

二人は坂になっているところを滑り落ちてゆく。

必死に止まろうと思ったが手を握られたままだったのでそのままされるがままだった。

やっと平らなところまで降りてくるとスピードが緩み自然に止まる。

「あービックリした」

○が地面に手を置いて少しだけ上半身を起こすと下敷きになっていたレイが苦々しい顔をしていた。

レイが何とか○に怪我をさせないために下になって体を抱きしめていたのだ。

「それはこっちの台詞だ。早くどけ」

「はー・・・綺麗な顔しててもやっぱりレイも男の子だね」

その言葉にレイはどきりとした。

突然だったとはいえ○の体を抱きしめていたのだ。

まさかと冷や汗を流しそうになったがそうではないらしい。

「すごい胸板」

右手と頬をレイの胸板に当てる。

心臓がどきどきいっていた。

顔には出さないが聞こえてしまわないか内心ひどく焦っている。

「っ!いいから早くどけ」

レイは無理やり○の肩を掴んでひっぺがすと、しぶしぶ○は隣に腰をおろした。

腕を頭の後ろに持ってきてごろんと横になる。

「あー空が青いねー」

「人工的だがな」

上半身を起こしたレイを見て○は笑い声をあけた。

「なんだ?」

「レイってば芝だらけ!!」

レイは慌てて肩などについていた芝を払い落とす。

その間、ずっと○は笑っていた。

どうだ、と言ったで横になってる○の方へ顔を向けると笑いをかみ殺しながら起き上がりレイの髪に触れる。

「髪にもついてる」

ちょんちょんと髪に触れながら芝を丁寧に取っていった。

ごまかされ続けているような気がした。

レイは意を決して○の手を掴む。

「レイ?」

「何で俺を連れて来た?あの墓地へ、そしてここへ?」

やはり聞かれるだろうと思っていたのか体を起こしてしっかりと座りなおした。

さきほどレイの髪からとった芝生をふっと吹き飛ばす。

「よく似てたから、かなぁ」

「ニコル・アマルフィにか?」

「えーやめてよ!レイとニコルじゃ全然似てないわよ!!」

レイも顔と名前ぐらいは知っていたので、あのふわふわの髪の優しそうな少年とは自分は似ても似つかないと分かっていた。

でも、彼を知っている○が似ているというのならそうなのかもしれないと一瞬でも思った自分がバカだった。

「似てるのはアスラン・ザラだよ」

パトリック・ザラの息子と言うイメージよりも、先ほど○が名前を呟いた少年というイメージの方が強くなっていた。

「どこが?」

「そうだな。すごくしっかりしてて、真面目なのにほっとけないところとか、すごく似てる」

そう言って笑みを浮かべた○を見て、レイははっきりアスラン・ザラという人物に嫉妬していた。

戦争のあといなくなってしまった英雄。

その英雄は彼女に大きな存在として残ていた。

「・・・俺はアスラン・ザラの代わりなのか?」

そんな言葉を彼女に言うのは八つ当たりだと分かっていても口は止まらない。

一瞬唖然とした○はすぐに首を横に振った。

「言い方が悪かったよね、ごめん。似てるだけでレイとアスランは全然違うと思うよ」

「じゃあ、なんで?」

「色々、思ってたけど、一番は多分、あたしが一緒に行って欲しかったんだと思う」

レイは自分の耳を疑ってしまった。

○が自分と一緒に行きたかった、その気持ちだけでプラントまで誘ったのだと言った。

好きだとか、愛してるからだとかそう言った感情で言っていないとは分かっていたが、耳を疑いながらも嬉しかった。

「最初に会ったときからレイは前を見据えてた。すごいと思ったの

 この人はあたしに持っていないものを持ってる。強い人だって。」

言われてわる息はしなかったが、それこそ過大評価だとレイは思った。

「そんなことはない」

そう言うことがあたりまえだった。

レイのそういった姿勢に困ったように笑みを作って背伸びをする。

「あたしね、地球軍に所属してたことがあるってことは知らないわよね?」

「捕虜だったことは知っている」

「捕虜なんかなってないわ。あたしが地球軍に所属していたことは、ザフトの人間を地球軍に所属させたんだから

 お互いの汚名になるわけじゃない。だからそういうものには一切載ってないんだけどね」

結局、大人はそう言うところで汚いと言いたそうだった。

そんな裏があったなんてレイは驚いている。

「そこで敵だと思って戦ってた人たちと会ったの・・・たくさん考えた。決断を誤ったりもした」

レイにはもう○しか見えていない。

風が吹き抜ける。

「でも、結局答えは出なかった」

どうしてここまで悩み続けるのだろうか。

自分を追い詰め続けることでしか償えないと思っているのだろうか。

○は自分を卑下してるんじゃないか?」

レイは厳しい目を○に向けた。

「さっきも言ったが俺は許されていると思うし、答えはちゃんと出てると思ってる」

答えのところで○を指差した。

○は一生懸命生きている。それでいいと思うぞ」

「・・・レイ」

レイは芝の上に横になり○に背を向けた。

「レイはすごいよ。あたしが悩み続けた答えをすぐ出しちゃったんだから」

「俺はすごくない。○より年下なんだ、悔しいけれど」

「そうだ・・・そうだよね。あはは、そうだった」

ふと、思い出したかのように笑い出す。

笑い声はすごく晴れ晴れとしたものだった。

「俺だって○に教えられた部分は多い。」

「本当に?」

「たくさんある。だから、俺は○に出会えて、そういう巡り合わせに感謝している」

「ちょっと・・・そういうの恥ずかしくないの?」

「恥ずかしくないわけあるか」

背中を向けたままのレイの頬が微かに赤いのが分かった。

「あー赤くなってる!!」

「なってない!」

「すごいよーゆでだこみたい」

「なってな」

「レイ」

名前を呼ばれて頬を軽く触れられる。

後ろで座っていたはずの○が自分を覗き込んでいた。

思わず言葉を飲んでしまった。

それから○の顔が近づいてきて髪が頬をくすぐり、そして、唇が頬に触れる。

レイはびっくりして固まってしまった。

「おまじない。ラクスがよくやってくれたの」

頬がやけに熱かった。

心臓が破裂するのではないかと思うほどどくどくいっている。

きっと顔は本当にゆでだこのようになっているだろう。

「また、必ず会えるように」

そして、今までで一番綺麗な笑顔を浮かべた。


「あたしの方こそレイに会えてよかった。ありがとう」










彼女は赤い花だった。

記憶の隅に残る雪の上の椿のように鮮やかだった。


彼女は確かに様々な過ちを犯したのかもしれない。

それ以上にたくさんの辛い事があったと思う。

でも、生きていてくれた。

生きて自分と出会ってくれた。

それがただ嬉しい。

もし、道を誤ったと嘆いていたら、自分も共に考えよう。

自分の罪を償いきれていないと言うのなら、自分も共に償おう。

彼女の為に。

かつてそうした人たちがいたように。

今もそうしている人たちがいるように。

共にあろう。


他人がどう思うかは分からない。

でも、それが自分の○へのまだ伝えられない想いなのだ。





END


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